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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
103/148

#101 1回戦(2)


「霧ヶ原,メンバーチェンジです」


 運良くすぐに交代のタイミングがやってきて,天王寺先輩と風花が入れ替わる。

 突然来た初めての公式戦出場という事で,多少は硬い所もあるが,他のメンバーで十分カバー出来るだろう。

 そう思った俺は,戻ってきた天王寺先輩にドリンクを渡し,そのまま隣に座る事にした。


「お疲れ様です,先輩」

「あの調子だから,ほとんど疲れてないけどね」


 ドリンクを受け取りながら苦笑する先輩。

 それでも,俺の表情に気付いたのか少し真面目な表情に戻る。


「こんなタイミングで私から交代を頼んだ事,怒ってる?」

「……えぇ,まぁ…」


 少しニュアンスは違うが,言いたい事は同じような事だ。


「…交代のタイミングはあなたに任せるって言っておいて,我ながら勝手な事だとは思ってるわ。でも,あのままロースコアゲームを続けるのも限界があったのよ。それは分かるでしょ?」

「…先輩が,本来の実力を見せれば良かったじゃないですか」

「………」


 少し嫌味っぽくなってしまっただろうか。

 先輩は一瞬だけ目を見開き,しかしすぐに怪訝そうな表情を浮かべる。


「…ハル君は,あそこで私が本気を出していた方が良かったって言うの?」

「だってそうじゃないですか。やり方はどうであれ,先輩はこの試合で手を抜いたって事じゃないですか」

「…そう……」


 先輩はどこか怒っているような,でも少し寂しそうな表情を浮かべたまま口をつぐみ,もう俺と話す事は無いとばかりにコートへと視線を向ける。

 そんな先輩の妙な迫力を前に俺もそれ以上何も言えなくなってしまい,気まずい雰囲気が続く中で第1クォーター終了のブザーが鳴った。



「お疲れ様でした!」


 インターバルに戻ってきた選手たちにドリンクを渡して歩く。

 みんな疲れてはいるが,まだまだ余裕はありそうだ。

 第1クォーターが終わって点数は38対12でこちらがリードしている。

 このまま行けば負ける事はないだろう。


「第2クォーターもこのまま行きます。風花ちゃんはまだ少し動きが硬いかな。もう少し周りを見て,どんどん頼って行こう」

「はい!」

「ゲームメイクに関しては特に言う事はありません。第2クォーターもこのまま攻める気持ちをなくさないように」

『はい!』


 天王寺先輩の簡単な言葉だけでミーティングは終了で,残りの時間は体力の回復に専念する。

 俺はその間に何度か天王寺先輩に話しかけようとしたが,他の部員に声をかけられたりして上手く躱されてしまった。


「…何かあったのか?」

「あ,はい…」


 そんな俺を見かねて声をかけてくれたのは白山先輩。

 試合前と良い今と良い,先輩には迷惑をかけっぱなしになってしまう事になるが,俺は隠さずに全てを話した。

 俺が1人で考え込むよりも,先輩に相談してしまった方が何倍も良いという事は,この数ヶ月で俺も学んでいるからだ。


「なるほど…」


 だが,俺の話を聞いた白山先輩も,難しい顔をして黙ってしまう。

 てっきりいつものようにさらっと問題点を見つけて解決の糸口を示してくれると思っていたので,この反応は意外だ。

 もしかして,この相談はタイミングが悪かったのだろうか。


「えっと…」

「……木嶋,お前は本当にそう思っているのか?」

「え?」

「今の光が本気じゃないと,本当に思っているのか,と聞いているんだ」

「………」


 正直な所,そう思っていると言っても過言ではない。

 だが,先輩はそうは言わせないという表情だ。


「……なら聞くが,お前の言う『本気』とはなんだ?」

「…いつでも全力でやる事…です……」


 俺の沈黙を答えだと受け止めたのか,先輩が今度は俺に聞いてくる。

 『本気』とは何か。

 決まっている,自分の持っている全力を出す事だ。

 だが,そんな俺を見てふっと笑い諭すように先輩が言う


「ただがむしゃらに全力を出す事だけが,本気でやるという事じゃないだろう?」

「……?」


 先輩の言葉に首を傾げる俺に,「おっと,もう時間だ」と言い残し先輩はベンチを離れてしまう。


「全力を出す事だけが,本気じゃない…」


 その後も順調に試合は進み,結局その日は93対38という大差をつけ,霧ヶ原高校は地区予選第1戦を無事に突破した。


 だが,勝利に沸くメンバーをよそに,俺の頭にはずっと白山先輩に言われた言葉が引っ掛かっていたのだった。


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