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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#133 焦り


 それから試合は膠着状態のまま,第3クォーターも終盤に差し掛かっていく。


 天王寺先輩がボールを回し,白山先輩がゴール下を固め,2人のフォワードと1人のシューターで波状攻撃をしかける。

 これは,今の霧ヶ原に出来る最高の攻撃だろう。

 前半よりもお互いに得点率は低くなっているものの,動きの面ではかなり改善されてきている。


 これまでの結果を観客視点で見れば,十分に善戦していると言えるだろう。


 前半戦,まず12対0と点差をつけられた所から試合が始まり,第1クォーター終了時にはそれを10点差へと詰めた。

 第2クォーターでは一気に追い上げ,3点差で前半を終了。

 後半開始直後にまた9点まで差をつけられたが,タイムアウトを取る事で持ち直し,第3クォーター終了間際までその点差を維持してきた。

 この調子なら,第4クォーターにもまだ逆転の望みはある。


 俺も試合観戦をするならこんな試合が良い。

 強豪相手に何度も必死に食らいついていくチームと言うのは,見ている者を感動させるのだ。


 ――でも,今の俺は観客ではいられない。

 実際に食らいついている側のベンチで感じるのは,焦燥感。

 コートの誰も調子が悪い訳ではないし,大きなミスをしている訳でもない。

 前半戦のように行くのであれば,それで十分に追いつけたはずだった。

 それでも点差が変わらないというのは,信じたくはないが,ここにきて地力の差が出てきたということなのか。


「なんでだよ…」


 みんな必死に戦っているのに点差が縮まらない。

心を覆うもやもやした感じはこのチームになってから初めての経験だ。


 心の奥では思っていた,このチームならそんな事はないと。

 全員の歯車がかみ合えば,どんなチームにも負けないと,幻想を抱いていた。


 それでも,そんなものは所詮幻想にすぎなかったということか。

 全国レベルには,もう一歩,何かが足りないと。


 ただただ過ぎていく時間に焦りながら,しかし,俺にはどうする事も出来なかった。



「――結!」


 でも,ここで焦っているのは俺だけじゃない。

 むしろ,ベンチで様子を見ているだけの俺なんかよりも,実際にコートで戦っている選手の方がその気持ちは大きいはずだ。

 なのに,今の俺にはそこまで考える事が出来なかった。

 自分の事で精一杯で,彼女たちの所まで考えが及ばなかった。


 綻びは,一瞬。


 天王寺先輩のパスを東堂先輩がまさかのファンブル。

 取りこぼしたボールは相手に奪われ,そのままカウンターを決められてしまった。


「落ち着いて,とにかく1本返すわよ!」

「残り30秒切った! これを止めて,もう1本取る!」


 リターンパスを出す直前,お互いのキャプテンが声をあげる。

 その言葉で,霧ヶ原は堅実なパスからのシュートを狙う。

 だが,堅実なパスというのは,言い換えれば細かいパス回し。

 速攻で使うような縦のロングパスは選ばないという事だ。

 それに対して,桜高校はここでオールコートのマンツーマンにスイッチ。

 言葉通り,ハーフラインを超える前にボールを奪い,もう一度ゴールを決めるつもりだろう。


 この場合,本来なら細かいパスで素早くつないでいくというのは十分有効な手だろう。

 全員がバックコートに集まっている今なら,スクリーンなどを使って空いた選手へのショートパスであればそう簡単に止められはしまい。



 でも,それは全員が普段通りに出来ていればの話。

 絶対に離されてはいけない終盤で,こちらのミスから得点を許してしまったこの状況。

 焦りや緊張で,普段通りのプレイが出来るのかという問題がある。


「…ッ?!」



 ――そして,いつだってそういう悪い予想は当たってしまうのだ。



 リターンパスを出す白山先輩が選んだのは,マークを振り切った高野先輩。

 ボールを受けた先輩の所にはすぐマークが戻って来るが,それをまたパスで捌くのが常套手段。

 もちろん先輩もパスを出そうとするが,すぐには見つからない。

 それで焦ってしまったのか,普段では考えられない無茶なパスを狙ってしまった。

 もちろんそんなパスが通るはずもなく,カットされ,再びゴールを決められてしまった所で,第3クォーター終了のブザーが鳴った。




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