VSオジリア戦
作戦は上手くいった。
上手くいき過ぎた。
なんだ、これ。
ガイアスはすさまじい勢いで巨人たちを粉砕していくし、シルフィーナは一瞬で敵の軍勢を丸ごと自分のものにしてしまう。
もはや何かのコントのようだ。
オレは戦場が混乱する瞬間を待っていたわけだが、思わずふいてしまったわ!
だが作戦どうりだ!
オレは早速、オジリアの方に向かうことにする。
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「馬鹿な……そんな馬鹿な!
何故配下どもがワシに弓を向ける。
巨人どもは一体何をしておるのだ!」
オジリアが激怒する。
それもそのはず、自信をもって送り出した部隊は成果をあげるどころか反旗を翻し、本陣に攻撃し始めたのだ。
さらに、頼みの綱の巨人たちも次々に倒されている始末。ガイアス・ウォーレットを過小評価しすぎたようだ。
「こんなときにやつはおらんし……
よもや、逃げおったか!?」
ロキは先ほど「次の準備をしますので、少々お待ちを」などと言ってどこかに行ってしまった。
そのときはまだ状況が変わる前だったのであまり気にしなかったが、状況が悪くなったのでそのまま逃げましたというのは十分にありえるだろう。
所詮やつとは利用するだけの間柄、信用などあり得ないのだから。
と、そのとき、監視班が悲鳴をあげた。
「た、大変です、すさまじい魔力の塊がこちらに向かってきます。
これは……まさか、惨殺姫!?
ひぃぃ、ドラグニア・ランフォードだ!!」
「なんだと!!」
オジリアが声を上げるとほぼ同時に、強烈な衝撃波が本陣に吹き荒れた。
彼がそちらを見ると、まだ幼さを残した一人の少女が竜のような漆黒の翼をはためかせ存在していた。
ドラグニア・ランフォード、忌々しき兄の娘が。
少女はこちらに気が付くと、「お前がオジリアか?」と尋ねてくる。
オジリアは隠すこともできないほどの怒りを顔に浮かべながら応える。
「そうだ、ワシこそがオジリア・ランフォード。
真の魔王後継者だ。
貴様のようなまがい物とは違う、真のな!!
行け、ハイオークども、やつを叩きつぶせ!」
その言葉を聞き、オジリアの部下たちハイオークやゴブリンメイジが武器を構え、少女を囲んでいく。
「ははは、飛んで火にいる夏の虫とはこのことよ!
ものども、一斉攻撃はじめ!」
そして始まる魔法と強弓の超弾幕。
その激しさにオジリアは自分の勝利を確信する。
「はは、やったぞ、ドラグニアを倒したぞ、ワシは新たなる魔王となったのだ!」
煙が少しずつ晴れていく。
そして煙の先にいた人物をみてオジリアは驚愕する。
少女は生きていた、しかも傷どころかその美しいドレスにも汚れすら見当たらなかったのだ。
彼が思わず「そんな馬鹿な」とつぶやいてしまったのも仕方ないことだろう。
それはつまり、あれだけの攻撃を体に纏ったオーラだけで防いだということなのだから。
「これでお終いか?
では今度はこちらから行くぞ」
その言葉を聞いてオジリア軍は恐怖に包まれる。
「ひぃぃ、化け物だ、本物のばけものだぁ」
「こんなのと戦えるわけがねぇ!!」
「おかーさーん!!」
あまりの恐怖に、我先にと部下たちが逃げ出しはじめた。
「馬鹿者どもが、逃げるな、貴様らワシに雇われているのを忘れたのか!?」
オジリアは逃げ出そうとする者たちに怒声を上げる。
しかし彼らは「金より命の方が大事だ」といってオジリアの命令を聞かずに去っていってしまう。
そして、オジリアとドラグニアだけが残された。
「なんかお前の部下たち逃げ出しちゃったみたいだけど、どうする、大人しく投降するなら、命の保証はするけど?」
ドラグニアのその態度にオジリアは既視感を覚える。
そうだその態度、その目。いつも自分よりも上に君臨していたあの男、兄ドラグニオスそのものだ。
そうか、あの男は死してなお、オレをそのような目で見るか。
オジリアは言葉にできない叫びをあげる。
そして解放するその本性。
嫉妬に狂いし竜が誕生した。
その名は邪竜オジリア。
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「ははは、すべて上手くいきましたねぇ。
これで門を開くために必要なものがすべてそろいました。
計画は最終段階ですよ。
――待っていてね、アリシア、今度こそあの魔王のすべてを壊して見せるからね」




