#65 合宿開始(2)
初日の朝からハプニングはあったものの,その後は大きな問題も無く順調に進んでいった。
ただ,先輩方が言う通り,この合宿は地獄のような内容だった。
まず午前中は徹底的に基礎練。
いつもの倍以上の時間を使ってフットワーク,パス,ドリブルと体をいじめ,個人の実力を底上げする。
昼食を挟み,午後はゲーム形式の練習を多めにチームとしての力の向上を目指す。
そこからはいつもの練習と同じように1年生が別メニューでの練習になるので,俺が1年生を見る事になる。
しかし,この体育館は学校のように横にゴールは無いので,パスとドリブルをメインで行う予定だ。
「そこ! 座らない!」
「は,はい!」
まだ午前中の練習も中盤だというのに,1年生の何人かはすでにグロッキー状態だ。
だが,怒る先輩の声にもいつもの元気が無い所を見ると,先輩たちも平気という訳ではないようだ。
「ハル君,そろそろ良い?」
「あ,はい。分かりました」
井上先輩に呼ばれ,体育館を離れ厨房へ。
練習を見るよりも先に,俺には俺の仕事がある。
「じゃ,始めましょうか」
時刻は午前11時。
みんなの昼食づくりの開始だ。
「午前の練習はここまで! 休憩にします!!」
『ありがとうございました!』
号令と同時に崩れ落ちる1年。
初日の午前中からこれでは,全日程を無事に過ごせるのか不安になってしまう。
「は~い。皆さんお待ちかねのお昼で~す」
俺は極力明るい声を出しながら部員の元へと昼食を配る。
毎日の昼食はおにぎりにした。
文香からのリクエストだし,限られた時間で大量につくるには持ってこいの料理だと思ったからだ。
中に入れる具を工夫すればたくさんの味を楽しめるのも魅力的だ。
「ありがと,ハル君」
先輩たちはまだ取りに来てくれるから良いが,1年は動けない者の方が多いくらいなのでこちらから渡しに行く必要がある。
「やっとご飯だ~」
「風花,まずは先輩から。私たちはその後」
そんな1年生の集団の中に,妙に元気なのが2人。
風花と文香だ。
さすがというべきか,あの2人は過酷な練習にも平気でついていっているようだ。
「お待たせ。先輩が,最低でも1人4個は食べろってさ」
「はいさ~」
「分かった」
2人の所にお盆を持っていくとそれごと取られた。
「はいみんな~,ご飯が届いたよ~」
そう言いながらへたっている1年に配り歩く2人。
…全く,頼りになる2人だよ。
「………」
そんな2人から目を離し,俺は天王寺先輩を見る。
思い出すのは,昨日の帰り際に話した事。
もし彼女の言った事が本気であるならば,きっと2人の元気はここまでだろう。
そんな事を考えていると,俺の視線に気づいた先輩が意味深な笑みを浮かべる。
あの顔は,昨日の話が本気だという証だ。
「こりゃ午後の練習は荒れそうだな…」
そう呟いて,俺も手元のおにぎりを齧った。




