ガイアスの決意
激しい爆炎の後、勝利したのはオレのほうだった。
《よく――ましたね、――》
さっきの声だ。
しかし、なぜかノイズのようなものがさっきより強くなっており、うまく声を聞き取ることができない。
《残念ながら――はなし――ここまで――ようですね》
待て、あんたは一体……
《わたしは――》
そこでこの不思議な声は途切れた。
あの声はなんだったのだろうか。
そんなとき、爆炎の中から「うう……」といううめき声が聞こえてきた。
どうやら、あのガイアスとかいう大男が生きていたようだ。
……ふぅ、仕方ないな。
オレは爆炎の中心地に向かって歩き出した。
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オレの名はガイアス。
元魔王軍総大将にしてこの魔界の七人の魔王候補の一人である。
そして、たった今、オレはその王位継承戦争に敗北した。
自分でも笑ってしまうほどの大敗北である。
相手の名はドラグニア・ランフォード、前魔王の娘。
惨殺姫と呼ばれるほどの冷酷さと残酷さ、そして、圧倒的なまでの力の持ち主。
オレはこれまで魔王軍総大将として、自分を極限まで鍛え上げてきたと自負している。
しかし、あの少女はそんな自分の遙か遠くに存在していた。
不思議と悔しくはない。
悔しさすら感じることができないほどの大敗だからだ。
だから、オレがこれから死ぬことも当然のことと受け止めることができる。
オレはゆっくりと目を閉じ――
「ふう、やっと見つけた」
オレはその声を聞き、驚いて、目を見開いた。
声の主はドラグニア・ランフォード、先ほどまで戦っていた相手が目の前にいたのだ。
「とどめを刺しに来たのか?
そんなことをしなくてもオレはもうじき死ぬぞ?」
「いや、そうじゃなくて……ああもう、めんどくせぇな!」
そういうと、少女はオレの腕を肩に持ち上げるとそのまま立ち上がった。
「な、何を!?」オレは疑問をぶつける。
「うるせぇっての!
いいから黙って、助けられやがれ!」
少女の答えにオレは驚いた。
助けるだと?
誰を?
オレをか?
なんなんだ、こいつは。
本当にあのうわさに聞く惨殺姫なのか?
オレは彼女の美しい顔を眺める。
彼女は真剣な眼差しで、一歩一歩、歩き出した。
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なんとか爆炎の中から、あのおっさんを運ぶことができた。
炎の中は熱いかと思ったが、いざ入ってみるとオレの周囲に薄い結界のようなものが守っているようで、そのおかげで、熱さを感じることなく歩くことができた。
で、肝心のおっさんであるけど、どうやら炎の中から出ると自分の自己修復能力が発揮されたのだろう。徐々にではあるが、傷が回復しているのが分かる。
もう命の心配はいらないだろう。
でだ、オレがこいつを助けた訳。もちろん現状を確認するためだ。
ここがどこだとか、どうしてオレを襲ったのかとか。
何も分からないと動きようがないからね。
「ドラグニア様、どうかこのオレをあなた様の配下にしてください」
……はい?