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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#106 引き戻した流れ


 西田先輩が入ってすぐの攻撃は,先ほどまでの攻撃ではあまり目立っていなかった15番にスリーポイントを決められてしまい,これで点差は5点。


「すみません!」

「気にしないで,1本確実に決めましょう」


 まさかスリーを打てるとは思っていなかったのだろう。

 ドライブインを警戒して離れ気味にマークしていた文香が頭を下げるが,意外だったのは全員同じだ。

 ここで大切なのは反省よりも気持ちの切り替え。

 次の攻撃を確実に決める事だ。


「12番!」


 こちらが交代しても相手のマークは変わらない。

 白山先輩と代わった西田先輩にはそのまま8番がマークにつく。

 作戦も先ほどと同じで,西田先輩をゴール下に入れさせないようにどっしりと構えている。


「……でも,それじゃあの人は止められないんだなぁ」


 相手のスタイルを改めて確認した所で,西田先輩も同じように腰を落とし力を込めた。


「ッ?!」


 ゆっくりではあるが,じりじりと確実に先輩は相手の8番を押し込みながらゴール下への道をつくる。

 さすがは霧ヶ原1番のパワープレイヤー。

 単純な押し合いとゴール下でのスペースの取り合いなら誰にも負けないと自称するだけの事はある。


「彩芽さん!」

「はい!」


 そして,西田先輩の真骨頂はそれだけでは終わらない。

 先ほどは苦し紛れのシュートしか打てなかった火野先輩が,パスを受けると同時に躊躇いなくミドルシュート。


「り,リバウンド!」


 さすがにその動きは予想していなかったのか,先輩のシュートにほとんど反応出来なかった相手の6番は慌ててそう叫ぶしかない。

 先輩のミドルシュート,成功率は実はそこまで高くない。

 今までの練習や試合を見ても,ほとんどがドリブル突破からのレイアップかゴール下でのシュートで,ある程度距離があるミドルシュートはめったに打たないのだ。

 相手の6番だってそれを見越して守っていたから突然のシュートに反応出来なかったのだろう。


 では,なぜそんなシュートを先輩は何の躊躇いも無く打てたのか。

 その答えは,今のゴール下の状況にあった。


「任せて!」


 そこにあったのは,先程までとは真逆の光景。

 相手の8番を完全に抑え込み,べストな位置でリバウンドに跳ぶ西田先輩の姿だ。


「ナイスリバウンド!」


 もちろんそんな状況でリバウンドが取れない先輩ではない。

 確実にボールを奪い,突然の事に5番の目が神崎先輩から西田先輩へと動いた所を見逃さず神崎先輩へとパス。

 パスを受けた神崎先輩は5番が戻るより先にシュートし,それが霧ヶ原高校の初得点となった。


「…さすがは葉菜。たった1プレイで流れを変えて見せたな」


 嬉しそうに神崎先輩とハイタッチする西田先輩を見て,俺の横に座る白山先輩が感心したように呟く。


 たとえどんなにリバウンドを取っても,西田先輩は決して自分からシュートを打たない。

 けれど,だからと言って能力が無い訳ではない。


 もちろんシュートを決めるというのはバスケにおいて唯一の得点源であり,全員が目指す所でもある。

 だからこそ自分の得意な場所を探し,相手を振り切りパスをもらう。

 でも,シュートの確率がいつも100パーセントな訳がない。

 シュートが外れる要因は様々あるが,その中でも精神的な物が占める割合は意外と大きい。

 普段は入るはずのシュートがここぞという時に入らない,なんてことは良くある話だ。


 では,そんな中にあって西田先輩のような強力なリバウンド力を持つプレイヤーはどういう役割を持つのか。


 リバウンドとは,外れたボールを取り,本来ならば失敗で終わってしまうはずだった攻撃に再びチャンスをつくるプレイだ。

 もちろん相手に取られてしまえばそれで終わり。

 下手をすればそのままカウンターで手痛い反撃を食らうかもしれない。


 最初から反撃を恐れて打つシュートと,もし外しても仲間が取ってくれると信じて打つシュート。

 どちらの心境の方が成功率が上か,そんな事は火を見るより明らかだ。


 つまり,西田先輩が1人いるだけで,チーム全員がシュートを打ちやすくなり,それだけ攻撃にリズムが出る。

 火野先輩の先ほどのシュートも,きっと西田先輩を信頼してなければ打てないシュートだろう。


「さぁ,この後はどう来るか…」


 歓声と共に,今度はディフェンスでも西田先輩がリバウンドを取り,天王寺先輩のカウンターで更にもう2点が追加される。



 これで1点差。

 開始直後に相手に傾きかけた流れはこれで完全に切った。

 第1クォーターも残り半分程度。

 まだまだ試合は分からない。


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