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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#12 ゲーム(3)

「ナイスシュートです,先輩!」

「あ,あぁ。入って良かったよ」


 慣れていない様子の先輩とハイタッチを交わす。

 パスの受け取り方からしても慣れてなかったから,きっとこういうパスをもらった事も,更にはシュートを決めた経験なんてほとんど無いのだろう。

シュートが出来れば決められる力はあるのに…。

 チームが年齢主義,実力主義になるのは仕方のない事だが,チャンスに巡り合えないまま終わってしまうのはおかしいじゃないか。

 入部したばかりの1年生はまだまだこれからいくらでもチャンスはあるが,先輩は3年生でもうすぐ引退になってしまう。

 それどころか,柏木先輩たちにとっては3年間一緒に頑張ってきた仲間じゃないか。


 ―― そんな仲間を,笑いものにして良いはずが無い!


 だんだんと焦り始める柏木先輩を横目に,武と大地にそっと耳打ちをする。

 最初の作戦とは大きく違う内容だったが,二人は笑顔で頷いてくれた。


「お前らしくて俺は良いと思う。でも,もし失敗したら……」

「……その時は,俺と大地が何とかするさ」

「おう。俺もあの先輩には一泡吹かせてやりたいと思っていた所だ」


 簡単に打ち合わせをして,お互いに持ち場へ戻る。

 柏木先輩からボールを受け取り,一呼吸。

 集中力を最大にして,先輩にボールを返す。


 ――さぁ,来い!


 先輩はボールを持ったかと思うとすぐに左側へドライブイン。

 俺はその動きに一歩も動かないまま,先輩はそのまま一直線に ゴールへと向かう。


「……なんてね」


 実はここまで全て予定通り。

 わざと右によって守り,左にスペースを取る。

 先輩がそれに気づくかどうかは賭けだったが,うまく乗ってくれた。

 俺の反応がなければ,先輩はパスを考えず自分で持っていくだろう。


 ――でも,そこまで動きが分かっていれば簡単なんですよ。


「……なぁ,二人とも」

「なッ?!」


 呟きと同時に後ろで悲鳴が上がる。

 俺が振り返るより早く,先輩からボールを奪った武がハーフライン上に戻る。


「大成功だな」

「おう」


 満面の笑みで武とハイタッチをしていると,俺たちの周りに驚きの表情でみんなが集まってきた。


「いきなり簡単に抜かれるからびっくりしたじゃ ないか!」

「いやぁ,ちょっとみなさんを驚かそうと思って」


 武と一緒にバシバシと背中を叩かれるが,嫌な気は一つもしない。


「さぁ,次はこっちの攻撃です。また驚かせてやりましょう」

『おう!』


 こうやってチームが一つになっていく感覚は,最高なのだ。


「…もう好きにはやらせないよ」


 全員が再び配置につくと,ようやく本気モードになったらしい柏木先輩が鋭い視線を向けてきた。

 良く見ると,相手チームのディフェンスが変わったようだ。

 武へのダブルチームは変わらないが,さっきのプレイを警戒したのだろう,今までゴール下で2人を見ていたセンターが大地につき,佐藤君についていた先輩が吉田先輩寄りに2人を見ている。

 つまり,佐 藤君はほぼフリー。

 どうせ初心者にはボールが渡らないと思っているのか,それとも,たとえボールが渡っても何もできないと思っているのか。

 全く,馬鹿にしないで欲しい。

 こっちは5人のチームでバスケをやっているんだ。

 そう思ったら,そこからは体が勝手に動いた。

 フェイクも何も入れないまま,無造作にシュートモーションに入る。

 先輩はもちろんすぐに反応して距離を詰める。

 他の先輩の視線も自然とボールに集まってくる。

 それを感じた俺は,目線をゴールに向けたままで,ゴールとは少し違う方向にボールを放った。

 そのボールは吸い込まれるように佐藤君の元へ。

 そこからは作戦通り。

 彼には,ボールを持ったらとにかくすぐにシュートを してくれと伝えてある。


「あ…」


 と思ったら,肝心の佐藤君も俺のシュートモーションに騙されていたようで,ボールを弾いてしまった。

 慌てて拾い上げすぐにシュートをするものの,ギリギリの所でディフェンスに追いつかれてしまった。


「ご,ごめんなさい!」


 何とかリングには届いたものの,残念ながらネットを揺らすことは出来ずに落ちる。


「あっ…」

「任せろ!」


 いち早く飛び出したのは大地。

 大地は最初から先輩相手だというのに全く押し負けることもなく,完全にゴール下を支配していた。

 どんなボールも取ってやるという言葉は嘘ではないらしい。

 

「大地!」


 だが,相手も黙っている訳はない。

 近くにいた2人が大地の着地に合わせて周りを囲う。


「ハル!」


 それに気づいた大地はすぐに俺へとパスを戻し,仕切り直しだ。

 今は武と大地にマークが2人。

 俺の前には柏木先輩がいる訳だから,単純に考えれば佐藤君と吉田先輩はフリーとなる。

 迷いなくパスを出そうとするが,柏木先輩の表情を見た俺は直前でパスを止める。

 

 ――これは罠か!


 案の定,俺のモーションを見ていたと思われる先輩が,大地から離れてパスコースを塞ぎにきた。

 ギリギリで止まったから良いが,迂闊にパスを出していたら完璧にカットされていた所だ。


「あっぶねぇ…」

「ちッ…」


 さて,次はどうする。

 正直,この状況はいただけない。

 実力 が劣っている今のチームで勝つには,奇襲が一番なのだ。

 一度条件を五分に持ってこられると,最後はどうしても地力の差が出てしまう。 

 現状で一番確率の高い攻め手は武と大地。

 だが,武には依然として2人マークがついているし,大地にも簡単にはパスが出せない。

 佐藤君と吉田先輩のどちらかになら多少楽にパスが出せるが,出した所ですぐに潰されてしまうのは目に見えている。

 それに,2人には出来るだけチャンス時にボールを回してなるべく活躍してもらいたい。

 となれば,俺か武か大地が多少無理をして行くしかないか。

 ま,俺か大地のどちらかなら,ミスした所で今後に影響は出ないだろう。

 そんな風に考えていたら,大地も同じような事を考えたのか,パスをもらいに出てきてくれた。

 大地とずっとマッチアップをしていた相手のセンターはそれでもゴール下から動かない。

 大方,大地を生粋のセンターとみてゴール下以外での勝負は無いと踏んだのだろうけど…


「大地,頼んだ!」

「おうよ!」


 ――その考えは甘いですよ,先輩!


 大地は俺からのパスを受け取ると同時に,センターとは思えないスピードでドライブイン。

 突然の大地の動きに驚いた相手は慌てて大地の進路を妨害しようと出てくる。

 よほど慌てたのだろう,武のマークも1人ヘルプに入った。

 大地はそんな相手の動きを見ながらその場でシュートモーションに入る。

 おいおい,目の前に相手が2人いるってのにずいぶん強引に行くんだな。

 なんて思っていたら,そのままマークが1人外れた武にノールックパス。


「ッ?!」

「ナイスパス!」


 大地の奇襲で浮足立った状態のディフェンスで武を止められる訳はない。

 放たれた3ポイントシュートは寸分の狂いもなくリングを打ちぬいた。


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