惨殺姫降臨!
戦場に災厄が降臨したのは、淫魔たちの魅了が敵の半数近くに達し、勝利が目前へと近づいていることを皆が感じていた矢先のことである。
目の前で巨大な隕石が落ちてきたのかと錯覚するほどのすさまじい衝撃のあと、煙の中から現れたのは一人の少女。
惨殺姫ドラグニア・ランフォード。
敵の大将であり、自分たちの主より捕らえるように命じられたターゲットである。
しかし、長年女王に仕え、自身もまた淫魔族のなかでも高位に位置する彼は一瞬で気づいた。それが不可能だと。
彼女は彼が想像していたものよりはるかに化け物であった。
そのオーラ、その魔力、その気品。
そのすべてが彼が見てきたどの存在よりも圧倒的であり、次元が違っていた。
あるいは彼の主より――
「聞け、お前たち!
我が名はドラグニア・ランフォード。
お前たちに選択肢をくれてやる。
今すぐ魅了を解いて降伏するか、それともワタシに皆殺しにされるか、好きな方を選ぶといい」
少女は哀れな獲物に宣告する。
それは彼女の最後の慈悲。
しかし愚かな獲物は誤った選択をしてしまう。
「馬鹿め、大将自らが敵の前に現れようとは……」
「我が主からの命令である。貴女を捕らえろと!」
愚か者たちが返答を返す。
王者は愚民たちの返答に残念そうに顔をしかめた。
そして、背中に背負った自身の身の丈よりも巨大な大剣を抜いた。
「そうか、残念だ」
それだけ告げると、彼女の姿が消えた。
それは上位魔族である彼にすら認識できないほどの速度で彼女が動いたためである。
振り下ろされる大剣。
それだけで大地が割れ、衝撃で大勢の淫魔たちが倒れた。
現実身のない事態に、生き残った淫魔たちは思考が追い付かない。
「もう一度だけ言うぞ。
今すぐ魔法を解け、さもなくば……殺す」
====================================
オレは内心ドキドキしていた。
とりあえずやつらの場所に向かおうと思い、そのときに自分に羽が付いてるのを思い出して、人々のロマン、空を飛ぶのを試してみようと思いついたのだ。
しかし、いざ飛んでみると、想像以上にすごいスピードが出てしまった。
感覚でいうとジェットコースター?
自動車だったら確実に切符を切られるレベルである。
そんなこんなで失敗をごまかすためにかっこよく、
「聞け、お前たち!
我が名は、ドラグニア・ランフォード。
お前たちに選択肢をくれてやる。
今すぐ魅了を解いて降伏するか、それともワタシに皆殺しにされるか、好きな方を選ぶといい」
と言ってみた。
まあ案の定、降伏なんて選びませんでしたけどね!
どうしよう、いちおう剣を抜いてみたけど、剣術なんて習ったことねーよ!
まったく、どうして異世界召喚ものの主人公ってみんな剣道とかの心得があるんですかねぇ?
とりあえず振り下ろしてみるか。ひょっとしたら、「うお、すげえええ!」「あんな剣さばき見たことねーよ」「素敵、抱いて!」ってなるかもしれないし。
「そ、そうか、残念だ」
意を決して剣を振り下ろす。
すると地面がぱかぁって割れました。
淫魔の皆さん、衝撃で吹っ飛んでます。
……どうしてこうなった。
いやほんと、こっちきてからこの言葉、何回目だろう。あと何回ボクチン「どうしてこうなった」て考えればいいんだろう。
ほら、残った皆さんも口をポカーンとしていらっしゃる。
遠くのほうで脳筋が「さすがは我が主」とかほざいてるが無視しよう。
ともかく、結果オーライだ。
「もう一度だけ言うぞ。
今すぐ魔法を解け、さもなくば……殺す」
ふっ、決まった!
っと思ったら、「ば、化け物」「ひいいいい、お許しを!」とか言って淫魔たちはちりじりになって逃げだしていた。
「素敵、抱いて!」は一つも無しですか、そうですか。
そんなことを考えていたら、淫魔たちが逃げて行った先からとつじょ爆発が起こった。
何が起きたのか確認すると、そこにはピンク髪のドエロいねーちゃんがいた。
「うふふふ、あなたたち戦場から逃げ出そうなんて、そんな勝手、わたしが許すと思っているの?」
彼女の名はシルフィーナ・ローレンツ。
淫魔族の女王である。




