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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#113 諦めない心

 ――私が天王寺先輩の異変に気が付いたのは、第3クォーターが中盤に入った辺りからだった。

 少しずつ、でも確実に先輩のスピードが落ちていくのが分かった。

 きっと毎日のように先輩の速さを目の前で体感していた私にしか分からないくらいの微妙な変化。

 でも、先輩は上手いからそれも上手にカバーして戦っていたから、別に大丈夫だと思い込んでしまった。

 どれだけ無理をしていたかまで気が回らなかったんだ。

 だから、特に誰に相談する事もしなかった。

 もし異変に気が付いた時、ハルにちゃんと話しておけばこんな事にはならなかったかもしれないのに。

 目の前で悔しそうにベンチに座り込む先輩を見て、私はそう後悔した。

 チームのみんなもここで先輩が抜けたらどうなるのかが分かっているのか、誰も何も言えないまま、どこか諦めムードまで漂い始めていた。

 このままでは、残り3分でまだ8点勝っているのに、ここまで必死にやってきたのに、それが全て無駄になってしまう。

 私のせいで、先輩や文香の頑張りが無駄になってしまう。


 …そんなの、絶対に嫌だ!


 気が付いた時には、私の手は自然と上がっていた。


「――私が出る。私が、アイツを止めてみせる」





「風花…?」


 そう言いながら前に出てきたのは風花だった。

 もう諦めムードが漂うこのチームの中で、彼女の眼だけがまだ死んでいなかった。


「止めるって、あの上月さんを? 1年のあなたがどうやって…」


 そんな風花に、誰とも分からない呟きが漏れる。

 それを皮切りに、同様の言葉が色々な場所から聞こえてきた。


「あなたが出るより、誰か3年生が出た方が良いわよ」


 もっともな意見だ。

 1年の風花よりはここにいる3年の方が技術は上だろう。


「……」


 でも、俺は風花のこの眼に賭けてみたいとも思った。

 こんな状況でも決して諦めていない、ただ勝利を信じている眼を。


「………」


 全員の視線は白山先輩に向けられている。

 天王寺先輩が動けない今、チームの舵を取るのは白山先輩で、ここでメンバーを決めるのも先輩だろうと思っているからだ。

 でも、その視線を受けた先輩は、薄い笑みを浮かべて俺を見る。


「…木嶋、そんな顔で私を見られても困るぞ。誰を出すのか、決めるのはお前だ。私たちはお前の意見を全面的に尊重するさ」

「先輩…」


 先輩の言葉に、ベンチに座る他の3人も大きく頷いてくれる。

 それを見て、少し戸惑いながらも周りのメンバーの視線も俺に向く。


「俺は……」


 もしかしたら、この選択は間違っているのかもしれない。

 先輩からしたら同じ1年を贔屓していると思われるかもしれない。


 でも、俺は彼女を信じてやりたい。

 合宿から今まで毎日のように天王寺先輩の指導を1番近くで見続けてきたこいつの力を信じてやりたい。


「……風花、準備してくれ。先輩の代わりは、お前だ」

「うんッ!!」


 周りにいる上級生の中には少し不満そうな顔をしている人もいるけれど、俺はこの選択がベストだと信じている。


 奇跡を起こすのは、いつだって最後まで決して諦めない人間なのだ。


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