#115 決着
『ナイスシュート!!』
風花がカウンターを決めた直後に響いた霧ヶ原ベンチからの大歓声で、止まっていた時間が再び動き出す。
「ど、ドンマイ! 次は1本返すわよ!」
まさかあそこでカットされるとは思っていなかったのだろう、楓高校のメンバーには明らかな焦りが生まれていた。
今の攻防で残り時間は2分20秒まで減り、点差は12点と開いた。
いくらエースの速攻で得点を重ねていっても6ゴール差はそう簡単に埋まるものではない。
その上、今のプレイでそのエースが止められたショックは少なからずあるはずだ。
「…もう、さっきみたいなプレイはさせません」
だが、相手だってそれで諦める訳がない。
ボールを持つ上月さんのプレッシャーは今まで以上に強くなり、集中を切らせば一瞬で得点されてしまうだろう。
そしてそれは風花も十分に分かっているのか、少しも気を緩める事はせずただ目の前の選手に集中している。
「先輩!」
今回彼女が選んだのはドリブルではなくパス。
残り時間の少ない今、じっくり攻める事にメリットは無いが、その選択をせざるを得ないほどに風花のプレッシャーが強いという事なのか。
最終的にはシュートを決められてしまったが、シュートクロックぎりぎりまで粘ったディフェンスのおかげで残り時間は約2分。
これで以降のこちらの攻撃が全て止められてしまったとしても、時間いっぱい使っていけば逃げ切れる計算だ。
「ディフェンス! 絶対止めるわよ!」
でも、相手だってそう簡単に行かせてくれる訳もなく、ここぞとばかりにオールコートでぶつかってくる。
「この点差を守ろうなんて思うな! 最後まで攻めるぞ!!」
そしてもちろん、うちのチームに点差を守ろうなんて考える人もいない。
この場面でそんな消極的な作戦をやっているようじゃ、すぐに相手の勢いに呑まれてしまうからだ。
特にあの上月さんが相手では、気を緩めたら10点なんて一瞬で消えていってしまう。
そして、互いに全力を出し切った2分はあっという間に過ぎて――
「試合終了! 88対76で、霧ヶ原高校の勝ち。礼」
『ありがとうございました!』
俺たちは、地区予選1位通過という文句なしの成績で、県大会への切符を手に入れた。