魔界の勢力たち
次期魔王候補たる七候補の一人ガイアス・ウォーレットが同じく七候補のドラグニア・ランフォードの配下に加わったという衝撃の事件は魔界中に広がった。
なぜなら、これによって魔界の勢力図は大幅に塗り替わった訳であり、他の七候補たちにとっても無視できない大事件である。
薄暗い神殿の最奥。そこにある玉座で部下の髑髏兵から報告を聞く神殿の主。
「ほぅ、あの惨殺の姫君がのう……」
豪華なローブを羽織った黄金の髑髏――七候補の一人、死神大王シン・ミクトランは意外そうにその報告を聞いていた。
それもそのはず、彼の知る惨殺姫ドラグニア・ランフォードとは、孤高にして絶対強者。
彼が知るかぎり、彼女が部下を持ったことなど一度もない。
なのに今回、自分と同じ七候補を配下にした。
シンもドラグニアとガイアスが戦いを行うことを知っていたし、それによってドラグニアが勝つ可能性を考えていなかった訳ではない。だが、あの最凶姫が敗者の命を取らないなど……
「早急に策を練らねばならんかの……」
シンはドラグニアへの評価を自分のなかで前より一段階高くして評価する。
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生物の生存を許さぬ極寒の地に建てられた場違いな洋風の屋敷。
その屋敷のなかに怒号が響き渡る。
「そんな、馬鹿な!」
オジリアは憤怒しながら立ち上がる。
ガイアスが小娘の僕となったことで、魔王への王手を自分よりも先に小娘がかけたという事実がどうにも気に入らない。
白髪まみれの金髪をした、初老の彼――オジリア・ランフォードは、七候補の一人にして前魔王ドラグニオス・ランフォードの弟。
そしてドラグニアにとっては叔父にあたる。
傲慢たる彼は考える、自分こそ新たなる魔王に相応しいと。
前魔王ドラグニオスよりも小娘よりも。
かの惨殺姫は前魔王の娘ではあるが、あれは人間の女を母に持つ愚物。
魔王に相応しい訳がない。
本来ならば、兄が死んだ時点で自分が魔王になって当然のところを……兄の遺言によってこうして魔王選別戦争なる遊びに付き合わされることになった。
本当に忌々しい、死してなお自分の邪魔をする。
父も父なら、娘も娘か。
せっかく自分が武神ガイアスと戦わせたというのに……
オジリアの計算では、小娘とてガイアスが相手ではたとえ勝てたとしても消耗は避けられない。そこをたたく算段だったというのに……
結果はドラグニアの圧勝。しかも馬鹿が配下になるおまけつき。
忌々しい、どこまでこの親子は私の邪魔をすれば気が済むのだ。
「しかたない、『また』やつらに協力してもらうか」
ようは魔界中の馬鹿どもに自分が相応しいと分からせれば良いのだから。
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城全体をピンク色に統一された淫猥なる淫魔の城。その寝室の豪華なベットで、寝そべりながら配下の淫魔から話を聞いている、これまたピンクの髪と瞳を持つタイトなドレスの女性。
淫魔の女王シルフィーナ・ローレンツ。
「ふぅん、あのニアちゃんがねぇ……」
淫魔族の女王はつまらなそうに感想を声にする。
彼女は魔王になってやりたいことというものは無い。
しいて言えば、世界中の美しいものを自分のものにすることだろうか?
たとえば、美姫とか。
ドラグニア・ランフォード、美しい姫君。
彼女を自分のものにすることこそ今回の戦争の目的であり、魔王の座などついででしかない。
その景品がガイアスとかいう野蛮人を配下にしたらしい。
……気に入らない。
ドラグニア・ランフォードとは、孤高でなくてはならない。
孤高であるからこそ、美しい。
「これは、お仕置きが必要かしらね、私のニアちゃん」
彼女はうっすらと嗜虐的な笑みを浮かべながら準備をはじめた。
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ここは常夜の都、魔界でも上位クラスの者のみが暮らすことを許される特別な場所。
そのなかにそびえ立つ中華風の偉大なる城。
しかし、その城には一人しか住んでいない。
アルトゥーレ・ルシファー――最強吸血鬼ただ一人。
「ククク、あいつが部下ねぇ……」
煙管を咥えながら、彼は笑う。
魔界最強種族、吸血鬼その王たる自分にとって、戦いとは常に退屈なものだった。
……あの時までは。
ドラグニア・ランフォード。
かつて一度、自分と引き分けた相手。
彼女との決着をつけることこそ、彼がこの戦争に参加する理由である。
その彼女が配下を手にしたらしい。
だが、彼にとっては大したことではない。
彼にとっては雑魚など有象無象に過ぎないのだから――。
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魔の森の深層部。
ここに来たものはきっと自分が小人にでもなったような気分を味わうはずだ。
なぜならば、ここは巨人たちの世界なのだから。
「これはこれは、意外な展開ですねぇ」
少年のような見た目に反してねっとりとしたしゃべり方をする彼――巨人族の王ロキは、へらへらとした態度で戦況を把握していく。
ロキは巨人族であるにも関わらず、人間くらいの大きさしかないが、その膨大な知識と知恵を駆使して幼くして巨人族の王となった。
彼は手に持つ水晶で魔界中の状況を見ることができるのだ。
「ふーむ、しかしこれによって他の勢力も動き出しそうですし、結果オーライですかねぇ……」
そして彼は再び動き出す。
さらなる混乱をもたらすために。