幕間 後半戦へ向けて
「前半戦,どうだった?」
私の言葉に,メンバー全員がにやりと笑う。
「色々と予想外の事もあったけれど,まぁ最終的には想定通りね」
まず口を開いたのは,ずっと千夏を押さえてくれていた真奈美。
中学時代からずっと正センターで活躍していた彼女にとっては,高校からセンターに転向した千夏との地力の差は一目瞭然。
その差をここまで埋めてくる千夏には正直驚いたが,後半になって真奈美のエンジンがかかってくればその均衡も崩れるだろう。
「でも,気がかりが1つ…」
そう言って真奈美が視線を向けたのは,佳織。
「あの13番が最後に見せたシュート。あれはまぐれか,実力か。佳織の見解は?」
「……あれは,まぐれなんかじゃない,と思います」
愛実の問いに,佳織はゆっくりと口を開く。
「もし数秒前の状態ならまぐれだと言えました。でもあの時,あの瞬間に彼女の意識は変わった。受け身だった彼女が,突然攻撃的になって,次の瞬間にあれだけのシュートを打ってきた。あの10番と違って情報も少ない分,厄介な相手だと思います」
「そう…」
いつでも自分が一番じゃないと気が済まない佳織に,ここまでいわせる選手も珍しい。
でも,その分「じゃあどうすれば相手に勝てるか」の答えを見つけるのも得意なので,さほど心配はしていない。
「でも,後半には止められる?」
「はい,必ず」
その目を見て,私は「やっぱり大丈夫だ」と安心する。
こういう目をした時の彼女は,誰よりも強いのだ。
「千鶴や忍はどう?」
「あの8番,そろそろスタミナ切れだな。まぁこの私とあれだけやりあえば当然だけど」
「9番も,だんだん集中力が続かなくなってます。ここまで私を追いかけるのはさすがですけど,それももう限界だと思います」
千鶴と忍がそれぞれマッチアップしている相手の状況を分析してくれる。
その分析はきっと間違っていない。
でも,間違っていないからこそ気にしなければならない所がある。
「そう。でも,それはきっと光も分かってる。必ず何かの策を用意してくるだろうから,油断は禁物よ」
私の言葉に,当然だと言わんばかりに頷いてくれる2人。
この調子なら,後半も問題ないだろう。
「…後は,大丈夫?」
メンバーの顔を見ると,もう言いたい事は言い切ったらしい。
それを確認して,私は少し前から控室の外で待っている人物に声をかける。
「――先生,お願いします」
「上月さん,ありがとう。今日はどうしても時間に間に合わなくてごめんね。でも大体の流れは聞いてきたよ。今の話を聞く限り,みんな自分のやる事も分かっているみたいだし,僕が口出しする所は特になさそうだね」
私の言葉に控室の外から声を返してくれる先生。
今日はどうしても学校に行かなければならないと,ほんの数分前に会場に来た先生は,本当はこの控室にだっていつでも入ってきて良いのに,私たちの事を考えていつもずっと外で待っていてくれる。
まぁかなり若い先生だし,もし万が一があったら大変なんだろう。
そんな先生の気持ちも分からんでもないので,いつものようにドアを隔てて全員で頭を下げる。
『ありがとうございました,木下先生!』
さぁ,後半戦開始だ――