最強の挑戦者
レオンはアルトゥーレと対峙する。
そして思い出すのはロキとアルトゥーレの戦い。
かつてレオンと分離した存在であるロキであるが、その記憶と経験は共有していた。ゆえにアルトゥーレの危険性を十分にレオンは理解していた。
融合を強制的に終わらせたことで、神種の肉体との適応率は今だ30%程度。能力をすべてを適応に回したとしても完全適合にはあまりに時間がかかりすぎる。
最悪のタイミングで警戒する二人の内の一人と対峙してしまった。
だが――だがしかし、時間が無いのであれば稼げばいい。最強の挑戦者を上回るだけの時間を。
「やあ、最強吸血鬼さん、この前はもう一人の自分が世話になったね。
改めまして、僕の名前はレオンハルト・ドミニオンです。
短い時間ではありますが――どうぞよろしくお願いします」
丁寧にあいさつをするレオン。
最強吸血鬼はそれを一瞥すると、「そうか、まあいい、俺も他人となれ合うのは好きではないしな」と言って「魔剣創造」にて生み出した漆黒の剣を構え、戦闘態勢に移る。
一瞬、0コンマ一秒でいい、最強吸血鬼から隙を作ること、そうすれば詠唱破棄によってあの術を使うことが出来る。
レオンも神剣を構えて戦闘態勢になる。
吹きすさむ神風を合図に激突する神と吸血鬼。
初見にもかかわらずあっさりと聖剣技「聖炎絶衝斬」を見切り、レオンの腹に一文字の奇跡を描くアルトゥーレ。それに遅れてレオンから鮮血が噴き出す。
剣閃の一瞬、後方にずれていたのが幸いした。そうでなければ今ので本当に死んでいただろう。ロキの経験が役に立った。
しかし、やり取りで分かったことは今のままでは勝てないという事実である。やはりあのときの力は本来の力の半分にすら届かないものだった。
やはり肉体の適合が終わらなければ勝ち目はない。しかしその隙がまったく見えない。ほんの少し、一瞬でもいいのだが、それすら叶わないとは……
「ふぅん、どうした、神種の力とはこの程度なのか?」
アルトゥーレの言葉に唇をかみしめるレオン。
(慌てるな、時間を稼ぐ手段は何も剣だけではないんだ……)
思考を極限まで加速させ、考えるレオン。
ロキが手に入れてきた魔界の情報で何か役立つものは……
(あった、あったじゃあないか。
これならば、すべて上手くいく)
レオンは薄く嗤い、そっとその言葉を口にする。
「……ユキに会いたいか?」
その瞬間、アルトゥーレの動きが止まった。
それとともに発動する禁断の英知。
世界の時間が終わりを告げた。
「ははは、今から会わせてあげるよ、神術『死せる戦士たちの館』!!」
降臨するは壮大なる永久の館。
その門から現れたのは一人の少女。
雪姫・ルシファー、もう一人の最強吸血鬼であった。




