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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#142 これから


 県予選明けの月曜日。

 俺は昼休みが始まると同時に学園長の所へと足を運んだ。

 結果報告と,もう1つ言わなければならない事があった


「失礼します」


 もう何度目かになる学園長室。

 最初は居心地が悪かったが,今ではすっかり慣れてしまった。


「結果は聞いたよ。残念だったね。色々と,詳しいことを教えてくれないか?」


 開口一番,学園長は大会について事細かに聞いてきた。

 もちろん俺も半分はそれを話すつもりで来たので,準備していた内容を説明する。


「――なので,今回は負けてしまいましたが,次は同じ結果にはならないはずです。試合を見に来てくれていた木下先生とも会って,先生も部活に復帰してくれると言っていました」

「そうか,それは良かった…」


 俺の話を最後まで聞いて,学園長は大きく息をついた。

 木下先生の事も含めて色々動いてくれていたみたいだから,先生が戻ってくると知って安心しているのだろう。


「木嶋君にも,たくさん迷惑をかけてしまってすまなかったね。君には本当に,感謝してもしきれないよ」

「いえ,そんな事は…」


 俺は実際に大したことはやっていない。

 結局の所,先輩も先生も自分の力で立ち上がってくれたのだから。


「…それで,君の話は何だい? まさか,わざわざ私に試合の話をするためだけにここに来た訳じゃないんだろう?」

「……はい。話したかったのは,俺の今後についてです――」




「いっただっきまーす」


 学園長との話を終え屋上へ上がると,ちょうど3人で昼食を食べ始める所だったようだ。

 学園長との話がもう少しかかると思っていたので,今回は風花に3人分の弁当を持たせたのだが,これならその心配はなかったかもしれない。


「あ,意外と早かったのね。じゃあここ空けるわ」

「えぇ,まぁ。あ,すみませんわざわざ」

「良いのよ。みんなで食べましょ」


 そう促され,俺も自分の弁当を開く。

 しばらく他愛のない会話をしながらの食事が進んでいくが,不意に先輩が俺を見る。


「あ,そうだハル君。もう2人には話したんだけど,木下先生,学校への復帰はまだだけど,練習には今日から来られるって」

「そう,ですか」

「これからの練習内容とか,ちょっと先生と一緒に詰めていきたいから,今日は早めに集合してくれる?」

「………」

「ハル君?」


 その言葉にすぐ返事が出来ない俺に,先輩は不思議そうに首を傾げる。

 本当は俺だってすぐに頷きたい。

 でも,もうそれは出来ないのだ。


「…先輩,もう,それは出来ません。俺は,今日女子バスケ部を正式に辞める事にしました。学園長からも,その許可はいただいています」

「…あら,そうなの」

「…ふ~ん」

「…そう」


 俺の言葉に,先輩を含めた3人は弁当をパクつきながら適当に頷く。


 あれ?

 何か随分冷たい反応じゃないかい?


「まぁ,ハルがいなくなるのは,最初から決まっていた事。それに,これで今生の別れでもない」


 俺の顔色を読んだのか,文香がそう言って笑う。


「そうそう。こうやってお昼休みにはみんなで会う訳だし,そもそもハルってば最近部活来ないじゃん」


 風花もケラケラと笑いながら文香に続く。


「…そっ…か……」


 俺の中では,マネージャーを辞めたらこの集まりも終わりになるのかと思っていたし,もう彼女たちとは疎遠になっていくものとばかり思っていたので,2人の言葉は思いもよらない物だった。

 そんな2人に面喰っていると,天王寺先輩が思い出したように口を開いた。


「ねぇ,ちょっと聞きたいんだけど,ハル君と一緒に男バスをやるのって,新巻君,で良いのよね」

「え? は,はい。そうです。新巻大地」


 俺が答えると,パッと先輩の表情が明るくなった。


「もし男バスが活動再開したら,女バスと合同練習にしない?

 どうせ男バスはボロボロの体育館しか割り当てられないんだし,人数も多い方が良いでしょ?」

「はぇ?」


 突然の申し出に思わず変な声が出てしまった。

 そんな俺に,先輩はごめんごめんと手を合わせながら,もう少し詳しく事情を教えてくれた。


「新巻君って,中学時代から名前は聞いた事あったのよ。パス回しが妙に上手いセンターがいるって。

 ハル君も薄々感付いていると思うけど,今の女子には圧倒的にパス回しが出来る人がいない。だから千夏も頑張ってくれている訳なんだけど,やっぱり私と彼女じゃ方向性が違うから,あまりお互いに参考にならないのよ。

 その点,新巻君だったら今の千夏にぴったりのコーチかなと思って。私や風花ちゃんもハル君からは色々勉強させて貰えるし。

 それに,もし集まってきた部員が全員初心者の可能性も考えたら,多い人数で一緒にやるメリットはとてもあると思うのよ」

「な,なるほど…」


 先輩はもう大地の事は知っていた訳か。

 確かに,今の白山先輩の目指すプレイと,大地のプレイには共通点はある。

 大地にとっても,俺とやるよりは白山先輩とやった方が,有意義な練習が出来そうだ。

 これから集めようとしているメンバーにしても,大地から話を聞く限り,もうある程度のスポーツ経験者は別の部活に入っているらしいので,バスケ初心者が集まってくる可能性は高い。

 俺,大地,初心者3人というチームになった場合,どうしようもない事は確かだ。


 そう考えれば,天王寺先輩の言うプランは,なるほどかなり良い物に見えてきた


「…でも,他のメンバーが良いって言うかどうか……」


 気がかりは,そこだ。

 いくら俺が良いと言っても,他のメンバーが反対したら,それは実現しない。


「それは大丈夫よ」

「何でですか?」

「だって,こんな美人に囲まれてバスケが出来るのよ。反対する人なんている訳無いじゃない」

「…さいですか」


 お馬鹿な事を言っている天王寺先輩はとりあえず置いておこう。



「……でも,そっか,そうだよな」


 自分1人で考えていたら,こんな話には絶対にならなかった。


 全く,俺は何を重く考えていたのだろう。

 マネージャーを辞めたからと言って,今までの全部が無くなる訳ではないのだ。

 この部活で培ってきた信頼関係は,この先,誰がどんな方向に進んでいったって変わる事はない。

 これからは,単に俺の肩書きが「男子バスケ部員」に変わるだけで,他は何も変わりはしないし,急いで変える必要もないのだ。



 頭の中には,もうすでにどうやって大地をこちら側に引き込もうかと考えを巡らせている自分がいた。



 第二体育館の中から,大勢の女子に交じって小さく男子の声が聞こえるようになるのは,そう遠くない未来の話かもしれない――


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