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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#125 悪い流れ


「また止めた!」


 観客席から歓声とため息が上がる。

 天王寺先輩がボールを奪われたのはこれで3回連続だ。

 最初はドリブル,次はパス,今回なんて意表をついていきなりシュートに行ったのにそれも止められた。

 対する相手の攻撃は6番をどうしても文香が止めきれず,連続スリーでもう9点取られている。


「タイムアウトお願いします」


 さすがにこの展開はよろしくない。

 貴重なタイムアウトを開始早々に取るのは気が引けるが,この流れは物理的にでも切る必要がある。


 結局こちらのタイムアウトが認められたのはカットされたボールを再び決められた後。

 開始から僅か1分弱,これで点差は12対0になってしまった。


「ごめんなさい……」


 ベンチに戻ってきたメンバーは全員が落ち込んだ様子だ。

 無理もない,今までこんなに圧倒されたスタートを切った所は見たことが無かった。


「まだ試合は始まったばかりです。ここから挽回しましょう」


 ドリンクを配りながら声をかけるが,正直な所どうやって現状を突破していいのか答えが分からない。


「あの10番,まさかあそこまでディフェンスが上手いとはな…」


 白山先輩がため息交じりに呟く。

 そう,歯車が狂ったのは全てあの10番が原因だ。

 天王寺先輩の動きをあそこまで見切る選手がいるとは予想もしていなかった。


「…実際にやってみて,天王寺先輩はどう思いました?」

「……ここまで何をやっても通用しなかったのは初めてよ。私の動きが全部読まれているような感じ。あの子はエスパーか何かじゃないかって疑っちゃうわ」

「そう…ですか……」


 動きが読まれている。

 確かにその通りなのかもしれないが,にしたって限度がある。

 さっきのシュートなんて,普段の先輩からは考えもつかないはずのプレイにも関わらず,彼女は完璧に止めてみせた。

 あんなの,次にやる動きが分かっていないと出来ないはずだ。


「相手の実力がどうであれ,このまま先輩にトップをやらせても良い結果は出ないと思います。ガードは風花に交代で良いですか?」

「えぇ,今の私に断る権利は無いわ」

「ありがとうございます。

で,次は…」


 先輩に関しては,もうポジションを変えるくらいしか打開策が見えない。

 それよりも簡単に,でもいち早く次の手を考えないといけない所がある。


「…文香。あの6番,どう思う?」

「………」


 俺の言葉に文香からの返事はない。

 まぁきっと全員が分かっていることだ。

 現状を見れば,残念ながら文香では彼女は止められない。


「…文香,風花と交代だ。現時点でお前はあの6番には勝てない」

「……うん…」


 可哀そうかもしれないが,文香へのフォローは後まわしだ。

 この短い時間で新しい作戦を練らないといけないのは彼女も分かっているはずだ。


「攻撃は,風花がトップ位置で,天王寺先輩はフォワードとして動いてください。でも,どうしても風花が辛くなった時にはサポートをお願いします」

「うん,頑張る」

「分かったわ」

「ディフェンスは,風花が10番,6番を神崎先輩がお願いします。体格差で詰めよる事が出来れば,そう簡単にスリーは打てなくなると思うので」

「えぇ,頑張ってみる」

「とにかく,この悪い流れを切ります。次の攻撃は,時間いっぱいに使って確実に決めていきましょう」

『はい!』


 タイミング良くそこでタイムアウト終了のブザーが鳴り,選手たちがコートへと出ていく。



「………」


 いつもなら真っ先に出ていくはずの文香は,俺の隣で黙って俯いている。

 ここまで落ち込む文香を見たのは何年振りだろう。

どう声をかけていいか少し悩みながら,俺は口を開く。


「タイムアトではああ言ったけれど,相手は全国レベルなんだし,3年だ。まだ1年の文香が今勝てなくたってしょうがないさ」

「………」

「それに,まだ試合は始まったばかりだ。この後,文香に頼らなきゃいけない場面だって必ず出てくると思う。大切なのは,その時にどう動けるかだろ?」

「…うん。分かってる」


 文香は1度大きく深呼吸をしてから顔を上げる。

 どこか清々しさすら感じられるその表情に,俺の心配も消える。

 この調子なら,きっと終盤で文香にはもう1度活躍してもらえるだろう。


 俺はそう確信し,再びコートへと視線を戻す。

 

 ――さぁ,反撃開始といきましょう。


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