第9話『アイドル業界の地平線』
※今回、ピクシブ版と若干ですが台詞を変えている部分があります。それによって今後の展開や内容が変化する訳ではありませんが、気になる方は比較してみてはいかがでしょうか?
西暦2016年4月9日午前11時10分、新たなる勢力が動きだした瞬間でもあった。
「もう一度だけ言う。超有名アイドルが行おうとしている事、それは日本経済を救う事ではなく超有名アイドルプロデューサー1名による絶対支配だ!」
エクスカリバーの発言、それは超有名アイドル商法を排除しようとしている動きが存在することを示唆、これが新たなる波紋を呼ぶ。
【あの発言は本当なのか?】
【いまだに信じられない】
【今まで、CDチャートを独占していたのは実力ではなく金の力による物だったのか!?】
【わずか数人というファンの莫大なオイルマネーにも例えられる大量投資。それは以前から問題になっていたはず】
【この世は金が全てと失望させたバブル崩壊の事か?】
【あるいは、アイドルバブルがはじけたとも言える別の事件かもしれない】
【それもあるが、エクスカリバーの発言には何か裏がありそうだ】
【他の世界での実例を挙げて『この世界にも同じ事が起こらないとは限らない』と言っているような物か】
【フィクションの世界を例に出して『超有名アイドル商法をみんなで潰そう』と言っているのと同じだ】
【彼らが求めている物、それはこの世界における実例であって、他の世界におけるデータを持ち出して提示する事ではないのだが】
ネット上では、想定された範囲の混乱が起きている。超有名アイドルは実力で人気を勝ち取ったのではなく、一部の信者による投資でチャートを独占していたのだ。
エクスカリバーが提示した物、それはあくまでもこの世界における実在の事件ではなく、他のデータ等から作りだした『例え話』でしかない。これに対して、ネット上の意見は真っ二つになっていた。
【しかし、あの話が事実とは限らない。一部は真実かもしれないが、具体的な事例が欲しい】
【それは言える】
【具体的な事件を挙げてもらわないと、一定の理解が得られないだろうな】
【さすがに警察が調査中の事件やガセネタを例えに出されても困るが、過去の事件を出すのであれば問題はないと思う】
【これでは『こうした問題があるが事例は各自で調べろ』のような感じを持たれるのは当然か】
ひとつは、話自体は信じるが裏付ける証拠が欲しいと考える人物である。彼らは、今回の発言に至った事件の事例を挙げれば信じるだろう。しかし、それを提示しなかったエクスカリバーにも何か狙いがあるように見える。
【彼が実例を挙げられないのは、証拠をつかんではいるのだが公開する事で自分に損が出ると言う可能性も否定できない】
【証拠と言っても、芸能事務所が口封じを行うのは目に見えている。実例を下手に出せば、圧力がかかる事を危惧しているのでは?】
【それは警察等も芸能事務所が買収していたケースに限られる。そうした不祥事がニュースになっていない以上、彼の言う事には矛盾が生じている可能性も否定できない】
【証拠が出せない理由、それはネット炎上を誘発する可能性があるからだと思う。そうでなければ、ああいう言い方はしない】
【ネット炎上もあるのだが、情報のソースを出せないような言い回しも気になるな。あれでは逆にネット炎上を誘発するだけだ】
もうひとつは、証拠を手に入れているのだが、公開できない理由があって意図的に隠していると考える人物である。その場合の情報ソースは、ガーディアンの調査による物、もっと危険な場所から拾って来た物、芸能担当の記者から手に入れた物等と考えているようだ。
半数近くのネット住民はエクスカリバーの言う事にも一理あると同調はするが、具体的なこの世界における実例が欲しい―と言う事なのだ。
【別の世界では日本政府が超有名アイドルを支持しているという話を聞く。まさか、全ての世界は超有名アイドルによって支配されるのか?】
【超有名アイドル商法には、さまざまな世界でも指示を受ける事はなかった。それは現実でも同じ。つまり、超有名アイドルプロデューサーの支配下にならないのは、ファンタジー世界だけなのか?】
【超有名アイドルのプロデューサーは、テロリストと言う訳でもないはず。それが、非難の対象になるのはおかしい】
【テロリストと勘違いされそうなアイドル活動をしている訳ではなく、付け加えれば怪我人が出るような事もしていない。それでは、警察も手が出せない】
【どちらにしても、超有名アイドルを沈黙させるにはこちら側から反撃するしかないのか?】
【そう言った事をすれば、社会的に消されるのは確実だ。おそらく、それによって超有名アイドル以外のコンテンツを全ての世界から消滅させるつもりだろう】
超有名アイドルに対して反旗を翻そうと考える人物もいるが、警察ではなく日本政府によって物理的に消されるのではないか、と懸念する声があって実行できずにいるらしい。
【こうなったら、超有名アイドルが干渉する事のないファンタジー異世界へ転生するしか方法はないのか? このままでは超有名アイドルの金策でコンテンツ業界は破滅する】
この一言が、現状のコンテンツ事情を語るのにふさわしいのかどうかは不明である。しかし、行き場のないような怒りは超有名アイドルに向けられているのは事実だ。
西暦2012年頃、ある超有名アイドル商法を全否定するサイトが存在した。おそらく、エクスカリバーの話を聞いてサイトの存在を思い出したネット住民も少数ではない。
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《アイドル業界の地平線》というサイト名を見る限り、有名アイドルに関しては一定の評価をしていると誰もが思っていた。しかし、実際は180度とも例えられる位に違っていた。
【超有名アイドルに関しては炎上と言う文字がちらつく程の批判を展開しているが、それと同等に有名アイドルも批判している】
【それだけではなく、海外の一部アーティストを実例に挙げて超有名アイドル商法が賢者の石と例えている。まるで、存在自体が悪と耐えているかのように】
【彼はアイドルに関して悲観的に物を見過ぎている。これではBL勢を盛り上げたいが為に書いているようにも感じられるが】
サイトの内容を見たアイドルファンからは、このような声が聞かれる。おそらく、超有名アイドルのみを批判し、他のアイドルは―と考えていたネット住民の反応だろう。
【この発言が、ここにも来たか】
【超有名アイドル商法を否定するような文章は、ネット上を探せば存在は確認出来る。しかし、それをゼロから作り出して意見する人物が現れたのは驚きだ】
【果たして、これが超有名アイドルの耳に届くのか?】
【芸能事務所は都合の悪い意見は全く受け入れず、更に事態を悪化させて潰そうとするだろう。そうした動きに利用されないかが心配だ】
【別ジャンルの作品がテレビに出た時に意図的演出で超有名アイドルの方が優れていると―そうした動きと同じになると言うのか?】
この記事を見た一部のネット住民からは、過去にネット上でも言及された超有名アイドル商法を否定する話が浮上したと考える者もいた。
詳細な内容を解読しようと何人かのまとめサイト管理人が動き出した。これによって、少しはサイトの内容に迫れると誰もが思ったのである。
しかし、一般人の思考では理解できないような専門用語や文章の羅列、更には〈こちらの世界〉で起こった出来事ではない未知の事件、そうした解析不能な現実を前にしてまとめを断念する管理人が後を絶たなかった。
【彼は全てを破壊しようとしている】
【コンテンツ業界を成長させてきたのは超有名アイドルだ。海外からの投資家も多数獲得している現状を知らないのか?】
【信じられない】
【もしかすると、この人物はBL勢力の回し物かもしれない】
【一体、彼は何で日本経済を立て直そうと考えているのか】
このサイトを見た人物の誰もが『彼に日本経済を立て直す気は全くない』と考えていた。しかし、それは『ある出来事』に対する皮肉でもあった。
【誰もが『たった1人のアイドルプロデューサーが魔王の如く存在する』と言っているが、そう思い込みたくなるだけ―】
まるで、アニメやゲームの架空アイドル以外は存在価値がないという雰囲気が文章からも感じ取れる。
【誰が何の目的で、この記事を書いたのか理解に苦しむ。これを書いた人物は、何を訴えようとしているのか?】
これらのコメントは西暦2012年当時から2013年終盤辺りまでの物が大半で、2014年の物は少数である。その頃には超有名アイドル批判も冷めたというべきなのか、それとも超有名アイドルによる日本征服が完了したという意味なのか?
そして、学園都市群セイバーロードが本格始動を始めた頃、改めてサイトの重要性が注目されたのだが全てが手遅れだったのかもしれない。サイトが突如として更新を停止、現在はサイト自体が削除されている。
「このサイトで正解だったわね」
エクスカリバーが例の告発を行ったのと同時刻、県内某所にある自宅で作業をしていた瀬川榛名は、《アイドル業界の地平線》に関係するテキストが持ち出せなかった事を思い出した。
「今回の事件、その全てを握るのは過去に超有名アイドル商法に関して疑問を投げかけた、このサイトの管理人―」
しかし、瀬川が手に入れていたテキストには管理人の名前までは書かれていない。本来であればサイトその物をコピーした物を手に入れようと考えていたのだが、そのデータは持ち出し不可。今も、あのサーバーの中に保管されていると思われる。
「全ての鍵を握るのは、ある場所に眠ると言われているアカシックレコード。それを発見すれば、このサイトだけではなく全ての意見に共通する『超有名アイドル商法批判』をまとめる事も可能か」
瀬川はアカシックレコードに全ての謎を解くカギがあると考えていた。しかし、肝心のアカシックレコードはガーディアンでさえも所在を掴んでいないとされている程に不明な要素が多い。
「このサイトを含めて半数近くが更新を停止、あるいは削除に追い込まれている。それを考えると、日本の超有名アイドル依存が本格化している可能性もある」
考える事はある一方で、今は別の一件を解決させる方が先決と判断し、瀬川はアンテナショップを後にした。
今回のエクスカリバーの行動を一種の炎上を狙った物と考える勢力もいれば、問題提起をする為に公表したと考える勢力もいる。《アイドル業界の地平線》に関係した物と考える人物もいたのだが、それは瀬川を含めて一握りの人物だけだった。
【まるで、過去にあったドラマ番組の騒動を連想させる】
【彼の狙いは、一体どこにあるのか?】
【事態を混乱させて他勢力を潰すような目的があるとは考えられない。実際、他のコンテンツ勢も超有名アイドルのやり方に対しては不満を持っているのは事実だ】
【超有名アイドル商法を規制で封じれば、コンテンツ輸出的な意味では海外から非難が集中する事はなくなるが…】
【何でも規制に頼るのでは、政府が赤字国債を超有名アイドルの力で減らそうと考えていた考えと全く同じ】
【だからと言って野放しにしておけば、いずれ世界中にも飛び火するような話題だ。超有名アイドルの影響で失業者が続出、会社が倒産したら―】
【超有名アイドルは、現代社会におけるチートなのは間違いない。初めから存在してはいけなかったのだ】
【チート撲滅と言う部分はセイバーロードも言っていたな。超有名アイドルはコンテンツ業界におけるチートであると】
【それでも、何とか丸く収められる方法はないのか。超有名アイドルを駆逐するのではなく、もっと違う方法で】
【それが出来れば、ネット上で異常な程の議論が起こる筈がない】
【もしかすると、超有名アイドル商法に目を向けさせて、その間にBL勢が特定のカップリングで市場を制圧しようという作戦かもしれない】
【あるいは、もっと別の勢力が焼畑戦法を―】
ネット上では超有名アイドルが一種のチートであり、超有名アイドル商法の規制は当然という動きがあった。しかし、それでは一部ネット勢力の思う壺だと考える人物も存在する。一体、この騒動は何処まで行きつくのか?
その一方で、エクスカリバーの行動に関して計算外と考える勢力も存在していた。それは、今まで表舞台に姿を見せる事のなかった勢力。
「まさか、こちらが動く前に別の勢力が動いたとでもいうのか?」
秋葉原の某所にあるゲームセンター入口でスマートフォンをチェックしていたのは、身長172センチ、細身で銀髪セミロング、長袖のカジュアルウェアを着こんでいる男性。彼はゲームセンターへ入ろうとした時にニュースを知り、慌てて外へ出たのである。
「ガーディアンとばかり思っていたが、更に別の勢力が動き始めた可能性もある。もう少し調べてみるか」
その後、色々なネット上にある情報を集めた結果、ガーディアンとは別の何者かが動いているという箇所までは判明した。しかし、それがエクスカリバーである事までは発見するに至っていない。
「どちらにしても知らせる必要―?」
別の情報を含めて、誰かに知らせようと思った矢先、彼あてに着信があった。人物の名前はアルケーと表示されている。
『エクスシアが単独で出撃、ロストガジェットも一緒に持ち出している事を確認済だ』
「単独出撃? まさか、あの人物が関係しているのか?」
『あの人物?』
「すまない、今の事は忘れてくれ。おそらくは、例の超有名アイドル商法に関する告発が関係していると思うのだが」
『例のニュースか。それなら、こちらでも確認している。おそらく、それを見て刺激されたのは確実だろう』
「一体、あの人物は何を伝えようとしていたのか」
『ひとつだけ言えるとすれば、彼もエクスシアと同じく超有名アイドル商法に関して不信感を持っている事だ』
「不信感か―」
電話の主である人物の『不信感』という言葉を聞き、少し考える。エクスカリバーは、本当に超有名アイドル商法に対して不信感を持っているのだろうか?
『調べる必要性があるか? ドミニオン』
「今は泳がせておく。おそらくは、ガーディアンも黙ってはいないだろう。それだけではなく、別の有名アイドルを抱える芸能事務所、新聞や雑誌等の出版社やテレビ局も動きだすに違いない」
ドミニオンと呼ばれた人物は、今回の一件に対して何らかの対策を考えるべきなのか悩んでいた。
『こちらとしては、放置しすぎると取り返しがつかないと考えている。アカシックレコードでも不用意に放置してひっくり返された例は―』
「我々に刃を向けるような事があれば、こちらも対抗するしかないだろう。しかし、下手に手を出せば炎上は更なる事件を生み出す」
『それは、こちらも分かっている。更なる炎上事件が超有名アイドルへの投資を活性化させるのも考え物だ』
「これ以上の会話は他勢力に傍受される可能性もある」
『白銀の堕天使の存在が、日本政府や超有名アイドルに知られる訳にはいかない―か』
「白銀の堕天使?」
『ネット上では、そう呼ばれているようだ。一種のネットスラングだろう』
「我々の存在は知りつつも、敢えて違う名称を使うつもりか。ガーディアンの考える事は、分からないことだらけだ」
長話になる事も周囲に傍受される危険性がある為、ここでドミニオンは通信を切る。そして、彼は再びゲーセンの店内へと入って行った。
同日午後1時30分、あるニュースの速報がネット上で急速に拡散していた。そのニュースとは…。
《白銀の堕天使が襲来! 超有名アイドル自警団数百名が負傷》
その内容は秋葉原で白銀の堕天使と思われるガジェット使いが出現、超有名アイドル自警団を次々と撃破していったという物である。
『もう、ここまで広まっているのか!?』
「自警団以外にも、他の警備隊にも警戒をするようにと連絡はしていたのですが、このような事になるとは」
『こういう事をするのは勢力としては、非常に少ない。それこそ、BL勢かガーディアンだろう』
このニュースを芸能事務所のビルで見ていたのは、狼の覆面に背広と言う外見の人物だった。それに加えて、秘書と思われる男性の姿もある。
「どうやら、そのようです。あの周辺には強力なジャミングが存在しており、テレビ局のカメラも潜入出来ないという情報でしたが―」
『ジャミングに関しては、その後の調査隊によるとARゲームに使われている物とは別物らしいという話だ』
「まさか、我々以外にも例の情報を手に入れている組織が?」
『ARゲームで一般流通している物は特殊な電波が使われているが、今回の現場では検出されなかった。それが意味する物が何か、分かるな?』
社長室に置かれている薄型テレビで2人揃ってニュースを見ていたのだが、秘書の方は若干慌てているようだ。
「ガーディアン? あのネット住民の集合体と言われているガーディアンですか?」
『その通りだ。それ以外に該当する組織はないだろう』
「彼らの使用しているガジェットは、市販の物とは大幅に異なるカスタム物と聞いていますが?」
『彼らは戦争を起こすような組織ではない。それを実行すれば、ガーディアンは警察に捕まる。ARゲームで使用するガジェットは違法改造が禁止されているからな』
「では、セイバーロードのガジェットも?」
『あれは、こちらでも把握出来ないような特例処置がされていると考えてもいいだろう』
テレビでは別の芸能事務所に所属しているアイドルが不祥事を起こしたニュースが流れているが、それに彼は見向きもしない。他の芸能事務所の動向には興味がないのだろうか?
「フェンリル様、今後のスケジュールは?」
『予定通りでいい。下手にスケジュールを変動させれば、ネット上やガーディアンも怪しむのは明白だ』
「分かりました。こちらも別勢力に警戒するように指示を出しておきます」
しばらくして、秘書は社長室から姿を消した。そして、フェンリルは秘書が入ってくる前に隠したノートパソコンを再び外へ出す。
『下手にアカシックレコードの話題を出せば、向こうも警戒をするのは明白だろう』
フェンリルは芸能事務所のスタッフにアカシックレコードに関しては何も言及していない。つまり、パワードスーツの設計図に関しては入手経路を伏せたまま渡していた事になる。
『向こうが使用している技術も、おそらくはアカシックレコードか類似する技術なのは明白だろう』
そして、社長室の窓から景色を見る。その光景は、ビルの屋上で超有名アイドル自警団が周囲を警戒、他の勢力を発見次第に確保するというような構図だった。
同日午後1時40分、ネット上では未確認情報が流れ始めていた。情報源は不明だが、アイドル自警団に関する事件で新展開があった事を示すものだ。
【日本政府は、今回の自警団襲撃事件に関して犯人の追跡を行わない事を決定。犯人は海外の勢力か?】
どの部分を削除して別の単語にしたのかは不明だが、自警団襲撃事件に関して『調査打ち切り』とも言えるような情報である。
【どういう事なの?】
【犯人をスルーするなんて信じられない】
【もしかして、襲撃事件には海外のテロ組織が関係しているのか?】
【世界情勢に関係して調査打ち切りとは到底思えない。このニュースには、何かウソが仕込まれている】
【偽ニュースに反応すれば、それこそ別勢力の思う壺なのは間違いないだろう】
ニュースに関する反応は、さまざまである。中には偽ニュースに反応して、他の勢力に釣られるのも考え物と考えている人物もいた。
「ここまで大々的にニュースが報道されると、ガーディアンの行っている事に関して不信感を抱く者も出てくるな。既に出ているかもしれないが」
白いインナースーツを着た状態でアンテナショップ内にいたのは、武蔵アカネだった。彼女は特に大きな用事もなく、乱入者を相手にしてロードデュエルを行っていたのだが、今はアーマーの修理中である。
「現状では全国ネットのニュースでもなければ、有名どころのポータルサイトで取り上げられたものではない。ガーディアンも、さすがにソース不明の情報に釣られるような勢力では―?」
ニュースを確認して数分後、セイバーロード専用のモニター上で謎のテロップが画面上に表示されたのだ。
《秋葉原各地にてセイバーガジェットに類似する物を使用したユーザーが目撃されました。違法ガジェットの可能性もある為、該当のプレイヤーと対戦しないようにお願いします》
「対応が速いが、セイバーロードのガジェット各宗は秋葉原では使えないはず。ARゲームの物と誤認しているのか?」
武蔵も疑問に思う。セイバーロードで使用されるガジェット等は草加市をはじめとした一部エリアでしか動作しない。それが秋葉原で確認されるのはおかしな話でもある。一体、何が狙いなのか?
同日午後1時50分、一連のネット上における流れを監視している人物がいた。彼は、ARを応用した技術で作られたと思われるモニターでつぶやきサイト等の情報を集めている。
「結局、超有名アイドルは何処の世界でも邪悪な存在でしかないのか」
セイバーアーマーに似たようなデザインを持つスーツを装着し、6階建てビルの屋上で秋葉原の周辺を見回していた。風は無風だが、微妙に風が吹いているような気配を感じる人もビルの下から感じ取れるようだ。
「アカシックレコードの記述も書かれている事に関しては表現の差異があるのだが、実際に書かれている事や訴えているメッセージの本質は同じだ」
身長168センチ程、青いマントのような物でアーマーを隠す一方で、右腕には小型シールドに実体剣が付いているようなガジェットを装着している。実体剣と言っても、展開されるのはビーム刃で人間を切りつけても問題はない。
「―分かった」
タイムラインを確認している途中で何者かの通信が入る。どうやら、彼と同じ組織に所属する人物らしい。
『驚かないのか? 我々が実行しようとした作戦がエクスカリバーに先を越された―』
男性の声だ。彼は本来であれば自分達が実行しようとした計画を、エクスカリバーに先を越された事に対して慌てているように思える。
「我々が行おうとしている作戦は、本来であれば他の誰かが指摘をするべき物だった。エクスカリバーと言う人物が誰かは知らないが、指摘する人物が我々以外から出るのは良い傾向だ」
マントを翻し、彼は待機状態だったソード型ガジェットを展開、そこから若干長めのビーム刃が現れる。
『エクスカリバーは、セイバーロードに力を貸している人物だ。本来であれば、セイバーロードは―』
彼は、そこで通信を切った。そして、次の瞬間には屋上から地上へと飛び降り始める。周囲に人がいない事は確認済、それを踏まえてのダイブだった。
着地成功した彼を見て、遠くから見ていた警備兵と思わしき装備をした大人が駆けつけてきた。彼らは秋葉原の治安を守る為の警備隊なのだが、彼らも超有名アイドルによって買収された勢力である。
「こうなる事は分かっていた」
着地に成功した彼はメットを被り、装着完了と同時に青い目が光り出す。メットのデザインを見ると、テレビアニメ等で見かけるようなロボットを連想させる。それを見た、一部の通行人がスマートフォンを片手に撮影をしようとしたのだが―。
「撮影できない?」
男性が撮影をしようとした瞬間、スマートフォンの電源が急に切れたのである。電池切れではない為、おかしいと思いつつも通行人は現場を後にした。
『超有名アイドルに加担する勢力は、全てエクスシアが駆逐する』
彼の名はエクスシア、超有名アイドル勢力を駆逐しようと考えている元ガーディアンとネット上では記されている。しかし、これが事実と言えるか保証は全くできない。
「超有名アイドルが日本経済を救う唯一の神なのだ!」
「それに異を唱える者は、悪だ!」
物々しい武装をした警備兵がエクスシアに向かってくるのだが、彼の反応速度は警備兵の倍以上と言う訳ではない。向こうが重武装である分だけ機動力が失われているのだが、エクスシアがチートに代表される能力を持っている訳でもなかった。
『問答無用と言う事か』
エクスシアは襲いかかってくる警備兵を次々と無力化、更には警備兵の攻撃もマントで無効化しているように見える。
「バカな!? 我々の火器が効かないだと」
「近接戦闘を仕掛ければ、さっきのように返り討ちになるのが目に見えている」
「あれもロードファイトやセイバーロードと同じような技術なのか?」
マントの材質が原因でジャミングのような現象が起こっている可能性を考えるのだが、その考えを閃く時間さえも与えないような破竹の勢い、エクスシアの攻撃パターンは『駆逐艦』のそれに近い。
「周辺の部隊は待避せよ! これより、ソーラーバスターを使用する」
1人の警備兵が、別のビルに設置された固定キャノン砲を準備、自分のバックパックからエネルギーチューブを取り出し、それをキャノン砲に取りつけようとする。しかし、ソーラーバスターの引き金を引くよりも、エクスシアのソード型ガジェットが警備兵を倒す方が速かった。
『目標の撃破を確認。ただちに帰還する』
警備兵の方は、しばらく経過した辺りで目を覚ました。どうやら、気絶させただけのようだ。厳密には、気絶と言う表現よりはロードデュエル等での機能停止に近いだろうか。
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