VSヨムンガルド戦
シルフィーナは内心、自分の敗北を悟っていた。
淫魔である彼女は、相手の心を淫魔独特の感覚によって読みとり、戦術を立てていくのが本来の戦い方であって、このような力で暴れるだけの巨大モンスターとの戦闘はもっとも苦手とするところであった。
「ちっ……これもダメなんてほんと参ったわね」
これまでの戦いで分かったことだが、この大蛇の魔力は単純計算で自分の10倍以上あるようだ。
力任せに暴れるだけであるからこそ、ここまで戦うことができたがどうやらここまでのようだ。
魔力切れ。
体内の魔力をすべて使い果たして、全身から力が抜けていくのを感じる。
対してあちらの方はまだまだ力を残しているらしく、勢いはますばかりだ。
動きが止まったシルフィーナに大蛇が襲い掛かる。
彼女はそれを諦めと悔しさが混ざった表情でそれを見つめる。
そして……
「業火!!」
すさまじい爆発によって、シルフィーナがこれまで攻撃してもびくともしなかった大蛇が後方に倒れる。
彼女はまさかと思い、そちらを見る。
そしてそこにいたのは一人の美しい少女。
惨殺姫ドラグニア・ランフォード。
気高き最強姫が、今、大蛇と対峙した。
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間一髪、間に合ったようだが、状況はよくない。
不意打ちで放った業火はやつの鱗を数枚吹き飛ばしただけで、決定打とは言い難い上に、シルフィーナのほうはどうやら魔力切れのようだ。
オレに業火以上に強力な魔法は無い。
本当にとんでもないタフさを持っているようで、すでに業火のダメージから回復したようで、すぐさま戦闘態勢に入る大蛇。傷のほうも徐々にだが回復が始まっているようだ。
大蛇が口から紫色の毒々しい液体をこちらに向かって吐いてきた。
オレはシルフィーナを抱えて回避する。
瞬間、オレの立っていた辺り一帯が溶解し、地面がえぐれる。
怪獣映画かよ! スケールが違いすぎるだろ!
「どして助けにきたのよ、
ガイアスの部下はこの騒ぎでみんな魅了が解けてるし、わたしを見捨てて逃げることができた筈よ!」
「うるせー、今、こっからどうすっか考えてんだからちょっと黙ってろ!」
オレはシルフィーナを黙らせる。
言えるかよ、胸に釣られてのこのこやってきましたなんて。
地面に着地すると、オレはシルフィーナを放す。
名残惜しいが、今はそれどころではない。
「ご無事ですか、我が主よ」
遅れてガイアスが到着する。
いや、ガイアスだけでなく部下たちもオレがあの大蛇と対峙しているのに気づいてこちらに集まってきているようだ。
「シルフィーナ様!」
生き残ったシルフィーナの部下たちが、魔力の切れた彼女に魔力を注いでいる。
絶体絶命の状況にも関わらず、オレは不思議と心の中から不安が消えていくのを感じた。
まだ、オレたちはやれる。
ガイアスが両腕に魔力を纏わせ、大蛇に突進する。遅れて魔力の回復を終えたシルフィーナも同様に魔力で強化した鞭で応戦する。
部下たちが敵味方の垣根を越えて大蛇に立ち向かう。
それでもあの大蛇を倒すには至らない。
そこでふと思ったのだが、オレはこれまで魔力というものを魔法でしか運用していなかった。だがガイアスやシルフィーナは自身の身体や武器に魔力を付加して戦っている。
ひょっとして、オレにもできるんじゃね?
ほかに方法も思い当たらないし、一か八かやってみるか!
オレは剣を取り出し、剣と一体になるイメージで、ありったけの魔力を注いでいく。
すると剣からすさまじい光が放たれる。
周りがそれを見て、息をのむ。
ガイアスとシルフィーナも攻撃を中断してこちらを見ている。
オレはそれを大蛇に向け、構える。
「皆、よくがんばった。
あとはこのワタシに任せるがいい。
くらえ、ヘビ野郎!
必殺、えっと……竜剣!!」
そして、大蛇ヨムンガルドは完全に消滅した。




