神界大戦争
レオンはアルトゥーレを見やり先ほどの戦いを振り返る。
先ほどのあの魔法……たしか「黙示録」とか言ったか、あの魔法は危険だ。
あのとき、アルトゥーレは雪姫の「氷結牢獄」と相殺するために発動させたが、相殺するために本来の「黙示録」を劣化させて使用した疑いがある。
それだけではない、あの一閃のあと、雪姫の支配がレオンの手を離れているのも気になる。
本来「死せる戦士たちの館」は死者を半完全蘇生させて使役する魔法だ。
術者が魔法を解けば使役魔と化した死者は消滅するはずだが、それすら起きていない。
考えられるのはあの剣、もしくはアルトゥーレの能力による干渉が働き、こちらの魔法を書き換えたということだろう。
その神業をあの一瞬で可能とするアルトゥーレの実力は勇者の解析能力をもってしても未知数。
本来なら危険なんてレベルではないだろう、本来なら。
だが、神王の肉体との最適化を終えた今、自分が負けることは無い。
レオンは勝利を確信し、アルトゥーレと対峙した。
アルトゥーレはレオンを見やる。
その姿は先ほどとは違い、勇者レオン時代の姿になっている。
それはつまり、肉体と精神がかなりシンクロしているということだろう。先ほどとは比べることもできない圧倒的存在感を内包している。
だが、それでこそ、それでこそ倒しがいがあるというもの。
アルトゥーレは数千年ぶりに勝算の見えない戦いに身を投じた。
雪姫はレオンを見やり、その危険性に身震いする。
これから始まる戦いはこれまでの戦いすら霞むほどの激戦となるだろう。ならば、自分はアルトゥーレとともに最後まで戦うのみ、それがたとえ敗北の未来だとしても。
アルトゥーレ一気に間合いを詰め、レオンに向かって剣を振る。レオンはそれを自らの剣で受け止めた。
四宝剣とレーヴァテインが激しくぶつかる。
剣と剣がぶつかる一瞬を突き、雪姫の「氷結牢獄」がレオンを捉える。
大氷結によって氷山の中に封じ込められるレオン。しかし、すぐさま内側から氷山が焼き付きされる。
レオンの放った遠距離からの炎斬撃、「聖炎絶衝波」が雪姫を襲う。100の神速斬撃波の内、64の斬撃を剣と魔法で相殺し、32の斬撃をかわす。だが、残り4つがかわし切れず、雪姫の身を切り裂く。
地面に落下する雪姫。
彼女が地面に衝突する瞬間、アルトゥーレが少女を受け止めた。
だが、それはレオンの読み通り。二人にレオンの放った落雷が直撃する。
レオンは笑みを浮かべて彼らに止めを刺そうとした瞬間、突如衝撃がレオンの頬を貫いた。
その衝撃で、地面に叩きつけられるレオン。
「ぐっ……誰だ!?」
受け身をとり、衝撃を吸収したレオンは即座に起き上がり、先ほどの衝撃の正体を確認する。
そこにいたのは、二人の魔族。
ガイアスとシルフィーナ。
「レオンハルト、貴様だけは許さん、覚悟せよ!」
「そうね、馬鹿と同意見と言うのは癪だけど、あなたはここで殺してあげるわ」
二人のほかに人物が――ドラグニアがいないことを確認し、レオンは笑みを浮かべる。
「そうか、惨殺姫は自分の命より、部下を選んだか、あははは、これは傑作だね、つまり君たちは主の命と引き換えにノコノコ生き残っちゃったわけだ」
「「殺す!!」」
すさまじいエネルギーを放つ二人。
ただでさえ強力な二人が「邪神降臨」で力を増しているのだ、これを脅威と言わずにいれようか。
レオンは険しい目つきで、状況を見やる。
先ほどまで満身創痍だったアルトゥーレと雪姫も今のやり取りの内に回復を終えてしまっていた。
状況は最悪なのにレオンの表情はどこか余裕を感じられた。
「あは、あははは、驚いたな、まさかここまでこの僕が、神が追い詰められるなんて……
それじゃあ、こちらもそれ相応の力を見せてあげようか。
聖の極み、究極の魔法をねぇ!! レーヴァテイン最大解放!
受けてみよ、最終魔法『神々の黄昏』!!!」
世界を包む絶望の光。
その光がすべてをのみこもうとしたそのとき、
「甘い、攻性粒子排除、続けて、魔法のマナへの再変換開始!」
終末の光が掻き消えた。
その瞬間、次元の壁に亀裂が走り、次元震とともに出現する美しき姫君。
ドラグニア・ランフォード、聖魔の惨殺姫が降臨した。




