#104 決勝に向けて
「78対67で,楓高校の勝利です。礼」
『ありがとうございました!』
最後の礼で試合が終わる。
両者の実力はほとんど互角だった。
最後に勝負を分けたのは,勝利に対する気持ちという事か。
「次は,楓高校とね…」
観戦していたメンバーがぞろぞろと席を立ち移動を始める中,後半から合流してきた天王寺先輩が俺の隣で息をつく。
楓高校とは4月の頭に行った練習試合以来の対戦だ。
あの時は後半で復活した天王寺先輩のおかげでうちが勝った。
ただ,あの練習試合からそう時間は経っていないが,楓の選手たちの動きはその時とは全く違う物になっている。
先輩もそれに気づいたのだろう,ずっと真剣な表情でコートを見ていた。
「でも,あの時と違うのはうちも一緒ですよ」
「…えぇ,そうね」
そう,うちのチームだってあの時とは違う。
同じ時間の中で,確実にレベルアップをしているのだ。
「決勝は午後4時からだから,ミーティングはお昼ご飯を食べてからで良いわね。
ハル君,みんなにそう伝えてきてくれる?」
「はい,分かりました」
先輩はまだ何か思う所があるのか,座ったままベンチでミーティングをしている楓高校から目を離さない。
俺はそんな先輩の邪魔をしないようにそっと席を立ち,みんなの所へと向かった。
「みんなお昼は食べたわね。そろそろ決勝に向けてのミーティングを始めるわよ」
お昼を食べてすぐに,天王寺先輩がみんなを集める。
とうとう決勝,集まったみんなの顔も真剣そのものだ。
「決勝は,この前練習試合をした楓高校との試合になります。でも,さっきの準決勝を見た通り,あの頃とは別物だと思って気を引き締めて行くわよ」
『はい!』
「スターティングメンバ―は,準決勝と同じメンバーで行きます」
天王寺先輩の言葉に,白山先輩,神崎先輩,火野先輩,文香が頷く。
それを確認して,天王寺先輩も頷く。
「楓高校は今までの相手とは違って最初からマンツーマンでのディフェンスが基本よ。無茶なドリブル突破よりも,確実なパス回しを心がけましょう。
こちらのディフェンスもマンツーで行くわ。さっきの試合を見る限り,スクリーンで味方をフリーにさせながらシュートまで持っていくパターンが多かったから,もしそうなっても慌てず声をかけあって行きましょう」
『はい!』
「…私からはこのくらいかな。他に,何かある人はいる?」
先輩の言葉に手を上げる人はいない。
それを確認して,先輩はゆっくりと口を開く。
「…この決勝は,勝っても負けても県予選には進める試合。その上,相手はついこの前の練習試合では勝ったチームという事で,つい気持ちが甘くなってしまう所もあるかもしれません。
でも,そんな考えではたとえ県予選に行ってもすぐに負けてしまいます。私たちの目指す場所を忘れないように。
決勝も,全力で勝ちましょう!」
『はい!』
天王寺先輩の言葉でミーティングは終わり。
そして――
「ただ今から,地区大会決勝戦,霧ヶ原高校と楓高校の試合を始めます」
『よろしくお願いします!』
――決勝戦の,幕が上がる。