平社員の困惑
「ドラグニア様、どうですか我が軍は?」
ガイアスさんがこちらに聞いてくる。
オレは目の前に広がる光景に絶句する。
いやいや、どですかって……ねぇ。
日本の道場のような場所に集められた、見渡す限りの鬼たち。
皆、一目で分かるほどものすっごい屈強な体をしている。
ガイアスによると彼らは鬼人といって、子鬼や大鬼たち鬼族の中でも上位に位置する者たちらしい。
それがオレに紹介するためにわざわざ招集をかけたというんだから、なんかもう、どーにでもなれ! って気分である。
「皆の者、聞いての通り、オレは彼女ドラグニア・ランフォードを我が生涯の主と決めた。
ゆえに、お前たちに選ぶ権利をやる。
オレとともに彼女に仕えるか、それともここを去るか。
オレは強制しない。
これはオレの勝手で決めたこと。
さあ、返答は!」
道場にガイアスの力強い、決意の込められた声が響き渡る。
そしてその声に応えるかのように、迷うことのない鬼たちの声がこちらに届く。
「そんなのきまってらぁ!」
「俺たち、どこまでもあなたについていきます!」
「新たなる主、ドラグニア様に敬礼!」
こうして、オレはガイアスと鬼たちの主となったのであるが……
どうしてこうなった?
オレは、荒野でのガイアスとの会話を思い返す。
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「ドラグニア様、どうかこのオレをあなた様の配下にしてください」
おっさんが何だか決意の眼差しでこちらを見ている。
ちょっとまて、てか、ドラグニアって誰のことだ?
え? ひょっとして、オレ!?
そこではじめて自分のからだに違和感を覚えた。
華奢な手、漆黒のドレス。
てっおい! ドレスってなんだよ、ドレスって!!
ま、まさか!?
オレはスカート越しに股間を抑える。
「な、無い……」
これまで20年以上ともに過ごしてきたオレの相棒がそこになかった。
間違いない、オレ、女になってる……
オレがorzしていると、ガイアスが、「ど、どしましたか?」と聞いてきた。
その声で現実に戻ることができた。
いかん、いかん、今は話を聞かねばいかんのだ!
「なんでもない、それより、オレの配下になりたいとのことだったが……お前、オレのこと殺そうとしていたよな?」
「はい、確かにオレは魔王候補として、あなた様と戦いましたが、そこで確信したのです。
あなたこそ新たなる魔王にふさわしいと!」
あれ、なんかこいつ今すごい重要なこと言わなかった?
魔王候補だとかなんとか。
話を整理しよう。
まずこいつがオレを襲った理由、それはこいつが魔王候補だからだ。
ここまではOK。
ではなぜ魔王候補だとオレを襲わなければならないのか。
その答えも推測できる。
こいつは言ってた、「あなたこそ新たなる魔王にふさわしい」と。
つまり、なにかい、俺もまたその魔王候補とやらであるということかい?
なんてこったい、異世界にきたら女の子になっていて、しかも魔王候補でしたってか!?
それってなんてハードモード?
ちらっと、おっさんのほうを見る。
おっさんは「それで返答は?」とでも言いたげな顔でこっちを見ている。
どうするか……この大男を信じて本当にいいのか? こいつはオレに襲い掛かってきたんだぞ。
だが、こいつ以外今は頼れそうなやつもいないし……
まあいっか、こいつ一人くらいなら。
「うーん、分かった、配下ね配下。
まあ、好きにしたらいいよ」
「本当ですか!
では、我が配下の者にも伝えねば!」
めちゃくちゃ嬉しそうに喜ぶガイアス。
……あれ、今、配下が何ちゃら言ってなかったか?
オレは今とんでもない約束をしてしまったのでは……
「ぜひ、主様にもご一緒お願いします!」
ああ……やっぱり今の無しにできないかなぁ。