第7話『アイドルアーカイブ』
※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、フィクション扱いでお願いします。あくまで虚構という方向で…。
※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。
※イメージレスポンス、挿絵等も随時募集しております。プロフィールにも書いてありますが、特に早いもの勝ちではありません。お気軽にお問い合わせください。
※第7話もpixivと同日投稿になっております。
※タイムリーネタや直球ネタ等が存在しますので、肌が合わない方はご注意ください。
※2013年12月4日午後8時58分付:誤植個所を修正。夕雲ほむら→秋雲ほむら
(世界線シリーズでは登場人物の名前ブレはブラフ演出でも使う手法ですが、今回は単純に誤植ですので修正をいたします)
ロードファイトは深夜0時に終了となり、その後の深夜0時30分にメンテナンスが定期で行われる。あれだけのシステムを運用する為、より安全性を求めた結果としての長時間メンテとなる。
ロードファイトのメンテは0時30分から午前9時まで行われる。翌日が土日祝日の場合は0時30分から午前8時と若干違っているので注意が必要だ。
ロードデュエルの場合はメンテナンス時間が少し異なっている。午後11時~翌日午前7時となっているのだ。この辺りは、学園の授業になっている事や各種システムの調整等を行う為の処置になっている。
しかし、ロードデュエルの場合はガジェットやスーツの転送システムを含めて街全体に及ぶ。これだけのシステムを短時間でメンテをする事は不可能だ。
その為に週に1度、エリア別のメンテナンスが行われる。エリアメンテナンスでは部品交換を含めた本格的なメンテを行うが、併設されているアンテナショップを臨時休業にしたり、該当エリアを通行止めにして迂回をしてもらう事を避ける為に様々な工夫がされている。
どのようなものかと言うのは、残念ながら動画等が存在しない為に現地で確かめてもらう以外に手段がない。
確かな事と言えば、これらのメンテがあるからこそロードファイト及びロードデュエルが安全に進行できるという事である。
システムにメンテ不備が万が一あった場合、それは超有名アイドルに代表されるチート勢力に全てを制圧される事を意味しているのだ。
別のARゲームでの話になるのだが、メンテにわずかな不備があった事で超有名アイドルの楽曲しかプレイできなくなったという例も存在している。
(オンライン対応ゲームでの話でオフライン作品には影響がなかったのだが、ロードデュエルのメンテナンス方針は一連の事件に影響があるものと思われる)
ロードデュエル及びロードファイトに限った話ではないが、リアルで身体を動かす系統のゲームの場合、致命的な不備が放置された時に大きな事故につながる恐れも懸念された。
実際に事故が起こって怪我人が出てからでは遅いのだ。稀にオンラインゲームでメンテが行われる度に「またメンテか」や「詫び石」等と叫ぶ前に、今一度メンテナンスが行われる意味を考えてほしい。
体感タイプのARゲームで大量の怪我人が出た際に「またメンテか」と同じ事が言えるのか―。
(ロードデュエルのトリビアスレより)
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ロードファイトと話がそれるが、アカシックレコードでは『超有名アイドルのプロデューサーがファンタジーで言う所の魔王ポジションとして君臨する』という日本をよく見かけると言う。
Web小説のテンプレになるほど有名ではないが、そう言った流れの記述がアカシックレコード内にある事は確認されている。
ネットの一部では『超有名アイドルを排除する為の陰謀』や『現在の政権に不満を持つ反乱分子のでっち上げ』という話も確かにある。
この話を聞く限りでは『超有名アイドルのプロデューサーが、裏で総理大臣に変わって日本を支配している』と聞こえるのだが―。
(ある虚構記事を受けてのつぶやきより。しかし、内容の一部は拡散する前に削除されていて解読が出来ない)
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ロードデュエルの世界観について議論が浮上した際に〈現代異能〉という単語が出てこなかったらしい。
セイバーガジェットとセイバーアーマー、ダークビジョン等も含めて〈超科学〉でまとめられてしまうからだろうか。
しかし、架空のゲーム世界であるロードデュエルの核心を知ろうと考える人物は少なかった。
超有名アイドルが数多くの妨害工作を仕掛けてきた西暦2013年までは。
(ロードデュエルの世界観を語るスレより)
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セイバーロードの道路に関しては、東京都や他の都道府県と比べると飛躍的に凄いという個所がある。
それは、片側1車線道路でも自転車用の道路が90%以上の箇所で確保されている点だ。これに関しては、自転車も左側通行が義務化された際にも言われていた事だが―。
このような仕様にした理由として、「歩道を歩行者専用にする為にも、道路整備を優先的に行う必要性があった」としている。実際は違う目的で動いていたのは事実だと判明するのだが。
それ以外にも、セイバーロードの道路は各種カタパルトやコンテナの昇降用エレベーターが仕込まれていたりする部分もあるのだが、それは交通とは関係がないので割愛する。
(自動車免許教習所の授業より)
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セイバーロードはいわゆるコスプレイヤー等の聖地とも言われている。それだけ、セイバーアーマーやガジェットのデザインを含めて色々な物が存在するのは、それが理由にひとつとして挙げられている。
一方で、過去にあったBL系作品ファンによる脅迫事件やファンの暴走は、セイバーロードのファンにとっても衝撃的な事件だった。
それらを踏まえてセイバーロードの一部住民が、ガーディアンという特殊な組織を作りだしたのだ。これによって、ロードデュエルやロードファイトの運営も成立していると言って過言ではない。
ガーディアンの目的、それはネット炎上を警戒する為に《炎上系サイト》や《アフィリエイト系まとめサイト》を監視する事にある。
更には《超有名アイドルの支配下にあるテレビ局》のような超有名アイドル以外の存在を排除しようとする勢力に対しても、厳重な警戒をしている事で有名だ。
ガーディアンの存在があってこその学園都市群だが、彼らのやり方には強引な個所もあるという事で不信を抱く人物が出ている事も事実である。
その中には、反超有名アイドル商法を掲げる人物もいるという話があったが、真相は定かではない。
(ガーディアンに関するスレより)
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ロードデュエルとロードファイトに共通するのだが、実は《チート》と呼ばれるような概念は存在しないらしい。嘘だと思うのであれば、公式ホームページやプレイヤー有志によるウィキを見れば分かる。
攻撃力的にチートと思われがちな最強武器に関しても、初心者狩りの観点でレベル差がある対戦では使用不可、一定レベル以下は解禁不可のような制限がかけられている。
それを自分達が使えないからと言って「チート武器」と言うのは若干のお門違いと言えるだろう。
ロードデュエルとロードファイトの場合、基本的にチートと言う単語は超有名アイドルが使用する不正ガジェットを意味している。
(チートスレより、一部抜粋)
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西暦2016年4月8日午後2時30分、草加市内にあるセイバーロード運営本部地下のセイバーガジェットが大量に保管されているエリア、そこへ足を踏み入れたリヴァイアサンと武蔵アカネは衝撃を受けていた。
「ようこそ、最後の砦へ」
目の前に現れたのは、2人にとって今のタイミングで遭遇した事は不運とも言うべき人物だった。
『西雲颯人、お前が何故ここにいる?』
リヴァイアサンの言動、それは彼がこの場にいる事に対して場違いなのではという意味が含まれている。彼は学園の各所に現れては日本史や歴史の教師として教壇に立つ事もあるからだ。
「貴方がセイバーロードの運営と言う話は聞いていたけど、ここまでの力があったとは驚いたわ」
逆に武蔵は西雲颯人がこの場にいるという事に関して疑いは持っていなかった。それは、彼女が事前にセイバーロードの運営メンバーに彼がいる事を知っていたからである。
「こちらとしても、ここまでの技術を隠す必要性があった。色々とあると思うが、一番の理由は超有名アイドルだ」
西雲が喋った後、2人はセイバープレートにデータが送信された事を知らせるメッセージが表示された事に驚いた。
『これは、連中の使用しているチートプログラムか?』
リヴァイアサンが驚くのも無理はない。彼が2人に送信したデータ、それは超有名アイドルが使用している違法データのプログラムだったからだ。しかし、そのデータは断片的な物で完成品ではない。
「このデータが意図的に欠けているのは、ネット上に拡散するのを防ぐためなの?」
武蔵の一言を聞いた西雲は、それを否定するかのようにパチンと指を鳴らす。次の瞬間、西雲の背後に現れたのは1つの黄色いコンテナだった。コンテナが現れる様子は、まるで電車が駅に止まるようでもある。
「この私を甘く見てもらっては困る。このデータは既に100%解析済だ。欠けている部分は別のデータを組み合わせる為に意図的なスペースを作った―」
そして、説明をしている途中で西雲がコンテナを開くと、そこから姿を見せたのは少し前に襲撃してきた超有名アイドルの使用しているセイバーアーマーと思われるパーツだった。
「セイバーアーマー! しかも、これは先ほどの事件にも関係している物?」
現物を見た武蔵が驚く。リヴァイアサンの方は、驚きのあまり声が出ない状態のようだ。
「運営としては、不正装備等に関しては厳正な対処を取る。これは、序の口に過ぎない」
『これで序の口だと? 超有名アイドルは、どれだけの物を生み出そうとしているのだ』
「アカシックレコード、その英知に触れた人物は神にも等しい力を得ると言う。一部では〈異能の力〉と呼ぶ人物もいるようだが、私はそうは思わない」
『まさか、超有名アイドルもアカシックレコードを?』
「そうでなければ、ロードファイトとロードデュエルの両方で使用出来るチートガジェットを作れないだろう」
『チートガジェット? 連中は、そこまでの物を作って何をしようと言うのだ?』
西雲とリヴァイアサンの会話が続く。そして、リヴァイアサンが何をしようとしているのかを聞くと、意外な答えが返ってきた。
「超有名アイドル以外のコンテンツを駆逐し、自分達が全世界の創造主にでもなろうとしているのだろう」
この答えを聞いた武蔵は言葉を失った。超有名アイドルが目指しているのは自分達の邪魔をする物を物理的ではなく、それこそ社会的に駆逐する事である。過去にネット上で、そんな話を聞いた時は冗談で受け流していた。
「日本は超有名アイドルのプロデューサー1人に掌握され、彼が不利益と判断した存在を全て駆逐する―の方が都合がいいと思う」
武蔵の一言を聞き、西雲は少し深刻そうな顔をした。そこまで単純であれば楽だったというような表情である。
「自分としても、超有名アイドルのプロデューサーがファンタジーで言う所の魔王ポジションであればよかったが、現実は都合良くいく物ではない」
西雲は、それだけを言い残して姿を消す。武蔵は本来の目的である試作型ブースターのデータを彼に渡そうとしていたのだが、渡すタイミングを失ったようだ。
《データの方は別の運営スタッフにでも渡して欲しい。もうすぐ、こちらへ駆けつけてくれるはずだ》
武蔵野セイバープレートにメッセージが表示され、それと1分位の誤差で男性スタッフが姿を見せる。そして、武蔵は彼にブースターのデータを入れたUSBメモリーを手渡す。
その5分後、リヴァイアサンとは別れた武蔵は別のエリアへと向かっていた。それは、ロードデュエル専用の広いバトルスペースだ。場所は1階にあり、一般のプレイヤーでも申請があれば無料で解放されている。ただし、使用する際はセイバープレートが必須だが、体験プレイ用のレンタルも受け付けているので特に問題はないようだ。
『全ては超有名アイドルを世界の創造神にする為の作為的な物。そのような世界は悲劇しか生み出さないのは確定的に明らか―』
武蔵が指でパチンと鳴らすと、瞬時にして専用のセイバーアーマーが転送され、彼女に装備された。そのデザインは何処かのチーフに酷似している。似ているだけと言うよりも、本物に近いコスプレと言う説も浮上するかもしれない。
『作品を自分の都合いいように解釈し、ネット上で注目を浴びようとするBL勢とどちらか絶対的な悪なのか』
そして、チーフと思われる人物は、直後に転送された試作型のガトリングシールドを構えた。そして、ガトリングシールドから展開されたエネルギーチューブを背中のバックパックに接続、その直後にダミーターゲットに向けて放つ。
放たれたのは仮想弾丸と呼ばれる実体のない弾である。この弾丸はCGで出来ている物で、セイバーガジェットのミサイルやレーザー、ビームサーベルなどにも利用されている。人体には全く影響がなく、影響があるのはセイバーアーマーとダークビジョンのみとされているのだが、あまりにもゲームとしてはリアルすぎる事が別の火種を生み出す可能性もある―とネット上では、仮想弾丸及びセイバーガジェットの技術改善を求める声も出ていた。
『結局はこの世界も金の力が全てという世界となるのか? 作品に対等評価がされるような時代は、何時になれば来るのか』
ダミーターゲットは次々と撃破され、しばらくするとトライアル終了を告げるシステムメッセージが目の前に表示された。
「超有名アイドルも、おそらくは日本経済を全て独占するというプロデューサーが作り上げたゲームに付き合わされているに過ぎない―と考えるべきなのか」
武蔵はメットを外して、息を整えながらつぶやいた。果たして、彼女の予想は当たってしまうのか。それは今の地点では誰も知らない。
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西暦2016年4月9日午前7時30分、メンテナンスは終わっていない時間だが、アンテナショップは既にオープンしている。これは、アンテナショップがロードデュエル専門の店舗ではなく、その他の一般客に配慮した為だ。
「ロードデュエルの24時間化は無理な話か」
「それは無理だろう。騒音問題や青少年育成とか、その辺りを考えれば不可能に近い」
「学校の単位も関係する以上、青少年育成は重要と考えているのか」
「その通りだな。その他にも懸念事項はいくつかあるらしいが、真相は不明のままだ」
コーヒーを飲んでいる男性2人は、ロードデュエルの観戦を目的にやってきた訳ではなかった。彼らは、番組のロケを行う為に運営へ許可証を出したテレビ局のスタッフである。
「結果が出たようだが、今すぐに関しては無理らしい。アポを取るには1週間以上前から受付する必要があるらしい」
メガネをかけた方の人物が、スマートフォンを取り出して先ほど届いたメールを確認する。結果を要約すると『今回のロケは日程の都合上で行えない』というものだった。
「それでは生放送系の番組は全滅ではないのか? 今日の生放送番組の内容を変えるのも難しい以上、後には引けない」
テレビ局のマークが特徴的な帽子を被った人物は、今回のロケを大々的に他の番組でも宣伝している為に後には引けないと続けるが―。
「なるほど。提出された書類を見て疑問に思ったが、やっぱりな」
2人の男性が座っているテーブルに現れたのは、背広姿に運営と言う腕章をした男性だった。彼の手元にはセイバープレートがあり、そこには今回のロケに関する届け出も含まれている。
「お前は一体何者だ?」
メガネの人物が運営に詰め寄ろうという一触即発とも言えるシーンだった。しかし、周囲の客は自分には関係がないという事でスルーしているようにも見える。これには事情があるのだが―。
「私はロードデュエルの運営です。あなた方の提出した書類を確認しましたが、特別な不備と言う物はありませんでした」
「なら、どうしてロケの許可が下りないのか?」
「これが普通の都市部でのロケ等であれば問題はなかったでしょう。しかし、ここは学園都市群。一番忘れてはいけない物を忘れているように思えますが」
「忘れてはいけない物? それは何だ」
運営の説明でも把握出来ていないスタッフは、忘れてはいけない物に関して質問をする。すると、運営から予想外の答えが返ってきた。
「ロケ自体は問題がなかったのですが、問題は番組の方です。大手芸能事務所の超有名アイドルが出演している事、この番組がネット上でも炎上系サイトや煽り系の番組で有名である事の2点は、学園都市群で禁止している項目です」
運営の回答、それは中継映像が使われる番組の方にあった。それは、超有名アイドルが出演している事に加え、ネット上では炎上サイトでも取り上げられる事が多く、番組の内容も煽り系で有名な点、それがロケの許可を認めなかった理由だった。
「ネット円のは、こちらの責任ではない。あれはサイト側の問題にある。それに、煽り系と言うのもでっち上げだ」
テレビ局側の方も反論をするが、一度でもレッテルを貼られると信用を取り戻すのに時間がかかる。これが、その証拠でもあった。
「それは責任転嫁というものでしょう。申し訳ありませんが、これ以上のトラブルを起こすのであればガーディアンに告発する事も検討しなくてはいけませんが」
運営の男性がガーディアンと言う単語を出した瞬間、2人は言葉を失う。その数分後、テレビ局は学園都市を後にする。
同日午前8時、東京キー局の生放送番組が始まる。司会は局アナなのだがコメンテーターには超有名アイドルグループの女性2人がいる。セット的には明るい物ではなく、ニュース番組のような目立たない色の物を使用しているようだ。
『今回は本日予定しておりました内容を変更してお送りいたします』
番組コール後に司会の男性アナウンサーが原稿を読み上げる。どうやら、予定していた内容はセイバーロードに関する物だったらしい。
「ここまで情報を徹底するガーディアンに対し、セイバーロードに自由を求めようとする勢力が出てくるのも納得と言う気配か」
アンテナショップでコーヒーを飲んでいたのはインナースーツ姿のクー・フー・リンだった。メットの方は外しており、青色のセミロングに目の色は黒という滅多に見せる事のない素顔をさらしている。
「ガーディアンの目的は不明だが、超有名アイドルやBL勢力と言った他ジャンルを炎上させてまで目立とうとする者に対して、神の制裁を下す組織と聞いているが」
彼の目の前に現れたのは、アーマーを外して入店してきたルシファーである。何故、彼がこのアンテナショップに立ち寄ったのか? クー・フー・リンは表情には見せない範囲で警戒をする。
「彼らの目的は外部に漏れないように厳重封印されている。それに加え、彼らの技術は悪用される可能性も否定できない」
クー・フー・リンが若干単語を選びながら何とか会話をつなごうとしている。超有名アイドルには興味がないルシファーとはいえ、セイバーロードに深くかかわる話題であれば自分と無関係ではないと言うはず。
「アカシックレコードという単語だけは聞いた事があるが、それだけではよく分からない。何か知っている事があれば―」
ルシファーがアカシックレコードの単語を知っているという事は、例の情報を誰かから聞いた可能性もある。それを察したクー・フー・リンは焦らずにコーヒーを飲みほし、レジの方角へと歩いて行ってしまった。
「何かを隠しているとは思えないが、あの単語には何か重要な秘密があるという事かもしれない。調べてみるか」
クー・フー・リンのリアクションを見て、これは重要なキーワードだと感じたルシファーは単独でアカシックレコードについて調べる事にした。今日はランカー同士でバトルがある為に、調べるとしたら明日になるだろう。
同日午前10時、この辺りになると人が一気に増えているような気配がした。天気が晴れているという事もあるが、それ以上にニチアサタイムを過ぎたからというのもあるかもしれない。
【この時間帯で入場者が1万人を突破したか】
【朝6時~9時まではニチアサタイムだからな。セイバーロードが近所という人間も、朝はテレビを見ているだろう】
【実況民が多く確認されたからな。逆にセイバーロードをプレイするには穴場の時間と言うべきか】
【アクティブのステージが少なければ、それだけプレイヤーが少ないという事。初心者狩りに遭遇しないで済むというのも大きいだろう】
【唯一の欠点があるとすれば、土日と祝日はダークビジョンが現れない事か】
【ダークビジョンは平日限定だからな。あれは学校の課題扱いで現れるようだという人物もいる位だ】
つぶやきサイト上では、このようなやり取りが行われていた。他にも各地でセイバーロードが行われている事等もつぶやかれている。
「特に超有名アイドルの動きはないようね」
太陽光発電パネルが置かれているショッピングセンタービルの屋上、そこでスマートフォンを片手につぶやきのタイムラインを見ていたのは松鶴イオリだった。今回はインナースーツではなく、学園指定の制服である。
「ネームドランカーは何人か動いていて、なおかつバハムートも姿を見せているのが気になるけど」
イオリが気にしていたのは、土日は姿を見せない事が多いバハムートである。この人物が有名ランカーであり、彼が姿を見せるエリアでは人混みが絶えないというのは言いすぎだが、人が多く集まるのは事実だった。
「まずは様子を見ましょう。今は、こちらの買い物を済ませないと」
今回は知人の買い物に付き合っている。この知人は学園都市での知り合いだが、セイバーロードとは無縁の人物なので、あまり彼女を巻き込みたくないという配慮もあるのかも知れない。
同日午前10時30分、草加駅より1キロ位離れたショッピングモール近辺の道路では超有名アイドルの部隊が1名のセイバーロードと戦っていた。数は30対1でセイバーロード側が圧倒的不利なのは明らかなのだが、状況は逆だった。
「おいおい、超有名アイドルの方が劣勢じゃないか」
運営の制服に深く被った帽子という姿で現れたのは、西雲颯人だった。彼はショートメッセージで【持ち込み禁止のチート技術を使用している超有名アイドルが確認された】と連絡を受けて駆けつけたのだが、到着した頃には20体が機能停止済という状態だったのである。
「あのセイバーアーマー、もしかすると―」
西雲の前を通り過ぎたセイバーアーマー、それはつい数年前に放送されていたヒーローアニメに出ていたようなデザインをしていた。その姿に見覚えはなかったのだが、そのセイバーアーマーが使用していたガジェットには見覚えがあった。
【検索終了しました。このガジェットは、オーバーリミットウェポン・エクスカリバーと確認】
「そんなバカな。エクスカリバーはアガートラームと同様に厳重封印指定がされているはず。誰が封印を解いた?」
セイバープレートに表示された結果は、西雲の想定外とも言える物だったのだ。厳重封印されているはずのエクスカリバーが、目の前を通過していったからだ。
(しかし、あの2本とラグナロクは厳重封印だけではなく、所有者固定もプログラムされているはずだ。もしかすると、あれを持ち出した人物は―)
西雲は落ち着いて考える。所有者固定のオーバードウェポンを一般人や所有者以外が持ち出す事は不可能に近い。ハッキング等のような外部アクセスの場合は話が別になるのだが。
青、白、赤というトリコロールカラーをベースにエッジの効いたデザイン、透明なクリスタルを思わせる各種アーマー、両肩に装着されたシールド一体型のブレード、右手に持ったロングソードはチューブ接続によるエネルギー供給型ガジェット、背中のウイングは合体させれば大型のビームチェーンソーにもなる。それが、エクスカリバーのネット上におけるデータだ。
『何なの!? あのセイバーロードは!』
『こちらのチートは無効化されていないわ! オーバーリミットウェポンはチートが無効化されるシステムを搭載されているけど、アレは違うみたいね』
『ならば、あれだけ撃破されたのはどうしてだ!?』
生き残ったピンク、紫、黄色のメイド服モチーフと思われるセイバーアーマーを装着している超有名アイドルの女性3人は慌てていた。チートを使用している場合、オーバーリミットウェポンとの戦闘では強制無効化という状態になる。しかし、今回はそれがない。なのに、状況は圧倒的不利だからだ。
「チートをカットするシステムは、こちらでオフにしてある。それであっさりと負けるという事が意味する事―後は分かるな?」
エクスカリバーを装着している人物、メットは青のラインにSFのパワードスーツを思わせるデザイン物を装着している。しかし、そのメットは学園で配布されている物でもアンテナショップで売られている物とも違う。一体、どういう事なのか?
『そんなのあり得ない! こちらの攻撃力は全員合わせて1億を超えているのよ! それを超える力なんてありえない』
藍色のメイド服を着たアイドルが槍を構え、エクスカリバーに突撃を仕掛ける。しかし、斬りかかった先にエクスカリバーの姿はなかった。
「世の中に絶対がないように、セイバーロードでも《最強》や《無敵》や《チート》があっさりと通じるような世界ではない!」
そう言ったのと同時に、不意打ちを仕掛けようとした黒の和服姿のアイドルを発見し、そちらの方に向かってエクスカリバーを振りかざす。その一撃は、和服姿のアイドルを即座に沈黙させ、行動不能にする。それを見た観客からは歓声が沸く。バハムートとは違うが、新たなランカー誕生に盛り上がっているようにも見えた。
周囲の歓声を聞いたアイドルは慌てているようにも見えるが、観客はスルーしているようにも見える。まるで、超有名アイドルが【他のコンテンツを規制して超有名アイドルだけを残そう】というネット上の言葉を鵜呑みにし『超有名アイドルを根絶せよ』と目で訴えているようでもあった。
『私たちは日本の為にも億万長者にならなければいけないのよ! それが日本経済を活性化させる為だけではなく―』
「その慢心こそが、コンテンツ業界を崩壊させる引き金になった!」
ピンクのメイド服を着たアイドルがハンドガンで攻撃を仕掛けようとしたが、彼女の話を途中でキャンセルするかのようにエクスカリバーが両肩のシールドを射出、その直撃を受けたアイドルの銃型ガジェットは空高く弾き飛ばされた。
「お前達のやり方は、アイドルの売り方としては画期的だったのだろう。しかし、それは日本にとって修復が困難な溝を生み出し、長い戦争時代を起こす引き金にもなった事を何故自覚しない!」
次にエクスカリバーは、背中に搭載された翼を変形させ、ビームチェーンソーを展開する。そのデザインは、ガンブレードという造語が当てはまるようなデザインだった。
『我々は慢心をしていない。慢心したのはフーリガンと化して脅迫事件を起こしたBL勢力であり、グッズ転売等で小規模コミュニティで大金を得るようなシステムを生み出した彼女たちだ』
「そうやって、自分達が構築した商法を否定するのか!」
ビームチェーンソーで紫、黄色のアイドルを居合いだけで機能停止に追い込み、残るはリーダーである赤いアイドルだけである。どうやら、倒しそびれたアイドルが何人かいたらしい。
「超有名アイドル商法やチートは全て根絶しなければいけない! それこそが日本のコンテンツ業界にとっても新たな力となる!」
ビームチェーンソーのリボルバー部分が高速回転した次の瞬間、チェーンソーの回転も高速化し、更にはブレードの大きさも斬艦刀《信玄》と同じ位のサイズになっていた。それでも彼がもちつけられるのは、強力なパワードアームやアーマー等の影響かもしれない。
「これが、セイバーロードと日本のコンテンツ業界を変えようとする為の意志であり、学園都市の生徒たちが願っている未来へつなぐ力だ!」
振りかざした刃はアイドル勢のアーマーを機能停止に追い込み、遂には周囲にいた増援を含めて50近くのアーマーを1人で沈黙させていた。
同日午前10時32分、秋雲ほむらが駆けつけた頃には全てが終わっていたのである。観客は逆に増えているのだが、エクスカリバーの騒ぎをネット上の実況を見て駆けつけた頃には―と言うのが半数だった。
「一体、何があったのか」
ほむらが別の観客に状況を聞こうとしても、それに応じるような気配は一切ない。エクスカリバーに関して口止めがされている訳ではないが、上手く説明を出来ないというのが現実にあったのである。
「仕方がない、ネットで調べるしか方法は―」
ほむらは最後の手段としてセイバープレートを使ってネットの声を調べたのだが、そこで衝撃的な動画を発見した。動画を投稿したのは運営スタッフと書かれているのだが、その内容が衝撃的だった。
「どういう事なの? チート無力化をしていない状態で、あれだけの数を撃破出来るなんて」
その動画を見た時、ほむらは言葉を失っていた。それ位に圧倒的な力をエクスカリバーが発揮していた状況が、そこに流れている。
この動画を確認したほむらは、思った事を口にしていた。
「まるで、この無双展開はスクールブレイカーと―」
そして、何故にスクールブレイカーの単語が自然に出てきたのか、ほむらにはそれが体感的に分かっていたのかもしれない。
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