第6話『ロードファイト・ログ』レポート3
※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、フィクション扱いでお願いします。あくまで虚構という方向で…。
※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。
※イメージレスポンス、挿絵等も随時募集しております。プロフィールにも書いてありますが、特に早いもの勝ちではありません。お気軽にお問い合わせください。
※第6話もpixivと同日投稿になっております。
※タイムリーネタが存在しますので、肌が合わない方はご注意ください。
学園都市群セイバーロード、ここで行われる授業は小等部~高等部までは義務教育と遜色はない。唯一違うのは、英語が存在しない事である。
英語の代わりに何を学んでいるかと言うと、ネットマナーと呼ばれるものを学んでいるのだ。これには、思わず自分も驚いた。
何故、英語を学ばないのかと他の教師に尋ねてみた。ある男性教師は「日本語も上手く出来ないのに英語を学んでも意味はない」という事だった。確かに一理ある。
しかし、それでは他の学校でも通じる一般的な理由になってしまうだろう。学園都市群では英語を不要と考えているのか?
その辺りを踏まえて学園長に問い合わせたが、不在と言う事だった。その代わりに回答した秘書官の人物によると、その理由はこうだ。
『英語に関しては必修科目としてではなく、選択科目として存在します。生徒全員が英語を学ばない訳ではありません』
『一方で英語を学ばなくても、ロードデュエルを必修すればバイザーメットに搭載された自動翻訳システムで翻訳は可能です』
どうやら、セイバーロードでは予想の斜め上を行くような事が行われているらしい。
(中略)
何故、セイバーロードではネットマナーを学ぶのか。基本的な部分や拡張的な部分を取り扱っているが、学習素材に関しては外部への持ち出しを禁止している為に詳細な内容は公開できない。
かいつまんで説明をすると、最近のつぶやきサイトを使った炎上問題、偽の情報に踊らされない為のポイント、感情に任せた書き込みをしない為のコツという物である。
主にネット上で事件になっているような物が題材にされている気配がするが、その半数近くが過去にあったBL系勢力の事件ばかりだったのも印象的だった。超有名アイドルを全く取り上げない訳ではないが、申し訳程度しかない。
この件も学園長に問い合わせたが、秘書官が代理で回答している。
『超有名アイドルに関しては政府が密かに情報を隠している部分があり、堂々と題材に扱えない事情がある』
『秘密情報の保護を目的とした法案も、もしかすると芸能事務所側との関係が明らかになるのを恐れて法案化を加速させたかもしれない』
この回答に関しては、自分でも疑問がある。何故、超有名アイドルの芸能事務所との関係を政府が秘密情報という扱いにするのか…。
(教員見習いのレポートより)
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セイバーロードでは円も使用可能な一方で、ロードデュエル専用の通貨であるロードクレジット(略称LC)が存在する。
簡単に言えば、ロードデュエルで手に入る電子通貨という表現が適切なのかは不明だが、近い物であるのは事実だろう。
LCは基本的に運営からの依頼を受け、それをクリアする事で得られる。いわゆるハンター物ゲームを触れた事があれば理解が速いかもしれない。
(円からLCへの交換はアンテナショップで行える。しかし、LCから円への交換は出来ないようだ)
ロードデュエルが学校の単位にも影響する事に加え、LCが学園都市内に制限されるのだが実際の通貨としても使用が出来る。
ただし、ロードデュエル関係者以外がLCを持つ事は出来ない。LCをチャージ可能にするためには、ロードデュエルにエントリーする必要があるらしい。
余談だが、LCで支払いが可能な店舗に関してはLCで支払いされた分がそのまま利益になる訳ではなく、ある程度の手数料が引かれた上で店側の取り分になるらしい。
全ての商品がLCで支払い可能と言う訳ではなく、切手等に代表される非課税商品、電子マネー、新聞や雑誌、CDと言った割引販売が出来ない物はLCで支払いが出来ないようだ。
(LCに関するスレより、一部抜粋)
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オーバーリミットウェポン、それは上位ランカーにのみ認められた究極兵器と言えば響きが良いのかもしれない。
しかし、実際は初心者狩り防止の為に対戦相手のランク調整がされるという欠点がある。この調整に関しては、ダークビジョンとの戦いには適用されない。
この辺りは格闘ゲームのCPU戦と対人戦の関係と言えば、おそらく分かりやすいと思われる。対人戦で初心者プレイヤーに対してチートを振り回して最強アピールというのも、新規を含めたプレイ人口を減らしてしまうという部分を配慮した対応なのだろう。
基本的には白銀のコンテナに収納されているのだが、白銀のコンテナ自体が上位ランカー専用武装という位置づけになっている。
コンテナの色分けは一般的な青、ランカー専用の赤、オーバーリミットウェポン専用の白銀という参種類になる。この色分けになった理由として、宅配便や他のコンテナと誤認しない為だと言う。
コンテナに関してはホームページにも記載のある3種類だが、非公式の区分けで別のカラーもある可能性は否定できない。しかし、チート系のガジェットを見分ける手段としては有効だとガイドブックには書かれていた。
オーバーリミットウェポンの種類は5種類が確認されているのだが、公式ホームページには3種類しか明記されていない。
その参種類は、大型ミサイルランチャー《ソロモン》、ビームライフル《フレスベルク》、斬艦刀《信玄》である。
ここで、ある疑問が浮上する。それはブースターユニット《セラフ》の事だ。使用者が特定されているはずなのに、公式ホームページでは4月5日を過ぎても更新がないのが気になる。
(オーバーリミットウェポンに関するスレより、一部抜粋)
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西暦2012年7月、以下のつぶやきが瞬時で広まったが、すぐに鎮静化したという話題がネット上であった。
『この日本は超有名アイドルのプロデューサー1人が支配している。彼が邪魔と判断した物は即座に消される。暗殺的な意味ではなく、オンラインゲームで言うアカウントはく奪的な意味で』
しかし、この文章の意味を深く考えようという人物はいなかった。ネット上では「ステマ」や「ライバル芸能事務所の妨害工作」と言われ、大きなニュースとして取り上げられる事もなくサイトの運営によってメッセージは削除された。
この発言が後に深刻な事態を生み出す事になるとは、メッセージが公開された当時の誰も分からなかった。
学園都市群セイバーロードで頻発して起こったチート技術を使用した集団による襲撃事件、これを予言した発言―。
(西暦2013年を振り返るスレより、一部抜粋+改訂)
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近年、観戦マナーと言う物が再び問題視されている。ギャンブルとして成立している競馬等は仕方がないと諦めている勢力がいる一方、そうではないスポーツにまで観戦マナーが悪いと言われている競技が存在するらしい。
このような状態が続けば、スポーツアニメの方が観戦マナーとしては優秀と言われる時代が来るのかもしれない。「そんな馬鹿な」と思う人々もいるかもしれないが、これが事実なのである。
ロードデュエル及びロードファイトはスポーツではなくゲームと言うカテゴリーなのだが、観戦マナーが悪いフーリガンのような勢力が存在するのは否定しない。超有名アイドル絡みで騒動が起きた面に関しては記憶に新しいが―。
しかし、サッカーや野球、陸上競技等のようにニュースやスポーツ紙で大きく取り上げられるような事はない。それが、大きな差となっている可能性は否定できないだろう。
(スポーツ観戦マナーを考えるスレより)
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ロードファイトを知らない人間が、セイバーロードを最初に訪れると「異世界へ来たようだ」や「埼玉へ来たと思ったら、未来都市へ迷い込んだ」という人物がいるというテンプレがある。
しかし、このテンプレは実は嘘である事が判明した。確かに風力発電所や太陽光発電、一部アミューズメント施設は東京等に比べれば数歩先を行く技術なのは事実かもしれない。
一方でセイバーロードを異世界と言う一言で片付けられる物ではないのは、確かなのは間違いない。別世界と言う単語よりも異世界でまとめた方が話が早いと判断しての発言とも言われている。
(とあるまとめサイトより)
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西暦2016年4月8日午後1時30分、秋雲ほむらが撤収を始めた頃、別のエリアでは超有名アイドル勢力と真田幸村が交戦をしていたのである。
『まさか、真田幸村を目撃するとは!』
『相手は1人だけだ! 我々の敵ではない!』
『超有名アイドルこそが正義、他の勢力は全て悪なのだ』
複数のセイバーアーマーが幸村を取り囲むが、それに動じる事は一切ない。そして、幸村はセイバープレートを取り出して何かの番号を入力した。画面には《オーバーリミットウェポンを転送します》と表示されている。
「お前達もあの勢力の操り人形と言う事か」
数秒後、幸村は目の前に現れた白銀のコンテナを開く為のコードを入力し、今まで持っていた槍を一時的に右肩のハードポイントへ接続して固定する。。
【オーバーリミットウェポン《信玄》】
コンテナが開いた直後に射出されたのは、巨大な刀の柄だった。その刀には刃が付いていないのである。幸村が射出された刀を右手で受け取って構えた。
『刃のない刀で、我々の相手をするだと? 甘く見られたな』
あるセイバーアーマーのプレイヤーがつぶやく。しかし、それと同時に幸村はメット内で笑みを浮かべているような感じがした。
「これがセイバーガジェットと同じと考えていると、後悔をするぞ!」
幸村が刀の柄を握ると、巨大なビームエッジが展開されたのである。俗に言う斬艦刀と同じクラスの武器と考えられる。次の瞬間には何かのフィールドが発生したかのような音が響き、周囲を取り囲んでいたセイバーアーマーの一部が機能を停止した。
『バカな!』
『こちらのチート武器が動かないぞ! どうなっている』
『こちらもアーマーの機能が停止した。一体、何が起こっているのか説明してくれ』
周囲のプレイヤーが慌て始める。オーバーリミットウェポンを幸村が接続後、敵サイドが一気に退却をし始めていた。その理由には、彼らが使用している武器が急に使用不能になったのが原因と思われる。
その現場にいた工作員と思われる狼の覆面をした人物は、何かのメッセージをスマートフォンに打ち込み始めている。
『オーバーリミットウェポンが使えるランカーだったとは聞いていないぞ!』
データに掲載されていた物と実際の戦闘力が違いすぎた事に対し、彼は思わず大声を上げる。
「フェンリル! お前だけは逃がさない!」
幸村が斬艦刀を振り下ろすと、狼の覆面が真っ二つになり、そこから現れたのは緑髪ショートヘアの男性だった。
「偽者だったか―」
幸村は、その一言だけをつぶやいて何処かへと消えた。一体、彼の目的は何だったのだろうか。姿を消す前、彼は斬艦刀を元のコンテナへ戻し、そのコンテナは運営本部へと転送された事は確認されている。
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西暦2016年4月9日午後2時、学園都市群セイバーロード内で一斉にインフォメーションメッセージが流れる。
《まもなく、ロードファイトが始まります。該当する生徒及び関係者は出撃の準備を行ってください。繰り返します―》
このメッセージは、学園都市に配置されたインフォメーションボード、駅や商店街にある電光掲示板、ロードファイト関係者の所有しているセイバープレートに表示される共通の物だ。
その中で学園都市のエリア外にあるロードファイトを専門で扱うアンテナショップでは、何かの準備を始めているようでもあった。
このショップでは、主にロードファイトで使用するガジェットやメンテナンスアイテム等を販売しており、入荷していないアイテムでも注文をすれば数日で入荷するという有名店でもある。
一方で立地がロードファイトとロードデュエルの中間位置と言う事もあって、この店舗ではロードデュエル関連の書籍を取り扱っている。
あくまでもロードファイトのアンテナショップと言う事で、ロードデュエルに関連したガジェット等は置かれていない。この辺りは学園都市限定と言うよりは、セイバーガジェットが特殊な保管方法で保管されている事が理由の一つらしい。
店には30人位のお客が来ているのだが、繁盛していると言われると少し疑問が残る。半数の客が目当てにしているのは、アンテナショップ内で売られているB級グルメの塩やきそばパンやチョコ焼きというたこ焼きの中に入っている物がチョコレートと言うスイーツだからだ。
「こちらも準備を始めるか」
ロードファイトの男性スタッフが、エプロンのポケットからテレビのリモコンを取り出し、普段はロードファイトの模様を中継しているテレビのチャンネルを変更する。
『速報です。今から30分前になりますが、人気漫画○○の脅迫事件を主導したグループを逮捕したと発表になりました』
変更したチャンネルは民放のテレビ局で、そこで放送されていたのはロードデュエル関係の番組ではないようだ。内容としては報道バラエティーと言うカテゴリーに類する番組と思われる。
『犯人に関しては大半が10代後半で、警察の事情聴取に対して「男性アイドルグループの邪魔をする勢力を潰す為にやった」と供述しており―』
しばらくして、彼は番組のチャンネルを変更し、ロードデュエル専門チャンネルへ合わせる。どうやら、電波調整の為に別の番組を回して様子を見ていたらしい。
「テレビの方は大丈夫ですね」
先ほどの人物が、レジで暇を持て余している男性店長に声をかける。その声を聞いた男性店長は、あるマニュアル本を手渡した。
「了解しました」
マニュアルを確認したスタッフは、外にあるロードガジェット倉庫の方へと向かった。何をする為なのかは彼にしか分からない。
5分後、男性スタッフが倉庫から持ってきたのは、何とセイバープレートだった。これはどういう事なのだろうか。
「今回はこちらに影響するような任務は、特にないようだな」
店長がセイバープレートで確認していたのは任務の内容だった。半数以上はアンテナショップから5キロ圏外の場所と言う事もあって、周囲に影響が出るような事はないらしい。
「しかし、ロードデュエルはロードファイトよりも人気が出ているとか。スタッフの中にはロードファイトと同じ人物もいるという話もあります。それに―」
男性スタッフが力説していたのは、システム的には似たような物を使用しているロードデュエルがロードファイトよりも後からリリースされたのに人気が出ているという点である。
「言いたい事も一理ある。ロードデュエルとロードファイト、お互いに共通しているのはシステムだけではない。超有名アイドルに妨害をされている点も共通しているらしいという話がネットで広まっている事だ」
店長が懸念していたのはロードファイトとロードデュエルは共通して超有名アイドルによって妨害を受けている事だった。そして、共通しているのはそれだけではない。
「ロードファイト用のガジェットとロードデュエル用のガジェットには、ある共通点が存在する。パーツが一部で共通の物を使用しているが、その共通で使用しているパーツと言うのが―」
店長はエプロンの下にしまっていたダガーを取り出し、それを男性スタッフに見せた。ダガーに関しては刃がARによるCGの為、実際に切れ味があるような物ではない。それは、ロードファイト及びロードデュエルで使用されるガジェットの全てに共通していた。
「ARを表示する為のシステムですか」
男性スタッフも事情が分かってきた。セイバーロードの運営が世界へ配信しようと考えている物、それは高度なCG技術を発展させて生み出したARゲームだったのである。
「海外のテーマパークではAR技術を利用したアトラクションが密かに開発されている話を聞く。おそらく、それに対抗する為の大型アトラクションとしてロードデュエルを売り込む可能性も否定できないだろう」
店長が持っていた雑誌には、ロードファイトを新たなアトラクションとして運用出来るのかを議論した特集が組まれていた。おそらく、ロードデュエルもシステムが同じならば目的も似たような物という可能性もありえる。
「そろそろ始まりますね」
男性スタッフがテレビのチャンネルを変更すると、丁度バトルの様子が中継されていた。バトルの方はダークビジョン駆逐戦で、依頼のタイプでいちばん多い部類だ。
「何時もの駆逐戦か。ランカーは駆逐戦よりも新型種の捜索に回されているのか?」
店長が言う新型種とは、ダークビジョンの新型を意味する。駆逐戦に姿を見せるタイプは下級ランクが多いのだが、稀に中級ランクも出没する。
「さすがに、ランクの低いセイバーが上級ランクや最上級ランクのダークビジョンと戦うケースはないでしょう。演習であればそれに匹敵するランカーと戦う機会はあると思いますが―」
男性スタッフの話を聞いた店長は、慌ててセイバープレートで何かを検索し始めた。そして、ある場所で上級ランカーが最上級ランクのダークビジョンと交戦している情報を発見する。
「そう言う事か」
店長は何かを考えていたが、その考えは男性スタッフには見破る事が出来なかった。自分がロードデュエルの関係者だった場合、あの位置に最上級ランクのダークビジョンを配置するのだろうか。店長は疑問に思った。
同日午後2時10分、さまざまなセイバーロードが任務をこなしていく中で、草加市と足立区の境に該当するエリアで謎の行動をしている人物が存在していた。コードネームはセイバーチーフ。しかし、それ以外の部分は不明確の箇所が多い。
《活動エリア外です。ただちにセーフティーエリア内へ戻って下さい》
白いインナースーツに青のSFに近いようなデザインのセイバーアーマー、特徴的なのは胸部分のアーマーが若干重装甲になっている事か。それに加え、メットデザインも最近のアニメで見かけるようなシャープなデザインをしている。
《活動エリアより外へ出ると、セイバーガジェットを含めた全機能が停止します。セーフティーエリア内へ戻って下さい》
メットのバイザー部分には警告のメッセージが表示され続けている。しかし、セイバーチーフは警告を無視してギリギリのラインを飛行しており、発見したダークシャドウを撃破している。ダークシャドウを撃破するだけであれば謎の行動とは判断されないのだが、それ以外の行動には不審な点があった。
『この辺りが限界か』
警告に従うかのように、セイバーチーフはセーフティーエリアへと戻った。どうやら、背中に接続している試作型ブースターユニットの飛行テストをしていたようだ。その為、セーフティーエリアギリギリの高さで空を飛んでいたらしい。その高さは30メートルである。
《活動エリアへ戻りました。警告を解除します》
このメッセージが表示された後、警告のメッセージは消滅し、元のバイザー画面へと戻った。画面上には、現在のマップ、自分のアーマー耐久度、敵の現在数が表示されている。
『残りの数は、どの位なのか』
敵の数を気にしながら戦っても意味はないと判断しているのだが、周囲に存在するダークシャドウの数は30を超えている。これだけの数をどうやって片付けるのか。
《ターゲット、ロックします》
次の瞬間、セイバーチーフは両肩にマウントしていたビームライフルの固定パーツを解除し、それぞれの手に持ち替える。先ほどまで使用していたビームサーベルは左腕のマウント部分に戻した。
『沈め!』
ビームライフルの引き金を引き、そこから放たれたのは無数のホーミングレーザーだったのだ。レーザーは的確にターゲットを貫通し、そのまま消滅をする。
同日午後2時15分、セイバーチーフがテストを行っていた頃、別の超有名アイドルファンと思われるセイバーロードが撃破されるという事件が起きていた。場所はチーフがテストを行っている場所から半径500メートルの範囲外だが、場所が場所だけに調査が難航している。
「これは事件でまとめて良いのか、疑問に残る箇所が多いですね。特に、超有名アイドルファンが集中的に撃破されている所を見ると」
現場に到着したのは、緑色の背広に運営と書かれた腕章を付けた男性スタッフが数人である。その内のメガネをかけた男性が、その光景を見て疑問に思っていた。
「事故であれば他のセイバープレートにも情報が入り、エリアによっては任務の一時中断が指示されるケースもある。今回のケースは事故ではないが―」
メガネをかけた男性の疑問に答えたのは、作業用アーム装備のボードに乗ったセイバーロードだ。彼は運営から呼ばれた訳ではないが、自主的に現場へ駆けつけた人物である。事件に興味があるという訳ではなく、現地で起用された臨時スタッフかもしれない。
「今回は場所がロードファイトの行われているエリアです。向こうのバトルを妨害しないようにお願いします」
メガネの男性が他のセイバーロードにも同じ指示を出した。どうやら、他のエリアでロードファイトが行われている為、そのテリトリーに入らないように作業をしてほしいという事だった。
「このパーツは一体?」
「見ないようなチップだな。運営に聞いてみるか」
セイバーロードの数人が道路に散乱しているチップの破片を発見する。そして、連絡してからわずか10秒足らずで野球帽を深くかぶった男性が駆けつけた。彼も運営の腕章をしており、他のメンバーは本物の運営と思っていたらしい。
「このパーツは違法なチートを使用している可能性があります。パーツの方はこちらで回収しますので、他の救援要請をしている場所へ移動して下さい」
彼の話をあっさりと受け入れ、周囲にいたセイバーロードは救援要請をしている別エリアへと移動を始めた。
同日午後2時20分、運営の使用するコンテナ車とはデザインの事なるような電気自動車が到着した。この自動車は太陽光を吸収してエネルギーとするシステムが採用されており、これと似たシステムがセイバーアーマーやガジェットにも使われている。
『やはり、例のチップか?』
「間違いない。このチップはフェンリルの立ち上げた芸能事務所が使用している物だ」
『あの芸能事務所が本格的に動き出したのか』
「とにかく、こちらでチップを回収して解析班へ回す」
帽子を被った人物は別の誰かとセイバープレートを通じて通信をしていた。しかし、誰と通信していたかはサウンドオンリーだった為に不明である。
「さて、後は向こうの勢力が動いてくれれば―」
帽子を被った人物がコンテナ車を所定の位置へ誘導、コンテナ車現れたのはロードデュエルでは見かけないデザインをした大型ローダーだった。
同日午後2時30分、草加市内にあるセイバーロード運営本部、そこではセイバーロードで使用するガジェットだけではなく、セイバーボード等の装備を一括管理している。
「ここが、セイバーロードの総本山か」
正面玄関に姿を見せたのは、黒のショートヘア、眼の色は黒、プチ美人と言うような女性だった。服装は大手高級ブランドではなく、安さが売りというお店で売っているような服を着ている。
「どちらにしても、ここには用があったのだが―」
彼女の名前は武蔵アカネ、運営本部に呼ばれた理由は〈とあるデータ〉の提出、持参したリュックサックの中にデータが収録されたセイバープレートが入っている。
武蔵が自動ドアのある正面玄関から入ると、そこにはアンテナショップ顔負けのラインナップで並べられたセイバーガジェットが展示されていた。それ以外にも、試作型のスーツやアーマー、有名ランカーの動画を視聴できるコーナー等もある。
「このエレベーターか」
一般客も使用するエレベーターに到着した武蔵は、目の前にあるエレベーターのボタンを押す。しばらくして、エレベーターが到着。その後、武蔵はエレベーターの階数を表示するパネルに向かって自分のセイバープレートをかざした。
(そう言う事だったのか!)
武蔵は声に出していないが、アンテナショップ自体がカムフラージュの役割を果たしているのでは―と考えていた。
エレベーターは地下5階で止まり、そこでエレベーターのドアが開く。開いたドアから広がる空間は地下と言う事を忘れるような光景だった。
「これが、セイバーロードの中枢と言う事か」
まるで大型通販サイトで商品の陳列を行っているような世界が、そこには広がっていたのである。大量に陳列されたセイバーガジェットは武器の種類ごとに仕分けられ、バイザーの方も上手く折りたたんだ状態で整理されている。その光景はまるで、地下の大型駐車場だ。
「この奥に、一体何があるというのだろうか」
武蔵が床の矢印に従うかのように歩いていると、左右ではセイバーガジェットのコンテナが目まぐるしく移動しているのだ。宅配便センターのような高度なシステムが地下に造られ、セイバーガジェットの転送をサポートしていたのだ。
『特撮番組のようなイメージでも抱いていたのか?』
矢印の途中で道をふさぐかのように待ち構えていたのは、リヴァイアサンだったのである。しかし、彼のセイバーアーマーは修復に回している為、インナースーツにメットという姿で武蔵を待っていた。
「そうではない。ロードファイトに比べると、システム周りが全自動になっていると驚いているだけだ」
『ロードファイトでの課題や欠点を極力改善し、海外のコンテンツに対抗する為に作られたのがロードデュエルであり、セイバーロードだ』
「欠点はある程度改善できたとしても、それを全てのユーザーが受け入れるとは到底思えない。結局、以前の方が良いと思う人間もいるのは事実だ」
『それらの意見を反映したとして、100%のユーザーが納得する物が完成するケースは少ないだろう。多かれ少なかれ、反対意見は浮上する』
武蔵とリヴァイアサンが矢印に向かって歩きながら話をする。その内容は、全てのユーザーが受け入れられるような物作りは難しいという話題だ。
「それらの反対意見さえスルーして、無限に近い資金力で人心買収を行う存在―それが超有名アイドルだ。超有名アイドル商法は存在してはいけない物、賢者の石と同類の存在だ」
そして、武蔵は自分が最も嫌う存在である超有名アイドルに対し、怒りをぶつける。しかし、八つ当たりをしたとしても現状が変わる訳ではないのでリヴァイアサンを殴ったりはしない。
『倒すべき存在は超有名アイドルだけではない。暴走したファンは純粋なファンの思いを裏切り、全てを無に還る程の力を持っている』
「つまり、超有名アイドル以外にも敵は存在すると言いたいのか?」
リヴァイアサンの発言を聞き、武蔵は疑問をぶつけた。敵は超有名アイドルだけなのでは―と。
『超有名アイドルとしては、自分達の今までやってきた事を犯罪と認識されてほしくはないと考えている。だからこそ、BL勢が起こす事件を利用し、周囲の目をそむけさせようとする』
「私は、そうは考えていない。全ては超有名アイドル勢の戯言だ。自分達が全ての元凶だという事に気がついていないだけの事だろう」
武蔵とリヴァイアサンは超有名アイドル商法という共通の敵を持っている一方で、その敵を倒そうと考えている理由は若干違っていたのだ。
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