第3話『学園都市群セイバーロード』レポート3
※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、フィクション扱いでお願いします。あくまで虚構という方向で…。
※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。
※イメージレスポンス、挿絵等も随時募集しております。プロフィールにも書いてありますが、特に早いもの勝ちではありません。お気軽にお問い合わせください。
※第3話もpixivと同日投稿になっております。
※微妙に場面描写で、1箇所だけピクシブと違う箇所が存在します。
男性アイドルグループがデビューCDから続けているCDシングルチャート連続1位記録を更新中である事が、大手ランキング会社の調べで明らかになった。
今回シングルがウィークリーチャートで1位になった事により、ギネス記録をさらに更新する事となった。
一方で、超有名アイドルのシングルCDが30日に発売を控えている事に関して芸能事務所側はコメントを出していない。
(2013年10月29日のニュースサイト記事の冒頭より)
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西暦2013年、学園都市群セイバーロードが本格的に起動した時期である。
この時期には不正なガジェットを使用した超有名アイドルが学園都市に出没し、それを討伐する存在も確認された。
何時からか不明だが、その存在を〈スクールブレイカー〉と呼ぶようになったのは、何かを警戒する為だったのだろうか?
一説によると、スクールブレイカーの出現は〈とある事件〉から目をそらすためなのでは―とも言われている。
その理由は、この時期に頻発したある作品に対する脅迫事件とする意見もあったが、真相は定かではない。
(あるニュース報道を受けて書かれたと思われる虚構記事の一部抜粋)
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繰り返されるのは超有名アイドル商法に対する議論だけではない。その他のコンテンツでも炎上商法が問題視されている。
脅迫という手段を用いるケースが週刊誌報道やメディア等で注目された事が背景にあるようだ。
この炎上商法には「超有名アイドル以外は不要」というメッセージが込められている気がしてならない。
最近の話だが、某男性アイドルがCDシングル初登場1位記録のギネスを更新したというニュースが報じられた。実は、その翌週に超有名アイドルのCDが出る事を考えると、どう考えても芸能事務所の方で談合があったように思える。
どうやら、超有名アイドルを抱える2つの有名事務所が政府を手を組んで日本を掌握しようという話は事実のように思えてきた。
(あるニュース報道を受けて書かれたと思われる虚構記事の一部抜粋だが、前述の物とは書いた人物が違う)
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超有名アイドルは、全ての資金と言う資金を吸収しようと考えている賢者の石と書かれている書籍が存在しているらしい。
その名はアカシックレコード。超有名アイドルのCDが即日ミリオンと言うニュースが出る度に『超有名アイドル商法は賢者の石である』というテンプレが続出しているようだ。
しかし、アカシックレコードと言う書籍を発見する事は出来ず、廃刊になったのではないかと言われている。
(虚構記事の一部抜粋。あるニュースを前に書かれた物で、2013年10月30日の日付が記事に入れられている)
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セイバーロードに到着。本当にアニメだけで存在するような世界が目の前にあるという現実は、言葉にできない驚きがある。
(ある観光客のつぶやきより。このつぶやきには5万以上の反響が寄せられたという話だ)
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西暦2016年4月3日、学園都市群セイバーロードが迎えた4月最初の日曜日は、観光客が予想以上にあふれるという反響を見せていた。午前11時発表では5万人を突破したらしい。
【5万人も収容できるのか?】
【人数制限を設けて、交代制もありえそうだ】
【あのエリアで5万人と言ったら、かなり凄い事だぞ】
【確か、学園都市群はドーム球場で言うと20個分と言われているが】
【しかし、学園都市群では普通に生活をしている人々も存在している。それを踏まえると、5万人を収容したら一般市民にも影響が出そうだが】
【学園都市群以外にも、別エリアにはアミューズメント施設もある。噂によれば、2エリアを合わせると10万人を収容できるという話もある】
ネット上では5万人と言う観光客に驚くと思われたが、冷静な反応をしているのが大半である。未完成の時にも2万人が押し寄せたという話が存在するが、信用しないユーザーが多い。
同日午前11時、いかにも量産型と言うデザインをしたセイバーガジェットの大群に囲まれていたのは、赤と白銀のラインを織り交ぜたようなカラーリングのセイバーアーマーだった。
『君たちは分かっているはずだろう? セイバーロードの資格を得ている者がすべきことを!』
次の瞬間には、両腕に装着されていたシールドからビームサーベルを取り出し、周囲の量産型を次々と薙ぎ払っていく。
「今はアンノウンもダークビジョンも現れない! ならば、ランカーを倒せば莫大なポイントを得る事が出来る」
「下位ランカーを倒しても得られる物はたかが知れている。それを踏まえれば、自然と相手は絞れてくる!」
量産型のプレイヤーの言う事も一理ある。〈自分〉は下位ランカーよりは順位が上だ。しかし、それと同時に他のプレイヤーからも集中的に狙われる事も分かっている。
『レベル差ポイント狙いか。それも悪くはない! だが、相手はよく選ぶ事だ』
彼のビームサーベルが量産型セイバーガジェットであるトマホークとスピアの機能を停止させた。それには2人も驚いたが、それ以上に驚くべき光景は別にある。
「バカな!?」
「これが、ルシファーの実力―」
彼らが挑んでいた相手、それは上位ランカーのルシファーだった。彼に関しては『ルシファーに近寄るな』というのが一種の常套句になっている。
『他の上位ランカーは姿を見せないか。どちらにしても、平日に入る前にポイントを上手く稼ぐのも重要なポイントだな』
ルシファーはバイザーにランキングリストを表示させ、それを確認し始めた。ロードデュエルに参戦しているランカーは、現在順位の左に星マークが表示される。
『クー・フー・リンはログインしているか。しかし、他の有力上位ランカーはログインしている形跡がないのも気になる』
彼としては上位ランカーを撃破し、ベスト10入りを目指している。しかし、下位ランカーと戦い続けても得られるポイントは少ないからだ。
同日午前11時10分、草加と言うよりは竹ノ塚に近いような位置に1つの店舗があった。そこは周囲のファミレスなどと比べても、人が入っているようにも見える。実際、入口の電光掲示板には満席と表示されていた。
【14位のランカー○○、15位のルシファーにポイントを抜かれる】
この店舗は、ファストフードや各種ガジェット、アーマー修理等が行える店舗が複数入っているアンテナショップだった。ガジェットショップに置かれたテレビではロードデュエル専門チャンネルが流れており、その速報でランカー順位が入れ替わった事がテロップで表示された。
「ここにきてルシファーか?」
「ランカー同士のスコアバトルも凄い展開になったな。3月までは大きな変動がなかったのに」
「一番油断できないのは、これだ」
複数の男性が情報交換をしている中で一人の男性が取りだしたタブレット端末、そこには見た事もないようなセイバーガジェットを持った女性と思われる人物が映っている。
「超有名アイドルか? その類は学園都市に入り込めないはずだ」
「確かに、学園都市群では超有名アイドルや芸能人のカテゴリーに当てはまる人物は入学不可となっている。ただし、特例もあるようだが」
「特例というと、芸能活動を休止したり引退したケースか?」
「それもある。実際に入学説明会でも言われているからな。しかし、もうひとつ〈だけ〉特例が存在している」
「それは何だ?」
最初にタブレット端末を取りだした男性は何かの人影に気付き、その場を去ろうという準備をしていた。
「どうやら、連中が狙っているようだ。情報の続きは、そのタブレットを確かめろ」
その後、男性がレジの方へ向かう事なく店の方を後にした。商品は先払い式の為、特に食い逃げ等で店員に止められる事はなかったのだが―。
その情報交換をしている人物を見かけ、何かを聞き出そうと考えていたのは松鶴イオリだった。しかし、人物に近寄ろうと考えた時、ある人物がイオリに声をかけてきた。
『お前は、確か第1小隊の―』
その人物とは、ルシファーと同様に上位ランカーとして有名なクー・フー・リンである。北欧神話をモチーフとしたアーマーは、遠目に見ている客もすぐに分かる位に特徴的な物だ。
「上位ランカーか。貴方では、私の聞きたい事は知らないと思うわ」
イオリはクー・フー・リンの考えている事を踏まえ、あっさりと切り捨てた。おそらく、彼では自分が求めている情報は持っていないと確信している。
『噂ではロードデュエルの根底を覆そうと考えている人物がいるという話がある。それがお前達〈第1小隊〉とは考えたくないが』
「あなた達のような表向きの世界しか知らないランカーには、私の考えている事は理解できないわ」
『あの事件は半年前にはすべて決着している。それは、日本政府がセイバーロードを学園都市特区にした地点で分かっているはずだが?』
「それは言われなくても分かっているわ。しかし、日本政府はセイバーロードで起こった事件に関して〈口封じ〉をしただけにすぎない」
『学園都市特区を口封じ? 何を証拠に!?』
イオリの〈口封じ〉という単語にクー・フー・リンが反応し、最後にはイオリを殴り飛ばそうとも考えていた。しかし、ロードデュエルを含めても暴力沙汰にでもなれば、学園追放もあり得るだろう。
「ロードデュエル以外の暴力行為が発覚すれば、どうなるかは貴方も分かってるわね?」
寸前の所でクー・フー・リンは拳をおさめ、店を後にした。周囲の客も反応は色々あるが、大騒動にならなかった事に関しては一安心という所だろうか。
「あの人物も帰ってしまった以上、ここには用がないか」
イオリが気付いた頃には、目当ての人物も帰っていた跡だった。その為、イオリは別のアンテナショップへと向かう事にした。
同日午前11時30分、お昼が近くなってくるとファストフード店等が混雑を始める。観光客に混ざって、一般市民やランカーの姿も目立ち始めていたのも特徴だろうか。
「相変わらず、第1小隊の強さが目立つな」
テレビの方角を振り向いたのは、メガネをかけた男性記者だった。彼はラーメンをすすりながら、隣にいる無精ヒゲの男性と話をしている。
「それ以外にも別のグループもあるようだが、そちらはピックアップされない」
2人は雑誌取材の為に学園都市群を訪れていた。しかし、予想以上に情報収集は難航をしていたのである。
「あくまでも授業の一環で作られたグループは、表だって行動していないという事か?」
「それも一理あると思う。しかし、学校の授業や単位にも影響しているロードデュエルが、ここまでの人気とは誰が予想したのか」
「元々はロードデュエルは授業専用で、土日・祝日の解放、一般ランカー参加と言うような物を導入する予定はなかったらしい」
「祝日もプレイするのであれば、ロードファイトもある。わざわざ学園都市限定のロードデュエルをプレイするのが一般的だろう」
ロードファイトとロードデュエルの大きな違いは、学校の授業や単位にも影響、学園都市群限定まではパンフレット等でも確認出来る。
「しかし、学園都市ではロードファイトも可能なのに、ロードデュエルをプレイしている人物が多い。2つのプレイヤーを兼ねている人物も目撃されているのだが…」
「ロードデュエルをプレイする事によって有利になる事があると感じているから、ロードファイトのプレイヤーもロードデュエルをプレイしている可能性がある」
しかし、パンフレットをチェックしてもロードファイトとロードデュエルを両方プレイする事で有利になる事は書かれていなかった。
「ロードファイトならば全国に設置されている上に、海外展開もされていて知名度が高い。それなのに?」
「結局、この部分で平行線か」
2人は情報を整理して色々と考えたが、結論が出てくる事はなかった。食事を再開し、ラーメンを食べ終わった頃には30分は経過していた。
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同日午前12時、イオリがいたアンテナショップとは別の草加駅近辺にあるショップでは、屋内でロードデュエルチャンネルを確認している秋雲ほむらの姿があった。
《ロードデュエル速報です。先ほど、運営未登録のガジェットを使用していたグループを一斉摘発しました》
番組で流れた速報は、運営未登録セイバーガジェットの摘発情報だった。グループ名に関しては速報の為に省略されているが、おそらくは裏で違法ガジェットの宣伝をしている勢力だろう。
「運営未登録のガジェットは厳しく警戒され、最終的には摘発の対象になる。それでも、違法ガジェットが入ってくるのを止められない」
ほむらは考えていた。結局は違法ガジェットを使わないという意識改革が改めて必要なのではないか、と。
《―運営では精巧な違法ガジェットが将来的には開発される可能性を踏まえ、新たなセキュリティをセイバーガジェットへ導入する事を検討開始した模様です》
セイバーガジェット及びロードデュエルが本来の用途で何を想定していたのかは不明だが、違法ガジェット、超有名アイドルの宣伝行為、炎上商法、テロ活動への転用、その他の迷惑行為はガイドラインでも禁止されている。
「必要なのは規制で縛りつける事ではない。重要なのは、個人の意識改革。チートに頼らなくても勝負に勝てる事を伝えないと」
店外へ出たほむらは、店の前に設置されている端末にアクセスをする。そして、先ほどの違法ガジェットを調べ始めた。
【該当ガジェットの情報はありません】
データの入力ミスではなく、普通にエラー表示だけだった。基本的には、運営に申請されたガジェットであれば検索可能のはずである。
「運営未申請の偽ガジェット、過去に起きた超有名アイドルによるロードデュエルを巻き込んだ事件、その他にも同じような事を起こそうと考えて駆逐されたBL勢力―共通点があるとすれば、賢者の石か」
ほむらは、ふと賢者の石と呼ばれる物を思い出した。賢者の石、超有名アイドルが使用する無限の資金を得る為のマニュアルとも呼ばれていて、他の世界でも似たような解釈をされているらしい。
「あるいはアカシックレコードに類する物、それとも世界線の変動か」
そして、ほむらはセイバーボードを呼び出す為にプレートを端末に読み込ませる。
《認識完了しました。セイバーボード〈スサノオ〉、コントロールチェック―》
メッセージが流れた後、草加駅と大型デパートに設置された電光掲示板にもメッセージが画面に表示、セイバーボードの発進を知らせるインフォメーションが流れ始めた。
【セイバーボードが発進します。半径50メートル以内の該当エリアには立ち入らないで下さい】
インフォメーションにはマップも同時に表示され、駅及びデパートや商店街から若干離れたエリアが立ち入り禁止エリアに指定されている。立ち入り禁止と言っても、一般市民や観光客に対しての立ち入り禁止ではなく、実際はロードデュエル参加者向けの物らしい。
【セイバーガジェット所有者が該当エリアへ侵入した場合、ロードデュエルにおけるペナルティを該当者に与えます。繰り返します―】
30秒後、自動車が目の前の道路を通り過ぎ、それを考慮したかのようなタイミングでアスファルトの道路がハッチへと変化、開いたハッチから現れたのはスサノオで、他にも連装キャノン砲がスサノオに装着されている。どうやら、一部の武装はオプション式で装着有無を決められるらしい。
「どちらにしても、超有名アイドルのやり方を認め続ければ、日本はコンテンツ市場で大敗は確実。超有名アイドルに変わる新しいコンテンツを生み出す環境を作らなければ、破滅は必至」
ほむらはカードをカバンから取り出したセイバープレートにセット、その後にセイバープレートを右腕に装着した。
《セイバーボード スタンバイレディ》
先ほどと同じシステムボイスが端末から流れ、カタパルトが草加駅の方角へ回転した。どうやら、電車も一時的に止まるようだ。
『お客様にお知らせします。セイバーボードが発進する関係上、列車は一時停車します。発車時間に多少の遅れが出る事をご了承ください。繰り返し―』
ほむらがセイバーボードの上に乗ると、着ているブレザーの制服が光り出して青い光がボードの方へと流れる。そして、連装キャノン砲にも青い光が流れ、カラーリングが白銀だけの装甲部分が青色の混ざったような色へと変化した。
《セイバーボード ゲットセット》
エネルギーが充電された後、ほむらの制服は瞬時にしてインナースーツ姿に変化、その後にセイバーアーマーが装着される。経過時間は数秒と言う間の出来事である。
「ゲットライド!」
ほむらが向かったのは、草加駅より先のアミューズメント施設付近。そこで違法なガジェットを使ったロードデュエルが行われているという情報を得たからだ。
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同日午前12時30分、ほむらが向かっているエリアと同じ場所では別の人物が何かとロードデュエルを行っている。この付近には外でプレイするタイプのARゲームも設置されているが、そちらに干渉する事がないように交通規制もされており、無関係なプレイヤー等を巻き込まない配慮がされているようでもあった。
「こいつは化け物か?」
「我々の装備が通じないなんて」
一方のセイバーアーマーは超有名アイドル勢である。どうやら、このエリアでPR活動でも行おうとしたのか、あるいは乱入してゲリラライブをしようとしたのかは不明だ。しかし、ロードデュエルにおけるペナルティを受けるのは避けられない。
『やはり、例のアレを装備していたのは正解だったか』
もう一方の人物は、上位ランカーのクー・フー・リンである。イオリと遭遇した後にスコアを稼げるエリアがあるという情報を入手し、該当エリアへやってきた。
「例のアレだと!?」
超有名アイドルのファンと思われる男性が、クー・フー・リンの言う〈例のアレ〉に反応した。そして、彼は指をパチンと鳴らし、周囲に展開されているフィールドの種明かしをした。
『このフィールドは、運営が用意した対チート装備用の特殊フィールド〈インフィニティ・ブレイク〉という』
そして、再び指をパチンと鳴らし、フィールドが透明化した。つまり、彼らはおびき寄せられた事も知らずにクー・フー・リンと戦っていたのである。
『残念だが、君たちは私が戦うにふさわしくないプレイヤーと言う事だ。〈勝てば官軍〉という考え方でチート技術に手を出すとは、それでもロードデュエルの資格を得たプレイヤーか?』
クー・フー・リンの一言を聞き、動きを止めていた20人以上のプレイヤーが一斉に動き出す。彼らもチート技術を使っているが、インフィニティ・ブレイクの干渉は受けていないようだ。
「超有名アイドルがいなければ日本経済は、日本経済は終わっていた!」
トマホークを持ったプレイヤーが襲いかかってきたが、クー・フー・リンは武器を構えることなく近くの端末を右手で操作する。
『そう言った勢力が、ロードデュエルの評判を落としているのが分からないのか!』
そして、端末の隣にあったコンテナから即座に大型の斬艦刀を呼び出し、相手のトマホークをはじき返した。その間、わずか5秒。
「ロードデュエルは関係ない。我々は超有名アイドル以外のコンテンツには消えてもらうだけだ! 既に駆逐されたBLと同じように」
他のプレイヤーも近距離ガジェットでは歯が立たないと判断し、今度はライフルなどの遠距離ガジェットでクー・フー・リンに対抗しようとしたが、ライフルからビームが放たれる事はなかった。
「バカな! ライフルが起動しないだと?」
「まさか、あのフィールドが武器を全て無効化しているのか」
『気付くのが遅い!』
クー・フー・リンが周囲のプレイヤーを察知し、あらかじめ設置したキャノン砲やガトリング砲等で次々と無力化していく。
「一体、アイドルに何の恨みがある? ここまでして芸能事務所が黙っていると思ったら大間違いだ! お前達は国会も金の力で制圧した我々の―」
トマホークを弾き飛ばされたプレイヤーは、何かをクー・フー・リンに向けて言おうとしていたが、それも爆風によってかき消されてしまった。
『ロードデュエルは中立勢力。そして、金や圧力と言ったような物にも屈しない』
全てが終わった時には、クー・フー・リンの姿を消しており、到着したほむらも何が起こったのか全く理解できなかった。
同日午後1時、現地に到着した後には全てが決着し、ほむらは若干だが暇と言う状態になっていた。練習台のダミープレイヤーと演習を行っているが、退屈だという事には変わりない。
(あれだけのチートプレイヤーを倒すだけの実力者しかいない。ここに来ていたのはランカーと言う事か)
到着した直後、その場所ではロードデュエルの運営が周囲を立ち入り禁止にして整備をしている所で、撃破されたセイバーアーマーや違法ガジェットを運営が回収していた。
(インフィニティ・ブレイクが実装されたのは3月になってからと聞く。そして、その事実は学園都市へ訪れる者ならば、知っていて当然のはず)
一方で、インフィニティ・ブレイクが実装された時期を考えると、違法ガジェットを使用するプレイヤーもある程度は情勢を把握しているはずだ。ガジェットのバイヤーが情報を把握せずに違法ガジェットを売ったのならば、話は別だが―。
(まさか、運営が違法ガジェットのバイヤーを釣る為に意図的に情報を流さなかったのか?)
演習でダミープレイヤーを撃破しつつ、ほむらは考える。情報は確かに公開されていた。しかし、その情報は一部のプレイヤーにしか流れず、意図的に特定プレイヤーをおびき寄せる為に工作をしたような気配さえ感じさせる。
『今は上位ランカーに迫るようなスキルを習得しなければ、トップランカーには程遠い』
ほむらの目指す物、それはロードデュエルのトップランカーだった。トップランカーになれば、スクールブレイカーをはじめとした強豪とも接触できる可能性が大きくなると考えていたからだ。
同日午後1時10分、演習を終えたほむらは別のエリアへと向かおうと考えていた。しかし、それを遮るかのように未確認のセイバー反応がバイザーに表示される。
『人数は多くない。武装は―』
セイバーの数自体は大軍勢と言う訳ではなく1人でも何とかなる数だったのだが、問題は彼らの装備である。
『正式武装のはずなのに、こちらと攻撃力が違いすぎる!?』
彼らが装備している武装の攻撃力は、ほむらが使用しているガジェットの5倍近くという数字を表示していた。これは、どう考えてもチートや違法ガジェットの類である事は明白。しかし、不正データを示すようなアラートが鳴る事はなかった。これは、どういう事なのか?
「他の増援が現れる前にランカーを叩く!」
男性プレイヤーと思われる声がする。どうやら、目の前にいるセイバーアーマーは敵のようだ。
『あなた達の狙いは何?』
「それに答えるとでも思うのか?」
『つまり、敵と言う事で問題ないのね』
「そう考えてもらって結構だ。我々には、学園都市を倒さなければならない理由がある」
リーダーと思わしきイバーアーマーのプレイヤーがほむらの疑問に答える。外見は明らかな敵メカと言うような分かりやすいデザインをしている一方で、これと同じようなデザインをロードファイトでも見た事があった。
『学園都市を狙う理由は何? ロードファイトの為? それとも―』
「最低でも、ロードファイトやBL勢力の復活と言うような安っぽい理由ではない」
リーダーの一言、それはほむらにとっても衝撃的な物だった。ロードファイトとロードデュエルが似ている事に対し、お互いに潰し合いが行われているという事が稀にネット上で目撃する。
『理由が違うのだとすれば、超有名アイドル絡み?』
「敵勢力の目的を何でも超有名アイドルの仕業と考えるのは、売れないコンテンツ勢の悪い癖だ」
そして、他のメンバーが一斉に攻撃を始め、5体程度がほむらに襲いかかる。武器は全て近距離系だが、向こうの攻撃力を考えると1発当たるだけでも致命傷となるのは間違いない。
『超有名アイドル絡みを否定し、更にはBLでもロードファイトとの関係でもない。あなた達の目的は何なの!』
「目的を教えたとしても、お前達には分かるはずもない!」
リーダーの振り下ろした青龍刀を何とか回避し、ほむらは連装キャノン砲で反撃をする。放たれたビームをリーダーはあっさりと回避、その一方で後ろにいた別のセイバーアーマーに命中し、機能を停止した。
『意味もなく暴れまわり、意味もなく破壊の限りを尽くす―その行為はロードデュエルで認められていない!』
「意味など後で決めればいい! 全てのシステムを破壊し、新たなシステムを作ればいいだけの話だ!」
連装キャノン砲を放り投げ、腰のビームサーベルを展開して次の斬撃を切りはらった。しかし、逆にビームサーベルは弾き飛ばされ、その内の1本は更に別のセイバーアーマーに直撃、この機体も機能を停止する。
『それだけの力を持っているのならば、どうしてチートの力を求めたりする! その力は超有名アイドルが生み出した破滅を導く力以外の何物でもない!』
「賢者の石の話か。確かに超有名アイドル商法は賢者の石とも言われ、他のジャンルにとっては批判するにうってつけのネタになっている」
今度はほむらがビームロングソードで青龍刀を弾き飛ばす。しかし、次の瞬間には左腕に装備されたハンドバルカンでほむらとの距離を取り、更には両肩に装備された大型キャノンを放つ。
「しかし、賢者の石は超有名アイドル商法に限った話ではない。それは学園都市を見れば分かる事だ!」
リーダーの放った大型キャノンのビームは、ほむらが使用した連装キャノンのそれとは比べ物にならないスピードでほむらに命中する。
『あの直撃を受ければ―』
命中したと言ってもシールド部分だったのが幸いした。しかし、ライフゲージは瞬時にして7割は持って行かれた。ガードをしなかった場合は、明らかに機能停止になっていただろう。
「我々には賢者の石に例えられるようなコンテンツは不要なのだ―我々が求めているのは、束縛されない自由」
リーダーの声にノイズが混じる。どうやら、バイザーの機能が今の攻撃で故障をしたようだ。このままでは機能停止も避けられない。次の攻撃を受ければ、自分が負けるのは必至だ。
「!? あの影は何だ? 一体、どこから入り込んで―」
その時だった。バイザーから見える画像にもノイズが混じり、システムエラーを示すメッセージがバイザーにも出始めている。その状況で姿を見せたのは、スクールブレイカーだったのだ。
《お前達の語る事は偽りだ! 全ては一部の芸能事務所へ利益が入るように仕組まれている自作自演にすぎない》
「芸能事務所の自作自演? そうか、お前が噂のスクールブレイカーか。ならば、相手にとって不足はない!」
このやり取り以降に何があったのかは、ほむら自身には分からない。その時には一部機能が停止してバイザーが真っ暗になったからだ。それに加えて、音声認識のシステムも動かなくなっている。
同日午後1時15分、ほむらがメットを外すと、そこにはスクールブレイカーの姿があった。先ほどの敵を全て機能停止させたのは、彼で間違いないらしい。
《全ての元凶は超有名アイドルの芸能事務所だ。学園都市へ資金提供を行い、それこそ賢者の石と呼ばれる永久機関にも等しい超有名アイドル商法を生み出そうとしていた》
「あなたが私を助けた理由は?」
《困っている人を助けるのに理由がるのか?》
「そうではない。ロードデュエルは理由なき暴走した力を振り下ろす事を禁止している。力を持った人物が、その力を振るうには何かしらの理由が必要になる」
《それが、超有名アイドルと同じ道をたどってもか?》
「同じ道はたどらない。他のARゲームやソーシャルゲームと同じようなミスは―」
《絶対発生しないとは言い切れない》
スクールブレイカーの一言を聞き、ほむらは思わず拳を握って彼を殴りつけようかと考えた。しかし、そんな事で力を振るえば、先ほどの連中と同じ末路をたどる。
《これだけは覚えておいてほしい。意思なき力は悪意となって破滅を導く。アカシックレコードに記録された物語が示すのは、超有名アイドルによる力の暴走でコンテンツ業界が破滅寸前に追い込まれる世界だ》
「超有名アイドルは、やはり破滅を導く未来しか生まない―」
《だからと言って、全てのアイドルが破滅を導く存在と言う訳ではない。それだけは覚えておいてほしい。暴走する存在があれば、それを止める存在もあるはずだから》
そして、スクールブレイカーは姿を消した。一体、彼は何をほむらに伝えようとしていたのか?
これは、ほんの序章に過ぎなかった。超有名アイドルと学園都市の激突は、これが始まりとするネット上の説もあったが真相は謎のままである。
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