ロキのいたずら
シルフィーナは歯ぎしりしながら思考する。
彼女にはこの大蛇の主に心当たりがあったからだ。
美貌の魔術師ロキ。
彼が従えるという三体の魔物、大蛇ヨムンガルド・魔狼フェンリル・地獄女王ヘル。
今回出現したのはそのうちの一体、大蛇ヨムンガルドだろう。
やっかいな……
周囲にロキの気配はない。
おそらく、戦争が始まる前――つまり先ほど自分のところに来たとき、何かしらの条件で発動する召喚術式を淫魔軍のなかに仕込んでいたのだろう。
例えば淫魔軍の戦力が半数以下になった場合とか……
シルフィーナの心が今までにないくらい怒りで満たされていく。
拘束していたガイアスを放すと、「勝負はおあずけよ」と言って大蛇の方へと飛んでいくシルフィーナ。
女王と大蛇の激しい戦いがはじまった。
=============================================
シルフィーナから解放されたガイアスがこちらにやってくる。
「申し訳ございません、ドラグニア様。
無様な姿をさらしてしまいました」
「ま、まあ仕方ないだろう。
今後はより精進し、腕を磨くがいい」
先ほどの戦いを謝るガイアスにてきとうな言葉で返答するオレ。
ガイアスがその言葉を聞いて何やら感動しているようだが気にしない、気にしない。
「ドラグニア様、我々はいかがいたしましょうか」
ガイアスが大蛇と戦うシルフィーナのほうを見ながらこちらに聞いてくる。
どうやらあの大蛇はシルフィーナの呼んだものではないらしい。
彼女も巨大な大蛇にたいして善戦しているようだが、いかんせん決定打に欠けているようだ。
このままでは敗北は時間の問題だろう。
幸い大蛇の被害は淫魔たちだけであり、しかもこの混乱でこちらの軍は魅了の効果が切れている。
今なら逃げるだけならば問題なく行えるだろう。
オレは考える。
はたして彼女を見捨てて良いのだろうか。
常識的に考えるならば見捨てても良いだろう。彼女は敵であり、倒すべき相手なのだ。
しかし、そう、しかしだ、あの胸の感触。あの感触が脳裏をよぎって彼女を見捨てることを許さない。
だが、オレが行ったところであの大蛇に勝てるのか?
無理、無理、無理!
あんなの勝てっこないだろ!
どうする、命をとるか、胸をとるか。
オレは……オレは……
「行くぞ、ガイアス。
あの大蛇に我々の力を見せつけてやるのだ!」
「御意!」
オレは、胸を選ぶ!




