番外編 ガイアスとシルフィーナ
またまた番外編
今回はガイアス回です!
「ぐぬぅ、この淫魔め、またしてもドラグニア様に抱き着きおって!」
「あらあらうらやましいの、ガイアス。
でもだめよ、だってあなたみたいな暑苦しい人がニアちゃんに抱き着いたらニアちゃんが汚れちゃうじゃない」
「この……もう我慢ならん、今度こそ息の根を止めてくれるわ!」
また始まったよ、この犬猿コンビ。
きょうはオレが書斎で読書という名の昼寝をしていると、そこに同じ目的できたシルフィーナがオレに素晴らしいハグのプレゼント。そのタイミングで今後のドラグニア軍の拡張についてオレの意見を聞きに来たガイアスとばったり会い、「おのれ、ドラグニア様の読書の邪魔をするとは!」とシルフィーナにくってかかり、今に至る、と。
ほんとこいつらケンカばっかしてるな。
そこでふと、二人に聞いてみることにした。
「なあ二人とも、お前たちって上司と部下の関係だったんだよな。
二人ってはじめからこんな感じだったのか?」
オレの質問にガイアスが「無論です」と答える。
それに対し、シルフィーナは「え~そうだったかなぁ」という回答。
それを聞いた瞬間、ガイアスが慌てて、「な、何を言うのだ! あれはその……」と何だかはっきりとしない態度をとる。
おや、これは……何やら面白い話が聞けそうだ。
「ちょうどいい機会だ、二人の出会いについて聞かせてくれないか」
「ええ、いいわよ、それはねぇ……」
「ちょっとまった!
貴様から話されるくらいなら自分ではなすわ!」
話はじめようとしたシルフィーナを止めたガイアスは、少し間をおいてから話はじまった。
これは、ガイアスが軍学校を卒業し、魔王軍にはいったばかりの話。
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ガイアス・ウォーレットは魔界でも高位にあたる伯爵家の長男として生まれた。
高い力と地位。
しかし元来、真面目な性格であった彼はそれに奢ることなく研鑚をつみ、トップの成績で軍学校を卒業した。
そんな彼が配属された場所、第六部隊。
それは、かの有名な魔王直属の六魔将、その紅一点シルフィーナ・ローレンツの部隊であった。
「はじめまして、このたび第六部隊に配属されました、ガイアス・ウォーレットであります!」
ガイアスは新しい自分の上官にあいさつをする。
すると彼女はそんなガイアスをまるで値踏みでもするような目で見ていた。
(これが、六魔将シルフィーナ・ローレンツか……噂には聞いていたが何という美貌だ……)
美しい漆黒のドレスに包まれた体は触れば折れてしまいそうなほど細く、肌は白磁器のように芸術的で美しい。
しかしピンク色の美しい髪から伸びる大きく立派な角、背中から生える威厳ある翼、そして有無を許さぬその圧倒的威圧感。
まさしく彼女が六魔将の一人であると感じる事が出来た。
「ふ~ん、あなたがガイアス君ね、悪いけどあなた、不合格よ」
配属早々に言い渡される戦力外通告。
ガイアスは慌てて「なぜ自分は不合格なのですか」と聞く。
ガイアス自身、これまで軍学校での成績には誇りを持っていた。
それが自分の実力を確かめもせずに不合格にされるなど、彼にとって納得できることではなかった。
そんな彼に彼女は不合格の理由を告げる。
「不合格の理由?
そんなの決まってるじゃない、あなたがわたしの好みじゃないからよ」
それだけ告げると彼女は去っていった。
残されたガイアスは空いた口がふさがらなかった。
(好みじゃない。それだけの理由で自分は不合格にされたのか。
ふざけるな。
ふざけるなよ、シルフィーナ・ローレンツ!)
その後すぐガイアスの移動が命じられるが、ガイアスはそれを拒否した。
理由は簡単、自分を否定したシルフィーナに自分の実力を見せつけるためである。
そして、そのタイミングは来た。
反魔王派の討伐。
しかも今回はA級首の魔闘士ロットンが相手だ。
ガイアスはシルフィーナ部隊より先に潜入し、ロットンの首をとることにした。
作戦は途中までうまくいった。
ロットンのいる部屋まで潜入に成功したのである。
だが、ここで誤算が起きた。ロットンの実力を甘く見すぎていたのである。
「ほう、ガキにしてはなかなかだ。
だが、相手が悪かったな」
ロットンが不敵に笑う。
地面に這いつくばった状態のままガイアスは忌々しい気持ちでロットンをにらみつける。
今回は完全に自分の失態だった。相手は自分ひとりでどうにかなるレベルを超えていた。
ロットンが近づいてくる。
「じゃあな、あばよ」
彼が止めを刺そうとしたそのとき、
「こんな相手にやられるようじゃまだまだね。
でもここにたどり着くまでの動きはまあ合格かしら」
そこに彼女がいた。
シルフィーナ・ローレンツが。
ロットンは彼女を見て、「ほほう、六魔将様が相手かい? いいぜ燃えてきたぜ」と気合を入れる。
しかし彼女は何て事はなさそうな面持ちで構えすらとらず彼と対峙する。
「悪けど、あなたわたしの好みじゃないのよ。
だから、さようなら。『氷刃千裂波』」
そして、勝負は一瞬で終わった。
ロットンの身体が一瞬で八つ裂きになる。
ガイアスは瞬きするのも忘れて彼女を見つめる。
次元が違った。
彼女は自分如きが意見できるような相手ではなかった。
唖然とする彼に彼女は言った。
「さあ、帰るわよ」と。
帰るわよ……それは自分に言っているのか?
不合格の自分に?
「どうしたの?
置いていくわよ」
「い、いえ、すぐにいきます」
ガイアスは彼女に向かって走り出した。
(今はまだ彼女との間は遠い、だが、必ずたどり着いて見せる!)
こうしてガイアスはシルフィーナの部下となったのだが……
「シルフィーナ隊長、予算が……」
「ガイアスの方でかってにやっといて~」
「シル……」
「めんど~い、後はよろしく~」
仕事をすべて自分に押し付けるシルフィーナに、ガイアスは「こいついずれぶったおす」と胸に誓うのだった。
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「まあ、こんな感じで今に至るわけです」
ふ~ん、なるほどねぇ、ガイアスたちにそんな過去があったのか。
「でもわたし、あなたがなかなか隊を出て行かないから、てっきりわたしに惚れているのだとばかり思っていたのだけど」
「馬鹿を言うな!
貴様如きに惚れたりするものか!」
二人は再びケンカを始めた。
止めようかとも思ったが止めておいた。
「まあ、今日くらい大目にみるか」




