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隠し通路

「これで良かったのかですって?

 ええそうよなーんにも問題ないわ!

 おほほほほ!」


 礼拝堂に戻ったドゥミ嬢はそんな調子で高笑いを始めた。


「あれだけの痴態を曝しておけば私の正体は誰にも悟られませんもの! ねぇ!」

「……ま、まあね」

「なんでしたっけ、祐樹!

 私の〝属性〟」



「〝逆襲待ちマゾ〟」



「そうよ、それそれ!

 うふふふ、私にぴったりだわ!」

 ドゥミ嬢は嬉しそうにくるくる踊る。自己嫌悪で完全に自分を見失っているなぁ。

「さあ祐樹、靴を舐めなさい。

 それが嫌なら私を押し倒すといいわ!

 オーッホッホッホッホ……――――、」


 ゲラゲラ高笑いしていたドゥミ嬢だったが、だんだんとその声はしぼみ、そして、


「……はぁ…………っ」


 とふかーいため息をついた。

 参拝席に崩れるようにして体を預け、


「……あはは。もう死にたい」


 と、今度は力なく笑った。

 なんと声を掛けたものやら……。

「祐樹さん、ごめんなさい。

 あなたにまで恥をかかせてしまったわ」

「いやまあ、俺はいいんだけどさ」

 どっちかっていうと美味しい思いをしてるし。

「お嬢様は大丈夫なの?」

「どうせ架空の身分ですから。

 どんな噂が立ってもお淑やかなローゼの名誉は傷つきませんし。

 あとは今の私のメンタル次第です」

 と、薄弱な笑顔で言った。

 まあ。こうなることが予定済みの作戦だったからなぁ。

 予想以上にショックがデカかったからと言って今さらガタガタ喚いても仕方ないのだが、そこは女の子なんだし……、

「時間が解決するよ」

 と慰めた。

「そう……ですよね」

 ドゥミ嬢はゆっくり頷くと薄ら浮かんだ涙を拭い、立ち上がった。

「ありがとうございます。

 ちょっとだけ気持ちが晴れました」

 良かった。少し回復したみたいだ。

「そう……。

 時間が解決してくれますよね。

 ドゥミがどんなに破廉恥お嬢様でもつまるところ私には関係ないし。

 大勢のメイドの前で暴露した私の性癖もどうせドゥミに擦り付ければいいんだし。

 これから三日間メイド達からきっと〝うわー、下男の脚に犬みたいに縋り付いてた変態お嬢様だー〟っていう目で見られ続けれけても知らぬ顔で耐え続ければいいんだし。

 その噂は屋敷の中を戦場の狼煙より早く絶賛情報展開中だろうし。

 そういえば目の前の殿方にも変態行為を見られているような気もするけどもうそれは自分の中で無かった事にするしかないし。

 そもそも自分で自分のフェチズムにびっくりして卒倒寸前っていうかあははははー」



 オイマジか。

 ちっとも回復してないぞ。



 ドゥミ嬢はまたうふふおほほと芝居じみた笑い声を纏ってクルクル踊り、

「祐樹さん乾杯しましょう!

 新しい私にきゃっほーい♪」





 ……しばらくそっとしておこう……。





 俺は錯乱ダンスを続けるドゥミ嬢を尻目に、礼拝堂の中を見学することにした。

 ステンドグラスの意匠や、偉人か天使のよくわからない像、細部の細工等々。

 そんなのを見ながら歩く。


「ん?」


 最奥の祭壇に登った時だ。

 俺はブドウのレリーフが施された壁に、わずかなズレがあるのを見つけた。

 何となく、彫刻の凹凸部が取っ手になる様な気がするな。


 俺は試しにそこを引っ張ってみる。


 ガコン!


 ……やっぱりそうだ。

 一見するとただの壁に見えるが、分厚い板一枚がすっぽり抜け、その先には空洞があった。

 地下へと続く階段だ。


 おっと。

 これはなんか見つけちまったっぽいぞ。


「ドゥミお嬢様!」

 俺が呼びつけると、現実逃避に浸っているお嬢様は

「ふふ、この痴女に御用でしょうかー?」

「もうその流れいいから、こっち来て!

 ……隠し通路見つけた」

 するとドゥミ嬢の顔つきも一変し、真剣な表情で駆け寄ってきた。

「礼拝堂にこんなところがあるなんて」

「なんだと思う?」

「地下倉庫か……あるいは、宝物庫か。

 いずれにせよ屋敷ではなく礼拝堂に造ってあるというのは不自然な気がしますわ」

「スパイの証拠があるかな?」

 俺の質問に、お嬢様は「わかりません」と唸った。

「行ってみる?」

「ええ、でも。

 そうしたいのは山々ですが……」

 ドゥミ嬢はスカートの裾をつまみ、

「このドレスを汚してしまっては怪しまれますし……」

 確かに、お嬢様のドレスでは潜り込むのは不向きだな。汚れから、ここに潜入したって勘付かれるのも良くない。

「わかった。

 まずは俺一人で行ってこよう」

 E:IDフォンの『アイテム』項目から懐中電灯を呼び出しながら言った。

「お嬢様はここで待っててくれ」

「わかりました。

 くれぐれもお気を付けて」






 通路からはひんやりとした冷気が漂い、日の光は全く入って来ない。

 懐中電灯で道を照らしたが、通路は結構な広さがある。壁は石積で固められていて、上部には灯りが備え付けられている。

 人が通行するための場所には違いないようだ。





 侵入してから5分ほど経っただろうか。

 深入りしすぎて戻れなくなるのも良くないな……そう思い始めてたころに目の前に人影が現れてギョッとなった。


 が、よく見るとそれは壁に据え付けられている甲冑だった。

 チェーンと楔で固定されているから中に人が入っているなんてことは無いだろう。


「脅かすなよな……」


 そう言って胸を撫で下ろしたところで、


『WARNING!!』


 スマホが警戒音を放った。


『モンスターが周囲にいます。

 警戒してください』


 ばきり、ばきりと音が鳴り、拘束用のチェーンが千切れ、甲冑が動き始めたのだ。


 こいつ、モンスターだッ!!


「おいっ! 『アイテム』!

 〝騎士の剣〟! 装備だ!!」

 俺はE:IDフォンに矢継ぎ早に叫んだ。


『ready……equip!』



 俺が剣を握ると同時に、甲冑は鉾を振り下ろす。

 寸でのところで切り払う……つもりが、相手の力で易々と剣を落としてしまった。

 拾い上げてたらあの鉾先に貫かれるな。

 俺はさらに距離を取り、


「〝鉄屑の剣〟!」


 次の武装を構える。

 

 こいつでさっきのを喰らったらぽっきり折れてしまう可能性が高い。持っていても気休めにしかならないぞ。甲冑はお構いなしに距離を詰め、次の一撃を放ってくる。


「ひぃっ!」


 と、短い悲鳴を上げて回避する。

 このままさっさと逃げたいけど、背中を見せる余裕はなさそうだ。

 全力疾走中に後ろから刺されるとかシャレにならない。

 かといって、残念ながら普通の高校生の俺にはこいつを倒す力は無い。


 ――ならこれしかないなッ!


「『スキル』!

 〝サラマンダーカノン〟!」


 俺はE:IDにそう命じた。



 ……が。



『ERROR……』

「はぁっ!?」

『使用条件に不適切なコマンドです』


 電池残量は……80%。


「撃てるはずだろ、なんでダメなの!?

 ――うわあっ!」

 俺が攻撃を避けながら抗議すると、

『How to use……サラマンダーカノンの発射は広い空間を必要とします。スキルの不適切な条件下での使用はロックされています』

 確かにあんな大砲を屋内で発射したらタダじゃ済まない。

「アタマ良すぎだろ……ッ!」

 だが、だからと言って今使わなければこのままやられてしまうだけだ。

「ロック解除して!」

『あなたのレベルではロック解除は認められません』


 バキン!


 咄嗟に防御に使った鉄屑の剣がぽっきりと折れた。

 これでめでたく丸腰だ。


「なんとかして! 死んじゃうっ!!」

『最善策を検索しています……』

「早く早く早くッ……ひぃぃッ!」

 こっちに武器が無いのを理解しているのか、甲冑の追撃がどんどん激しくなる。




『検索終了。

 適切なスキルを解放します』


「新しい〝スキル〟?」


『ready

 〝ストライク・バブル〟

 Emulator set up!』




 ぱんっ!



 突然目の前で、相手の鉾が弾かれた。

 俺の周囲をすっぽり囲うように、球体状のバリアが現れてはじき返したのだ。

 相手は攻撃を繰り返すが、球体はぽよんぽよんとはじき返して通用しない。

「こ、これは……」


『How to use……ストライク・バブルは泡を操り、攻撃、防御に使用する能力です』

 そう言って画面に使用例が幾つか、イラスト付きで表示される。


「ええっと……バリアを解除しながら攻撃もできるのか……。良し!」


 俺は試してみた。




「〝爆ぜろ〟!」

『action!!』




 ぱかんっ、とバリアーが膨張し、風船が割れるように爆ぜる。

 その衝撃で近接していた甲冑は大きく仰け反った。


「えぇっと、こう、手を突き出して……。

 〝ジェット・ジャグジー〟!」

『action!!』

 お次は俺の伸ばした腕から、無数の泡が放水車かの如く噴出する。

 たまらず甲冑は後退し、しかも腕の一部が外れて鉾を落とした。

「助かったけど、いまいち決め手に欠けるスキルだなぁ……。

 あとなんかトドメっぽいのは」

 使用例の一つに、こんなのがあった。


『内圧で敵の装甲を剥がす』

「これだ!」

 ジェット・ジャグジーを止めると、敵は拳一つで反撃に詰め寄る。

 その胴体に向かって、もう一度拳を突き付け、バブルを発生させる。

 今度は防御用ではない。

 甲冑の継ぎ目という継ぎ目に泡を次々発生させたのだ。

 ……そして。



「〝爆ぜろ〟!」

『action!!』


 ぱーんっ!

 泡が一気に膨張して弾け飛び、炸裂音を鳴らしながら甲冑の装甲を引っぺがした。

 鎧そのもので出来てる物体がこれを喰らえば必殺だ。


 バラバラに散った甲冑の中から、魔源が落下して地面に転がった。



「……ふー」

 助かった。

 ホッとひと息をついたその時。



「〝ランプ〟」

「え」





 誰かがそう唱えて、上部の灯りが一気に燈る。周囲の景色が一気に明るくなったぞ。

 やべぇ見つかった!

 俺の血の気がぞっと引く。

「……どちらさまでしょうか?」

 不審者を咎める口調で、通路の向こうから女性が歩いてきた。



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