#17 明かされる過去(4)
――水瀬先生の話を俺なりに整理してみよう。
まず,天王寺先輩と白山先輩は中学時代凄い選手だった。
しかし期待されて入ったバスケ部で先輩からのいじめを受け,部から孤立。
それを支えてくれた顧問の先生も,先輩のせいで学校にいられなくなってしまった。
それでも天王寺先輩たちはバスケに打ち込み実力を示し,だんだんとチームメイトからも認められていき,最高学年でキャプテンとなった。
それでもチームメイトの事を未だに信用出来ないままの先輩は部のメンバーに心を開けず,それを感じ取った後輩も天王寺先輩から自然と距離を取ってしまっている。
「それであの性格だもんなぁ…」
練習中の天王寺を一言で言い表すな らば『鬼教官』と言ったところだ。
いったい何がそんなに気に入らないのか,メンバーが少しでもミスをする度に体育館に怒声が響く。
パスミス等の簡単なミスならまだしも、シュートを外しただけでも怒鳴られる。
その上、難しいシュートを決めたり良いプレイが出来たりしても、さもそれが出来て当然のような態度。
白山先輩がフォローに声掛けをしようとしても、次の怒鳴り声でかき消されてしまう。
「これじゃ、バスケやってても楽しくないだろうに…」
目の前の光景は、俺が中学時代に経験していたものでも、漫画を読みながら夢見た高校の部活でもなく、ただただ厳しく、怒られるだけのつまらないものだった。
「木嶋も、そう思うよな?」
「…はい」
俺の呟きに答えてくれた水瀬先生に頷きつつも、俺は両手をあげる。
「でも、無理ですよ。今の先生の話を聞く限り、天王寺先輩は俺の言葉なんて絶対に聞きません。この部活をどうこうするなんて、俺には絶対無理です」
水瀬先生の言いたいことは分かるし、俺だって目の前の光景を見たら何かしてやりたいとは思う。
――でも、無理なものは無理なのだ。
いったい何を期待しているのかは分からないが、先生は俺を買いかぶりすぎているだけだ。
俺は何の力もない、ただの高校生。
先輩相手に説教が出来るほど、ましてやそれで相手の考えを変えるほどの力は持っていない。
「だから、申し訳ないですけど、この部活に関しては違う方法を取った方が良いですよ。俺なんかに頼んだって、何も変わりません」
「……私は、そうは思わないぞ」
「えッ…?」
「木嶋の中学時代の活躍は知っているし、最後の大会も見に行った。そこでプレイするお前は、何というか…似ていたんだ、あの木下先生に。私たちの勝手な都合を押し付けてしまっている事は分かっている。だが、きっとこれはお前にも良い経験になるはずだ。だから頼む。騙されたと思ってこの部活を見てやってくれないか?」
「……わかりました。でも、成果が出なかったって俺のせいにしないでくださいよ?」
真剣な表情で言う水瀬先生に負けて、俺は結局頷く事しかできなかった。
この部活を何とかしてやりたい。
結局の所、その思いは俺にも良くわかる。
――こんな部活にいたんじゃ、みんなバスケを嫌いになってしまう。
そんなの、嫌じゃないか。
「ありがとう。何かあったらいつでも私か学園長に相談してくれ。出来る限りの協力はするよ」
「助かります。……あ、そうだ。先生」
最後に、俺は一番気になっていたことを聞くことにする。
これが分からないと、何も出来ないからな。
「――マネージャーって、何をすれば良いんですか?」