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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#11 ゲーム(2)

「俺たち1年はまだ基礎練しかやらせてもらってないよ」


 作戦会議の中で,この数日どんな練習をしていたのかを武から聞いた俺は耳を疑った。

 霧崎中のエースシューターだった武が,基礎練しかできていないとは。


「今年は初心者も多いから仕方ないよ。先輩たちにとってはみんな一緒さ」

「そんなもんか…?」


 普通だったら最初に実力を見るんじゃないかとも思ったが,今回に限ってこれはチャンスかもしれない。


「…じゃあ,あの先輩はお前のシュートの精度をまだ知らないんだな?」

「俺たちの中学時代の試合を見てたらどうか分かんないけど,そんなことするような人じゃないだろ」

「なるほど……」


 それなら,最初の作戦は決まりだ。



………



「ルールはさっきも言った通りハーフコートの5対5。シュートを決めるか,相手にカットされたボールがハーフラインを越えたら攻守交代で良いね」

「大丈夫です」

「先攻と後攻,どっちが良いかな?」

「先攻で」

「よし,じゃあ始めようか」


 ハーフライン上で先輩からボールを受け取り,一呼吸。

 ジャンケンをするでもなく先攻をこちらにくれるとは,さすがは優しい先輩だよ。

 ディフェンスはやや中心によってはいるがマンツーマンのようだ。

 ハーフライン中央の俺に柏木先輩,左右の45度の場所にいる武と佐藤君には,それぞれシューターとフォワードの先輩,エンドライン際にいる吉田先輩と大地には,もう一人のフォワードとセンターの先輩がそれぞれマークについている。

 俺は最初の作戦通りに大地に目配せをする。

 それに気づいた大地がゴール下を逆サイドまで走る。

 それを見た吉田先輩が,入れ替わるように逆サイドへ。

 その様子を見ていたディフェンスは,一瞬顔を合わせたが大きく移動はせず,マークをスイッチするだけだ。


 ――と,ここまでは予想通り。


 先輩が俺たちをなめきっている事は明らかで,そんな相手が真面目にディフェンスなんてするはずがない。

 最初は手の抜いたマンツーマンで,こちらの実力を見てくるに決まっている。



 ―――だからこそ,そこが最初の狙い目なんですよ!



 佐藤君に目線のフェイクを入れつつ,武にノールックパス。

 武のマークについている先輩は,ボールが行ったにも関わらず余裕ぶった表情を浮かべて様子見をしている。

 さぁ,頼むぜ相棒。

 これが成功するかしないかで,この後の作戦が決まるんだからな。

 作戦を知っている味方チームが横目ながらも固唾をのんで見守る中,武が動いた。


「ッ?!」


 驚きに目を見開いたのは相手チームの先輩たち。

 それもそのはず。

 武はフェイクも何もはさまず,その場で3Pシュートを放ったのだ。

 武の手から離れたボールは,中学時代と変わらない綺麗な放物線を描きながら,音もなくゴールに吸い込まれていく。

 唖然とする先輩たちを横目に,俺たちはハイタッチを交わした。



 …………



「じゃあお前,最初に3P決めろ」

「…は?」

「どうせ相手は真面目なディフェンスなんてする訳ないんだから,怪しまれる前に2,3本決めて差を広げる。簡単だろ?」

「お前は簡単に言ってくれるよ……」

「大丈夫だ。もし外れてもリバウンドは任せろ」

「…オッケー,任せた」


 頼もしい大地の言葉に武も頷く。

 こんな会話をしているが,武は自分が外すとは夢にも思っていない。

 味方にいる時は良いが,敵にまわすと厄介極まりない。


「でも,万が一ディフェンスをきっちりされると厳しいので,大地と先輩は俺の合図でこう動いてください」


 二人には俺の合図で位置を入れ替わってもらう。

 そうすれば,相手のディフェンスの具合も分かり,武の3Pも少しはうちやすくなるだろう。


「とりあえず,武のマークが厳しくなるまではこれで行きましょう」

「ディフェンスはどうするんだ? 相手はスタメンで,俺たちじゃ歯が立たないぞ?」


 そう口をはさむ吉田先輩に,俺はおどけるようにこう答えた。



 

 ………



「抜かれたら,その時はその時!」


 相手のドリブルに全くついていけずあっという間に佐藤君が抜かれ,慌ててフォローに入った吉田先輩も難なく交わされて,そのままレイアップを許してしまった。


「まぁ,しょうがないですよね」

「そういう作戦ですから」


 点を取られるのは仕方がないというのは,全員の共通認識だった。

 なので,勝つためにはそれ以上に点を取らなければいけない。


「取られたら,取り返す!」


 再び武の3P。

 これも決まり,さらに突き放すものの,相手チームの攻撃ですぐに取り返される。

 そしてさらに,ここで相手のディフェンスが変わった。


「もう打たせないよ,一年」


 武にダブルチームを組み,シュートどころかパスすらさせない形をとる。

 武もマークを外そうとしてみるが,先ほどまでとは違いきっちりついてくる。


「さぁ,これで君のチームはもうどうすることもできないね。ここからどうするんだい?」


 先ほどまでの焦り顔はどこへやら,再び勝ち誇った表情で柏木先輩が言う。

 俺は少し焦った表情をつくりながらも,内心では大きくガッツポーズをつくった。


 ――これも,実は狙い通りだったりするんですよ先輩!


 武へのフォローに回ったということは,今はエンドライン際のいる2人をゴール下から1人で見なければならないということ。

 そして,どんなに優れた選手だって,ずっと2人を見ていることなんてできっこないのだ。



 ………



「でもさ,武がシュートを外したり,マークがきつくなってシュートまで行けなくなったらどうするんだ?」

「武がシュートを外すのは論外ですけど,きっとマークはすぐに厳しくなると思います。なので,そうなったら次の作戦に行きます。先輩は,どこからのシュートが一番得意ですか?」

「う~ん,あまり得意って場所は無いけど,0度からのシュートは良く練習してるよ」

「凄いじゃないですか,あそこってボードが無いからかなり難しいとこですよ?」

「いや,そんな凄い話じゃなくて。僕はもともとセンターだったんだけど,どうしてもゴール下じゃ他の人に力負けしちゃうから,だんだんゴール下から遠い所で勝負するようになったってだけで……」

「それでも,ですよ先輩。じゃあ,武がうてなくなったら,先輩はそこに行ってください。俺が何とかしてボールを回しますから。で,行けると思ったら遠慮なくシュートしちゃってください」

「でも,全然入らないよ?」

「先輩,自分でそんなこと言っちゃダメです。先輩だって3年間部活をやってきてるんですから,自信持っていきましょう。それに,外したって…」

「リバウンドは任せてください,どんなボールだって取ってみせますから」

「はは。じゃあ僕は安心して外すよ」



 ………



 ―――いくらなんでも,そこまで舐めてもらっちゃ困りますよ!


 一息にギアを上げ,柏木先輩の左からドリブルイン。

 さすがに簡単には抜かせてもらえず,ゴール下までは入り込めない,

 でも,パスを出すにはそれで十分。

 受けやすい位置に移動してくれていた吉田先輩に迷わずパスを出す。


「よろしくお願いします,先輩!」


 そのまま柏木先輩の前に体を入れ,吉田先輩へフォローに行くのを防ぐ。


「このっ……」


 すでにセンターの先輩は大地ががっつりスクリーンアウトでゴール下への侵入を防いでいる。

 となれば,先輩は今フリー。

 慌てて武についていた一人が戻ろうとするが,もう遅い。

 先輩の手から放たれたボールは,2,3度リングの上を跳ねながらも,最後はしっかりとネットを揺らした。

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