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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#14 明かされる過去(1)

「おはようございます!」


 体育館に入ると同時に大きな声であいさつ。

 今日は気合を入れて朝練からの参加だ。

 昨日までと変わらない視線を浴びながらも,俺はさも当然のようにメンバーの輪の中へと向かう。


「何でまた……」


 そんな俺に真っ先に反応したのはやはり天王寺先輩。

 怒ったような,呆れたような微妙な表情で前に出てくる。


「もう何度同じことを言わせるの? ここにはあなたの居場所なんてないの。何度来ても追い返されるだけだって分からないの?」


 まさか今日も俺が来るとは思っていなかったのか,今度は昨日までのような怒りに任せた口調ではなく,子供に何かを言い含めるような口調で言う。


「悪いことは言わないから,もういい加減こんなバカな事はやめて。依頼書の件は,私の方から学園長に話してあげるから。あなたもこんな事をするためにこの学校に来た訳じゃないのでしょ?」

「………」


 何を言われても俺は意見を曲げる気はないが,ここで問答になったらまたすぐに追い出されてしまう。

 昨日の偵察の報告も含め、俺は少し考えてこう切り出した。


「…昨日,楓高校に行ってきました」

「え? …えぇ,それは知っているけれど……」


 突然の話題の変更に,怪訝な表情を浮かべる彼女をよそに俺は続けた。


「その時,向こうのキャプテンと少し話しました。そこで,『今年の霧ヶ原は弱い』と言われました。俺はまだここの強さはよく分からなかったので何も言い返せませんでした。自分の学校が馬鹿にされているのに、です」


 俺の話を聞いている間に,天王寺先輩の表情がみるみる険しくなっていく。


「だから、俺は確かめたい。あの人の言う事が本当なのか,あなたのチームがどれだけ強いのか。今後のマネージャーの件を考えるのは、それからでも遅くは無いと思いました」

「……良いわ,好きにしなさい。でもそれなら,練習試合が終わって私の部の強さが分かったら、すぐに出ていきなさい」


 怒りを押し殺した声でそれだけ言うと,先輩は肩を上げてメンバーの元へと戻っていった。

 今の話は、昨日大地と一緒にラーメンを食べながらつくった言い訳だ。

 まともに練習を見られなかった俺たちが唯一持ち帰った情報がそれだったので、上手く天王寺先輩を挑発させようと考えたのだが、思いのほか上手くいったようだ。

 俺はほっと息をつき,とりあえず邪魔にならないようにコートの外から練習を眺めることにする。

 基本的なフットワークから,パス,レイアップ。

 昨日楓で見たものと比べても,特別な事を何かやる訳はではなく,教科書通りの練習が続く。


「………?」


 だが,一つ一つの練習に小さな違和感を覚える。

 もちろん,俺というイレギュラーがいるので完全にいつも通りという訳にはいかないだろうが,それを差し引いても何かが引っ掛かる。

 そんな違和感に頭を悩ませていると,入口からそっと中に入ってくる人影を見つける。

 誰かと思ったら、男子バスケ部顧問の水瀬先生だった。

 先生は館内を見回し俺を見つけると、まっすぐに俺の所へやってきた。

 その時にコートのすぐ横を通った先生に対して、部員の誰も挨拶をしない。

 いくら練習中だからって、それで良いのか?


「こんにちは、先生」

「あぁ…」


 ただ一人普通に挨拶をした俺に、先生は神妙な顔を向けている。

 そりゃそうか、学園長と二人で俺にこんな変なことをやらせている張本人だもんな。

 さて、何を言われる事やら…

 少し身構えた俺に、先生は意外な言葉を放った。


「…木嶋、お前はこの部活を見てどう思う?」

「どうって言われても…」


 正直、3日間来てはいるがすぐに追い出されてばかりだったので、練習を見たのは今日が初めてだ。

 そんな俺がこのチームの事など知る由はなかった。


「まだ、よくわかりません」


 だから、俺は正直に答える。

 上手くいけば、先生から色々な事を聞けるかもしれない。


「昨日も一昨日もすぐに追い出されてしまって…。実は、練習を見るのはこれが初めてなんです」

「そうだったのか。すまないな、突然こんな仕事をさせてしまって…」

「…部活を復活させる為ですから、これくらいは仕方ないですよ。無理を言っているのはこちらも同じですし」

「そうか…。そう言ってもらえると助かるよ」


 そう言って力なく笑う先生。

 まだそう沢山話した訳では無いが、何となくこの先生とは上手くやっていけるような気がした。


「……先生、どうして俺を女子部のマネージャーにしたんですか?」


 学園長相手だと上手くはぐらかされてしまうかもしれない質問だったが、俺は思い切って率直に聞いてみた。

 この先生なら、もしかしたら詳しい話をしてくれるかもしれない。

 そんな俺に向かって、先生は一度息をつき、ゆっくりと口を開いた。


「………今日は、それを伝えに来たんだ」


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