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聖魔の惨殺姫  作者: マシュマロ悪魔族
最終章 魔王VS神
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新谷健一

 何とも言えないボロいアパート。

 先輩から逃げ切ったオレは、自分が暮らすアパートにたどり着いていた。

 ドアに手を伸ばし、開けようとするが、そこはまあ鍵がかかっており開くことができない。

 だが、ブロックの隙間に確か……お、あった!

 オレは見つけた合鍵でドアを開けた。

 そこに広がる景色……うん、ボロい。

 それは間違いなくオレがあの世界に行く前のままの光景がそこに広がっていた。

 脱ぎ捨てられたままたたまれてない服、ゴミの日を忘れてそのままになったゴミ袋、そしてあの日、すべての始まりとなった布団。

 そこにはあの催眠の本が置いてある。

 オレは急いでその本を拾い、ページを開く。

 だが……


「嘘だろ……何も書いてない!?」


 そこには白紙のページが永遠と続いていた。

 オレは唖然として、そして絶望に立たされた。

 部屋に置いてあった鏡を見つめる。

 そこには元のオレとは似ても似つかない金髪の少女が見つめ返している。

 ……正直、この少女をオレの親戚だと考えられる先輩は結構天然かもしれない。

 オレはオレだと誰も分かってもらえない世界でこれから生きていかねばならないのだ。


「そうだ、ドラグニオス、おい、居るんだろう、返事をしろ、してくれ!!」


 オレは背中から剣を抜き、オレとともに落ちたドラグニオスに向かって声をかける。

 しかし、オレの期待する能天気な声は聞こえてこなかった。

 終わった、これでもうジ・エンドだ。

 オレが自暴自棄になりかけたそのとき、


「おい、またお前はすべてを諦めてワタシにすべてを任せるつもりなのか?」


 その声に気づき、振り返る。

 そこにいたのは……


「ふん、こうして会うのは初めてだな、はじめましてと言っておこうか、ワタシ――いや、オレの名は新谷健一、かつて『惨殺姫』と呼ばれていた者だ」


 新谷健一――オレがそこにいた。

 驚愕するオレを見て鼻で笑う『彼』

 そんな、馬鹿な……どうして……


「むっ、まさか、お前……今の状況が理解できてないのか。

 ……仕方ない、そこから説明せねばならんか」


 そう言ってオレの姿をしたそいつは説明をするため、部屋に置いてある布団を外したコタツに尻を置く。

 その話はオレの常識を覆す内容だった。


「まず、お前とワタシが入れ替わったのは今から……そうだな、お前の体感では10年くらい前になるのだろうな」

「なっ、ちょっと待て、10年前って言うとオレが15歳のときだぞ。

 入れ替わったのは少なくとも数か月前のことのはずだ」

「その前に入れ替わってるんだよ、オレが中学の夏にな」


 彼が中学の夏、田舎の祖父の蔵で見つけた古い書物、それを開いた瞬間、彼とオレは入れ替わったという。


「ほんとに驚いたぞ、入れ替わった瞬間目の前にいたのは血を流して倒れている母上……いや、アリシアの姿と、オレに剣を向ける狂った勇者様だからな」


 彼によると、オレが母――聖女アリシアの死を目の当たりにしたショックで、あちらとこちらに何らかの世界干渉が発生し、お互いの精神が入れ替わってしまったのではないかという。


「まあ、ワタシが半狂乱になって逃げているうちに魔王ドラグニオスがやってきて勇者レオンハルトは死亡、ワタシは事情を魔王に説明して難を逃れたわけだ」


 魔王は妻の死と行方不明になった娘の精神に悲しみつつも彼を受け入れ、彼はその後ドラグニアとして長い年月を生きてきたらしい。

 そして魔王選別戦争のさなか、再び入れ替わり、元の身体に戻ったのだという。


「というわけだ」

「信じられない話だ、だってオレには中学生前の記憶だってあるんだぞ!」

「それはそうだろう、入れ替わったって脳はそのままなんだから」


 彼曰く、記憶を探ればその肉体の記憶を得られるそうだ。

 そんな馬鹿な、だって入れ替わってからそんなことできなかったぞ、と言うと彼は「それはお前が出来ないと思っているからだろう」と言ってくる。

 マジかよ……オレの苦労って一体……

 オレがorzのポーズをしていると、彼は再びオレに問いかける。


「それでお前はこれからどうするのだ、ドラグニア・ランフォードよ。

 再びワタシと入れ替わり新谷健一として生きるか、それともドラグニア・ランフォードとしてレオンハルトと戦うか」


 新谷健一として元の生活に戻る……それはあの世界で魔王選別戦争を戦い抜いた理由にして目的、戻りたいという気持ちは今でもある、だが、だがしかし……


「オレは……オレはあの世界が好きだ! ガイアス、シルフィーナ、オレを待つ魔界のみんな……初めは物騒な世界に来ちまったって思ったけど、だんだんオレはあの世界を気に入っちまったんだ、その世界をもし、本当にレオンが壊そうってんならオレはヤツを絶対ゆるさない!」


 オレは力強くそう答える。

 すると男は笑顔を浮かべる。


「だ、そうだ、これで満足だろ、出てくるがいい、母上、父上」


《成長したわね、ニア》

『な、言ったろ、あいつなら大丈夫だって』


 その瞬間、白紙のはずの本が光り輝いた。

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