#116 試合も終わって…
優勝の興奮冷めやらぬまま表彰式を終えた俺たちは,体育館前で最後のミーティングをするために集合した。
いくら1位で通過したと言ってもこれはまだ地区予選。
来月に開催される県予選で勝てなければ全国へは行けないのだ。
念願の全国大会出場を目指し,県予選までの残り半月は少しも気が抜けない。
そして,それは全員が分かっているのだろう。
天王寺先輩の言葉を待つ部員の顔は真剣そのものだった。
「今日はお疲れ様でした。みんなのおかげで何とか地区予選は1位で通過することができました」
そんな中,先輩がゆっくりと口を開く。
「でも,みんなも知っての通り,これはまだ地区予選。全国に行くためには,来月の県大会で優勝するしかありません。練習でもまだまだ気は抜かないように」
『はい!』
「じゃあ今日はこれで解散。ゆっくり休んで,また明日から頑張りましょう」
先輩の短い言葉でその場は解散となる。
今日も内容の濃い試合だったし,みんなの疲れも相当な物だろう。
既に迎えが来ている人も少なくないのだろう,部員の多くは解散してすぐに駐車場へと向かう。
親のいない俺は電車でここまで来ているので,駅まで歩くしかない。
どうせ他に電車で来ている人はいないだろうと思い,1人で歩きだそうとした所で,天王寺先輩に呼び止められた。
「ハル君は電車よね。電車組でみんな一緒に帰らない?」
「え? あ,はい」
意外にも俺の他にも電車組がいるらしい。
しばらく待っていると,天王寺先輩の他に白山先輩,文香,風花といういつものメンバーがやってきた。
みんな試合に出て疲れているというのに大変なことだ。
「じゃ,行きましょう」
そんな天王寺先輩の言葉で俺たちは会場を後にした。
「――でね,試合の後上月さんに話しかけられてびっくりしちゃったよ」
「…どんな話をしたの?」
「『どうしてあんな簡単に私を止められたの?』って。失礼しちゃうよね,全然簡単じゃなかったっていう話よ」
「でも,確かに風花は簡単に抑えているように見えたけれど,あれは何で?」
「う~ん……私にもよく分からないんだけど,何でか動きが見えたんだよね。最終クォーターで上月さんも疲れてたからかな」
「あら,そんな事ないわよ。確かに少しは疲れていたかもしれないけど,彼女を止められたのは風花ちゃんの実力よ」
「そ,そんなこと……」
「なにせ,毎日私の全力を目の前で体験しているのよ? それで練習中でも3割は私を止められるようになったのだから,それ以上の相手じゃなきゃ止められるに決まっているじゃない」
「な,なるほど…」
「後はオフェンスの方も私くらいになれば完璧なんだけどね~」
「が,頑張ります……」
「まぁそう言ってやるな。ここ最近,かなり動きも良くなってきている。光を抜くのも時間の問題だろう」
「あら,私だって負けないくらい成長するわよ」
駅までの道のりをみんなで談笑しながら帰る。
朝1人で歩いた時はそれなりの距離を感じたが,こうして話しながら歩くとあっという間に駅に着いてしまった。
名残惜しいが,ここからはそれぞれの電車に分かれることになる。
「でも,先輩が倒れちゃった時はどうしようかと思いましたよ~」
「あぁ……あの時は本当にごめんね。もう少し頑張れるかと思ったんだけど…」
「あれだけ1人で無茶をしてきたんだ。ガス欠にもなるさ。今度からはもう少し味方を頼れ」
「は~い……」
あれ? みんな当然のように同じ方向に歩いていくけど,同じ電車なのか?
少なくとも風花は反対方面だと思うんだけど…
「あ,あの,みんなこっちで大丈夫なんですか?」
話が盛り上がっている所に割り込んでいくのは勇気がいるが,確認は大事だ。
このまま違う電車になんて乗ったら大変だからな。
「え? 何言ってるのよ今さら」
「…へ?」
そう思っていた俺に,天王寺先輩はキョトンとした顔で言った。
「さっきも言ったじゃない。今日はこのままハル君の家で祝勝会をやるんでしょ?」
「……………はい?」