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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#16 明かされる過去(3)


「――白山さんは3年生との1対1の時に、既に足を痛めていたそうです。しかし、それを隠して試合に出て、あんな事になってしまった。幸い骨に異常はなく、数週間で完治したのですが…」


 先生はそこで一度言葉を切り、次の言葉を溜息とともに吐き出した。


「練習に復帰した白山さんを待っていたのは、部員たちの冷たい態度でした――」



「ちょっと! 怪我してたんなら何でスタメン出場なんてしたのよ! 最初からあんたが出てなきゃ勝てた試合だったのに!!」


 久しぶりに体育館へ戻った白山を待っていたのは、引退してもういないはずの3年生からの怒号だった。


「あんたのせいで、3年はもう引退! 本当だったらもっと部活が出来たはずなのに、どうしてくれるのよ!!」


 白山に文句をつけているのは、ずっと2人のスタメン起用に納得のいっていなかった者たちだった。

 そんな3年からの厳しい問い詰めにあっても、白山は何も言わない。

 ただじっと下を向いて唇を噛みしめている。

 2年と1年は大っぴらに文句はつけないものの、ひそひそと白山を指さしては何やら小声で話している。


「ちょっと待ってください! 千夏は精一杯やったじゃないですか! 何でそんない言われなければいけないんですか!?」


 そんな中、天王寺だけは白山の味方だった。

 他のメンバーはどうか分からないが、もし白山が初めからいなかったらあのチームには勝てないことが分かっていたのだ。

 あれだけ良い勝負が出来たのは白山のおかげだと分かっているからだ。


「…何よ、あんたも原因のくせに」

「ッ?!」


 だが、それを分かっているのは天王寺だけだった。

 今この場にいる全員は、白山が怪我をおしてまで試合に出なければ勝てたと思い込んでいる。


「あんたが普段からこいつにばっかりパスを出してるから、試合で他の選手と連携が取れないんでしょ!」

「そうよ! 2人でセットじゃないと何も出来ないなら、交代だって一緒にしなさいよ! 試合をボロボロにしてから逃げたって遅いんだから!!」


 白山にパスを出すのは、それ以外の選手じゃ相手と渡り合えないからだ。

 白山以外と連携が取れなかったのは、他の選手が天王寺の動きに合わせられなかったからだ。

 試合が崩れたのは、それまで白山がカバーしていたチーム全体の地力の差が露見したからだ。


「あんたたち2人のせいで、試合に負けたのよ――」




「――ちょうどその時体育館に来た木下先生がすぐに彼女たちを止めましたが、それでもしばらく2人は部内で完全に孤立していました」

「何だよそれ…」


 本来であればもっと称賛されて良いことをしたのに、よりにもよってチームメイトから罵倒されるなんて…

 想像しただけで吐きそうだ。


「しかし、2人は折れなかった。彼女たちを分かってくれる存在がすぐ近くにいたからです」

「……木下先生、ですか?」


 俺の呟きに、水瀬先生は小さく頷く。


「そう。木下先生は、本当は前日の段階で気づいていたんだ――」





「白山、本当にすまなかった。俺があの時お前をきちんと止めていれば、こんな事には…」


 3年との1対1を終えた直後から、白山のプレイに小さな違和感を覚えた

木下先生は、練習が終わった後に他の部員に気づかれないよう白山を呼び止めていた。

 そこで白山から足に少し痛みがあること、先輩との1対1の時に何かをされたことを知った。

 木下先生はすぐに病院に行って検査を受けるよう言ったが、白山は大丈夫とそれを拒否。

 翌日の試合に自分と天王寺がいなければ勝ち目がないことを彼女は分かっていたのだ。

 そしてそのことは木下先生ももちろん気づいていた。

 だが、今のチームをもっと上に連れていきたいと思うばかり、先生は白山の言葉を信じて彼女にスタメンを任せてしまった。

 もちろん、少しでも違和感が出たらすぐに交代する約束だった。

 

 だが、結果はあのざまだ。


 白山は痛みを我慢してプレイを続け、相手との接触をきっかけにそれが爆発。

 白山の突然のリタイヤに動揺した天王寺も調子を崩し、すぐに交代することになってしまった。


「本当に、すまない…」

「…先生のせいじゃありません。私が我儘を言っただけです」

「それに、分かってくれる人が1人でもいれば、私たちはがんばれます。3年生は、どうせすぐ卒業しちゃうし」


 部内から2人が孤立する中でも、木下先生だけは2人の味方であり続けた。

 いや、そうすることしか出来なかった。

 いつも2人のことを目にかけ、居残り練習や早朝練習にも最後まで付き合う。

 2人が腐らずバスケに打ち込めたのは木下先生がいたからだ。

 先生はそれに応えるように指導を続け、2人もまたその指導に応えるようにどんどん上達していった。



 だがそれも、そう長くは続かなかった。



 夏が終わり、冬の大きな大会にむけての準備が進む中、学校にある噂が流れだした。


『バスケ部の顧問と1年生2人は実はデキている』


 当人たちにとってはもちろん荒唐無稽の話だ。

 大方バスケ部の誰かが意図的に流したのだろう、と2人はそこまで気にしなかった。

 周りの雑音など気にせず、普段通りに練習するだけ。


 …だが、木下先生はそうはいかなかった。


 自分の部活の生徒を、それも2人と関係を持ったということになればただでは済まない。

 すぐに学園長や教師たちが噂の拡散を止めようと動いたがすでに遅く、校内にあっという間に広がっていった。

 もちろんそんな事実はなくただのデタラメだということは多くが知ることではあったために大問題には至らなかったが、それだけでは終わらない。

 後で判明したことではあるが、この噂を流したのはやはり女子バスケ部の上級生たちで、いつも先生に特別扱いされている2人が気に食わなかったらしい。

 ここから『先生が生徒を贔屓するのはおかしい』と保護者の中からも意見が出るようになってしまった。

 それに対して天王寺と白山は猛反発したが、それが火に油を注ぐ結果となり、結局木下先生は追いやられるようにして顧問を辞めさせられてしまった――

 


「――それ以降の2人は今まで以上にバスケに打ち込んでいました。いつしかその実力は再びチームに認められ、部内で孤立することもなくなりました。そして去年の冬、天王寺さんはキャプテンとなり、とうとうこの部のトップに立ちました」

「……」


 そこまで聞いて、目の前の練習の違和感が何となく分かったような気がした。

 きっと、天王寺先輩はまだ孤独なんだ。

 そしてキャプテンがそれではチームはまとまらない。

 この違和感は、チーム全体の不協和音だということか。


「…あれ?」


 と、そこで疑問が一つ。


「木下先生が顧問じゃないことは分かったんですけど、なんで学校にもいないんですか?」


 俺の質問に、水瀬先生は苦い顔をした。


「問題の責任は自分にある、と言って顧問をやめてすぐに辞表を出してね。学園長としても、木下先生にはまだ学校にいてもらいたかったから必死に止めたんだけど聞かなくてね。今はまだ戻ってきてもらうための交渉中なんだよ。だから先生のことを聞かれたら『公式には』療養中なのさ」

「へ、へぇ…」


 最後のはよく分からなかったが、この部活の抱えている問題は少しだけ分かった。

 そして同時に、こんな話をわざわざ俺に聞かせた水瀬先生の言いたいこともわかってしまった。


 --学園長の書類をもらってきたのは少し早まったかな。


 目の前の練習を見ながら、俺は小さく溜息をついた。

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