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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
124/148

#122 決意


 それからの2週間は,毎日の部活に木下先生への挨拶と,あっという間に過ぎて行き,ふと気が付けば,県予選はもう明日に迫っていた。


「明日はいよいよ県予選ね。このトーナメントで優勝出来れば全国。でも,たった1度でも負けたらそこで終わりの大会よ」


 練習後の最後のミーティングでは,前回の地区予選とは違い,今回はメンバー全員にトーナメント表が配られている。

 天王寺先輩の話に耳を傾けながら改めて手元のトーナメント表に目を落とし,俺は小さく肩を落とした。


 霧ヶ原高校は地区大会優勝だったので,そう上ではないがシード校に入っている。

 その為,明日も試合は午後から行われる。

 初戦の相手はその午前中の試合,榊第一高校と紅葉高校の勝者となる。

 ただ問題は,その更に上。

 初戦に勝ったその先で当たるだろう高校は――


「明日の初戦に勝てば,次はおそらく桜高校が上がってくるわ。

…でも,みんな分かっていると思うけれど,今からそんな事を考えていたら明日の試合には勝てない。負けたらそこで終わりのトーナメント,目の前の試合に集中しましょう」

『はい!!』


 最後に天王寺先輩がそう釘を刺した所でその日のミーティングは終了となる。

 普段だとこの後で個人練習をしていく部員も少なくないが,今日はさすがに明日に備えて休むのかほとんどがそのまま帰り支度を始めた。


「…念のため言っておきますけど,今日は時間になったら強制的に体育館閉めますからね」


 普段の個人練習であれば終わる時間は部員の自主性に任せているのだが,今日はさすがに注意をしておく。

 天王寺先輩も言っていた事だが,計画的に体を休める事も練習の内で,今の最優先課題は,明日の試合に万全の状態で臨む事なのだ。


 まぁ正直な話をすれば,個人的にも今日くらいは早く帰ってくれないと困るというのもあるけれど。

 皆が終わるのを待ってから鍵をかけるのも結構辛いんだ。

 どうせ鍵を返して戻って来る頃には誰もいなくなってるし…


「大丈夫だよ。今日はちょっと連携の復習をするだけだから」

「うん。すぐ終わる」


 風花と文香がそう声をかけていったが,この2人が一番信用ならない事はもう経験済みだ。

 2人の言う「ちょっと」は最低でも1時間半はかかる。

 いくら何でも今日くらいは…とも思うが,ちょっと不安だ。


「本当に大丈夫だろうなぁ……」



 案の定,2人は他の先輩が帰った後も,最終的には俺に追い出されるまで練習を続けていた。



「も~,遅いぞハル君」

「悪い悪い,ちょっと先生がいなくて」


 だが,いつもと違ったのはその後。

 風花が突然「今日はハル君と一緒に帰る」と言いだし,それに乗っかるように文香も俺を待っていると言いだしたのだ。

 突然の申し出に首を傾げながらも,とりあえず俺は頷いて足早に鍵を返しに向かったのだった。


「じゃ,帰ろっか」

「それは良いけど,風花と文香,それに俺じゃ全員が逆方向じゃないか?」

「細かい事は,良い。それなら,まず一番近い風花を送って,その後私を送って,ハルはそれで帰れば良いだけ」

「…マジですか……」


 何だか最近輪をかけて俺の扱いが酷くなっているような気がする。

 部活を定期的に休む事は,さすがに木下先生の話は伏せておいたが,お昼の時間で確認,了承済みのはずだし,ちゃんと練習終わりには顔を出して体育館の鍵閉めもやっている。

 毎日の弁当だって特に手を抜いている訳じゃないし,俺が迫害される理由は特にないと思うんだが。


「ほら,早く行こ」

「あ,あぁ…」


 そんな考えなどお構いなしにどんどん歩き始めてしまう2人を追いかけ,俺も学校を後にする。

 学校を出た後の帰り道は,もう6月に入り日も伸びて来たのか辺りもまだ明るい。

 つい数日前までであればこんな時間まで練習をすれば既に真っ暗だったので,そう考えると少しくらい遠回りしても問題はないのかもしれない。


「いや~,今日の練習もきつかったね~」

「そう言いながら,風花は全然元気」

「まぁね~。それだけが取り柄みたいなもんだし」


 しかしながら,談笑をしながら進む2人の後を俺がついていくと言うよく分からない構図が続くこの状況は何だろう。

 このままだと本当に俺の来た意味が分からないのだが,一体どういうつもりなのだろうか。


「……この辺で良いかな」

「うん」

「…?」


 訝しげな表情を浮かべていると,会話の切れ目に2人が突然後ろを向いた。

 そして訳も分からずポカンとしている俺に向かって,同時に頭を下げたのだ。


「ハル君,ここまで本当にありがとう。ハル君のおかげで,みんな最高の状態で県予選を迎えられる」

「ハルがいなかったら,きっとここまで来れなかった。改めて,ありがとう」


 早口でそれだけ言って顔を上げた2人は,真剣な表情で再び口を開く。


「明日の試合は,絶対勝たなきゃいけない試合だよ。天王寺先輩,みんなの前ではああ言ってるけど,本当は自分が一番桜高校の事を気にしてる」

「私たちも白山先輩から聞いた,天王寺先輩と上月さんの関係。3年生の2人にとっては,この大会が公式戦で戦える最後のチャンスかもしれない。だから,絶対に逃す訳にはいかない」

「だから,ハル君にもちゃんと力を貸して欲しいんだ。」


 その真剣さに,俺がここまで連れて来られた理由がようやく分かった。

 きっと最近練習にあまり顔を出さなくなったから,俺が手を抜いてるんじゃないかと心配になったのだろう。

 それで釘を刺しに来たという訳だ。

 この2人になら,本当の事を話しても良いかなとも思うが,どこから情報が漏れるかは分からない。

 念には念を,だ。


「……当たり前だろ。先輩たちには全国大会まで行ってもらわないと困るんだから,明日だって明後日だって勝てるように全力を尽くすよ」


 そもそも俺だって手を抜く気などさらさら無い。

 明日の試合も,今まで通り全力でやるだけだ。

そんな気持ちも伝わったのか,俺の言葉に2人は笑顔で頷いてくれた。


「全員で勝つ。絶対,全国に行こう」

「もちろんだよ」

「うん」



 絶対に,全国へ行く。


 俺たちは改めて明日の試合への気持ちを固め,帰り道を再び歩き出した。


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