#1 始まりは突然に(1)
ムッとする空気を切り裂いて、キュキュッと心地よい音が耳に響く。
広いコートを縦横に走るボールと、それを追いかけるプレイヤーたち。
時に激しく、時に静かにネットが揺れ、その度に歓声が沸く。
中学総体県大会、決勝。
勝てない相手ではない。実際に以前の大会では勝ったこともある。
しかし、パスも、シュートも、うまく決まらない。
体が重い。全身が針金で固定されたように動かない。
「こっちだ!」
いつもなら反射的に動けるチームメイトからの声に、反応ができない。
点差が、開く。
俺たちの焦りなど知らず、時計の針は無情に時を刻んでいく。
そして―――
その日、俺たちの中学最後の総体が終わった。
~ダンマネ!~
「木嶋遥斗です。霧崎中出身、ポジションはガードです」
春の陽気が学校中を取り囲む四月。
俺は第一志望だった霧ヶ原高校に合格し、順調に高校生活をスタートした。
「新巻大地です。園部中出身、ポジションはセンターです」
古ぼけた体育館に響く声は、新入生の挨拶。
今日からようやく仮入部期間が始まり、一年生は思い思いの部活へと足を向けていた。
霧ヶ原高校はあまり部活に力を入れている学校ではないので、興味のある部活が無い生徒は無理に部活に入る必要はない。そのためか、部活が始まると全体の半数近い生徒は帰路につくことになる。
「う~ん、まぁ一日目だから仕方ないとはいえ、一年生は君たちだけか…」
入部希望者の自己紹介を終えたところで、キャプテンが頭をかく。
今日からバスケ部に希望を出したのは、俺たち二人だけ。
それどころか、現在バスケ部の正式な部員は、三年生が三人だけ。二年生は、去年のウィンターカップを最後に全員辞めてしまったらしい。
「ま、まぁ……気を取り直して練習始めようか。二人の実力も見ときたいし」
『はいッ!』
ここから、俺の高校生活が始まる―――
はずだった。
ガラリと大きな音を立てて、突然開かれた体育館の入口。
その向こうに立っていたのは顧問の水瀬先生と、学園長の姿。
何事かと驚く俺たちの前で、学園長はゆっくりと口を開いた。
「本日の職員会議で、この部活の廃部が決定した」