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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
135/148

#131 誤算


「嘘…だろ……」


 第3クォーター開始から3分。

 開始時点で3点あった点差は,あっという間にもう9点まで開いていた。


 こちらの作戦にもちろん変更はない。

 早い段階で点差をなくし,勝負を五分に持ち込む。


 だが,それは叶わなかった。

 原因は,2つ。


 1つは,相手選手の全体的な動きの向上。

 前半には通せていたパス,決まっていたシュートが不思議と通用しなくなってきた事。


 そして2つ目は,白山先輩の不調だ。

 後半が始まってから,白山先輩は相手の5番に押されっぱなしだった。

 攻撃でも守備でも良い位置を取られ,思うようなプレイが出来ない。

 これでは,前半の方が良い動きをしていたくらいだ。

 全体の動きが良くなっているというのも,言い換えれば,それを見て前半よりも思い切ったプレイが出来ているという事なのかもしれない。


「先輩,本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫。もう少し,もう少しだけ…」


 白山先輩が前半とは違う何かをしようとしている事は,ここから見ても何となくだが分かる。

 ただ,逆に言えばそれが上手くいっていない事も分かってしまった。

 西田先輩はそれももう少しで必ず上手く行くと言い続けているが,それでももう3分だ。

 ここで何とかしないと,どうにもならないような空気もベンチには漂い始めていた。


「……先輩の気持ちは分かりますけど,ここは一旦区切って流れを変えます」

「…分かった」


 渋々,といった表情で西田先輩が頷くのを確認して,俺はすぐにタイムアウトの申請を出す。

 するとすぐにボールが外にこぼれ,みんながベンチへと戻ってきた。


「……」

「………」


 チームの雰囲気は,正直に言って重い。

 開始直前のイケイケムードは一体どこに消えてしまったのだろうか。


「…すまない」


 そんな中,小さく口を開いたのは白山先輩。

 その理由は分かり切っているのだが,誰も答えられない。


「…あのね,ちな…」

「――千夏,ちょっと立って」


 そんな沈黙を破ろうとした天王寺先輩の言葉を,西田先輩が止めた。


「…?」

「良いから,早く」


 白山先輩を含めた全員が西田先輩の言葉に首を傾げる。

 それでも西田先輩は強引に白山先輩を立ち上がらせ,そして――


「きゃッ!?」


 背後に回ったかと思うとすぐに白山先輩の膝裏に自分の膝をぶつけた。

 いわゆる膝カックンというやつだ。

 2人の足の長さが丁度いいのか,白山先輩はこれまで聞いた事のないような可愛らしい悲鳴を上げて思わず座り込む。

 普通ならそこで尻もちでもついてしまう所だが,先輩は違った。

 カックンをしたままの体勢で,西田先輩が白山先輩を受け止めていたからだ。

 そしてそのままがら空きの脇の下に手を入れる。


「緊張しすぎ,腰浮かせすぎ,力入らなさすぎ,場所取られすぎ,リバウンド取られすぎ,パス通しすぎ,周り見えてなさすぎ」

「ちょッ…やめ……こら,葉菜…」


 普段はあまり見る事の出来ない,押し切られっぱなしの白山先輩がそこにはいた。


「全く,ドヤ顔で見送った私にとんだ恥かかせおって。こうしてやる,こうしてやる~」

「待っ,て。ゴメン,ゴメンて謝るから~」

「謝って済んだら警察はいらんのじゃーー」


 なんていうやりとりがたっぷり30秒。

 1分間しかないタイムアウトの丸々半分も使って行われた。

 そして,ようやく白山先輩が解放された時には,もう残りは10秒しか残されていなかった。


「全く,何の為の練習よ。ちゃんと思い出した?」

「……あぁ,もう,大丈夫,だ…」


 やれやれと両手を腰に当てて苦笑する西田先輩と,息も絶え絶えに床にへたり込む白山先輩。

 普段の練習ではまず見かけないその光景に,思わず誰かが吹き出した。

 それを皮切りに,今までの重苦しい空気が嘘のように,全員が笑い始める。

 そしてその笑いは,タイムアウト終了の笛が鳴るまで続いた。


「ふふッ,じゃあ今度こそちゃんと仕事してね」

「あぁ。任せろ」


 結局このタイムアウトでは試合に関する事は何一つ出来なかったが,間違いなくチームの雰囲気は変わった。

 天王寺先輩と軽口を叩きながら薄く笑みを浮かべる白山先輩を見て,俺はようやく確信する。


 ここからが,本当の勝負だ。



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