第10話『裏チャートの真実』
※2月4日午後11時58分付
登場人物の名前で統一されていない箇所がありましたので、統一をいたしました。
変更前:プリンシパリディ→変更後:プリンシパリティ
(変更前の物で記載されている個所は、全て変更後に統一しております)
西暦2016年4月9日午後2時40分、本来であれば録画も不可能なエクスシアの動画がインターネット上に流れた。これが意味する物、それは新たな波乱の幕開けである。
『どういう事だ? あの映像は合成か何かではないのか?』
草加駅近辺の何処か、誰かと連絡を取っていたのはクー・フー・リンだった。どうやら、彼はネット上にアップされていたエクスシアの動画に見覚えがあるらしい。
『本物? 既に裏は取ってあるのか?』
彼がバイザーの通信機能を使用して連絡を取っている人物は、サウンドオンリーになっていて顔は確認できない。そして、緊急回線を使用している関係で運営に会話ログが残る事もない。仮にログが残ったとしても、個人で保有と言う規模になるだろう。
『分かった。ガーディアンとしては、様子を見る方向で調整を行う』
クー・フー・リンが通信を切った後、バイザーの通信モードも変更して周囲の音声が拾える通常状態へ戻す。どうやら、先ほどの通信は第3者に聞かれないようにシステムをカットしていたようだ。
「エクスシアの件、これが意味している物は何だ? 我々も知らないような超有名アイドル商法の真実を握っているとでもいうのか」
周囲を見回し、他の勢力がいない事を目視で確認する。その後、バイザー内の特殊レーダーも確認し、彼は別の場所へと向かった。
同日午後2時45分、合流予定の場所へ向かう途中、太陽光発電のある松原団地某所で超有名アイドルファンと思わしき一団に取り囲まれてしまった。
「貴様たちの目的は何だ?」
取り囲んでいる一団が、クー・フー・リンの問いかけに答えるような気配は全くない。更に言えば、隊長機と思われるロボットの指示も無視するような形でセイバーアーマーを装着した数人が問答無用で襲いかかってくる。
『待て、様子がおかしい!』
『奴はガーディアンの隊長格だ! それを倒したという情報がネットに流れれば、超有名アイドルの活動を妨害するテロリストは存在しなくなる』
『ガーディアンの実態、それはネット上の情報を意図的に操作してバランスを調整している存在だ。お前達が超有名アイドルの行為を批判する資格はない!』
クー・フー・リンを襲撃した理由、それは彼がガーディアンの隊長格とも言える人物であるらしいという事からだった。一部のBL勢や超有名アイドルファン、その他のアイドルファンが密かに知っている情報だが、この事実をセイバーロードは掴んでいない。
「私をガーディアンだと知っていると言う事は、お前達が何を相手にしているのか承知の上で―」
彼がパチンと指を鳴らすと、地面から複数のコンテナが出現、更には周辺ビルから複数のセイバーガジェットを装着したロボットが《唐突に》姿を見せる。
『既に囲まれていたとでもいうのか?』
『まさか、我々が襲撃する事も分かっていたとでもいうのか?』
『これがガーディアンの秘密とでもいうのか! 我々は信じない! 自分達だけがネット炎上をコントロールできると思っているようなお前達のやり方を!』
それぞれが違う断末魔を叫び、次々とセイバーガジェットによって撃破されていく。撃破と言っても致命傷ではなく、気絶と同じような部類である。ガーディアンが手加減をしている訳ではなく、これはセイバーロードにおける仕様の一種だ。
「残念だが、ガーディアンを滅ぼす事はお前達では不可能だ」
それだけを言い残して、クー・フー・リンは別の目的地へと移動を始めていた。
ガーディアン、一説にはセイバーロード以前から存在していた勢力とも言われている。色々な説が浮上しては、それが一斉に否定される状況は今も変わっていない。
【またガーディアンに歯向う組織が消えたか。間違いなく、彼らは学園都市群における英雄だな】
【ガーディアンに抵抗する事、それは神に逆らう事を意味している。ネット上で炎上するような発言を控えるべきなのは学園都市群ならば誰も知っているはずだ】
【あの組織はチートと言うような単語で片づけられるような存在ではない。彼らには手を出さない方がいいというのは常識のはず】
【歯向った組織が壊滅した理由は、ガーディアンの構成員を発見できなかった事だな】
【襲撃の途中でネットに写真をアップされたか、襲撃前日に作戦概要がネット上に拡散されたか―】
【どちらにしてもガーディアンは無視するに限る】
【彼らのおかげで、セイバーロードに無用な争いが起きないのだからな】
ネット上では、彼らを英雄としてたたえるような事はない。しかし、彼らを英雄と考える人物は少なからずとも存在するのは事実らしい。一方で、ガーディアンの強大な力を目撃した人物は《危険思想の持ち主》と考える者も少なくない。
【ガーディアンの存在、ネット上における大型掲示板のような物なのか?】
【それと似ているような気配がするが、別の言い方も出来るかもしれない】
【だが、それを書き込もうとすると単語そのものを消去されると聞く。例えば、《このコメントは省略されました》という感じに】
彼らを一番適切に説明している言葉、それをガーディアンに結び付けて発言しようとするとコメントが瞬時にして消去されてしまう。ネット検閲等とは違い、この現象は1分もしないで起こるらしい。
ガーディアンの真相を知る人物、それは下手をすれば一握り以下と言う気配もする。ガーディアンと言う名称は知っていても《この組織》と特定している者も半数以下と言う認識であるのも原因の一つだろうか?
「また彼らの仕業か」
本部の指令室で監視をしていたセイバーロードの運営スタッフも、ガーディアンの行動には手を焼いている状況だ。自分達が行おうとした事を代行してくれる事もあるのだが、大体は事態を混乱させるだけである事が多い。
「どちらにしても、便乗組織が既にいくつか出ている以上、放置する事は危険を意味している」
運営側も、彼らの危険度は認識しているようだ。下手をすれば、セイバーロードの運営に影響が出るのは明白である。
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同日午後3時、とあるラジオの音楽番組が放送される前の出来事。丁度、ガーディアンも密かに行動を起こそうとしていた辺りである。
『番組開始の前に速報が入りましたので、お伝えします。先ほど、秋葉原におけるアイドル自警団襲撃事件に関して、日本政府は犯人の追跡を行わないと発表しました』
この番組を聞こうとしてラジオを合わせた人物は当然だが、それ以外にも秋葉原が騒がしいとつぶやきサイト等で情報を流していたネットユーザーも驚くような対応である。
【襲撃犯が超有名アイドル絡みだから対応しないという事か。あえて、泳がせる的な意味で】
【今回の事件では怪我人が全く出ていないのも不思議だ。一体、どんな武装を使ったのか?】
【使用したのは武器ではないと思う。おそらくは、ARゲーム等で使うガジェットの類だろう】
【自警団の装備はスタンガンをはじめとして、かなり本格的な武装を持っていると聞く。どういう事だ?】
【分からない。現地の話によると、その様子を写真や動画に収めようとしたらジャミングされたという話が流れている】
【ジャミング? 写真を取ろうとしたらスマホの電源が切れたという報告もあるが】
【それを含めてのジャミングだろう。ARゲームでは、各種電波が健康被害を及ぼさないように電波をシャットアウトする機能があると聞くが、それを応用した物かもしれない】
ネット上のタイムラインを見て、ある疑問を抱いた人物が何人かいた。その内の一人は、草加市内にあるセイバーロードのアンテナショップでコーヒーを飲みながら情報の真意を確認している。
「なるほど。これが噂に聞くガーディアンとは別の勢力か」
身長170センチ、青の背広にネクタイなし、黒のセミロングヘア、若干の美形と言えばセイバーロードでは該当する人物が1人しかいない。西雲颯人、セイバーロードの運営スタッフでもある彼はネット上のつぶやき1つにも神経をとがらせている。
(運営としても、これを見過ごすわけにはいかないか)
西雲が発見した記事、それはセイバーロードにとっても避けては通れない事件に関する物だった。その予感は見事に的中し、ロードデュエルに参加するプレイヤーにとってもアイドル自警団襲撃事件を懸念し始めている。
同刻、秋葉原某所のゲームセンター地下、そこにはセイバーロード運営本部に劣らないようなガジェットコンテナの収納基地があった。
「また無茶な事を―」
身長176センチ、黒髪のツンツンヘア、若干長めのコートを着用した青年はエクスシアを心配していた。帰還したエクスシアはガジェットをすべて外し、インナースーツも脱いで私服に着替えている。着替えているというよりは瞬間転送でインナースーツを外したという表現が正しいか?
「あの時は非常事態だった。ガジェットの損傷も最低限に抑えている」
非常事態とはいえ、ガジェットの状態はロードファイト等で損傷するダメージとは比べ物にならない。特に、彼らのガジェットの場合は部品調達の都合上で中破でも修理に数週間かかるケースもある。
「エクスシア、お前はロストガジェットがどのような物か分かっているのか?」
「セイバーガジェット、ロードガジェット等とはシステムが同じでも構造が違う事位は分かっているつもりだ」
「ロストガジェットは他の既存ガジェットとはレベルが違う。その破壊力は地球さえも滅ぼせる規模、それが超有名アイドルの手におちたらどうなるかは―言わなくても分かるな」
「お前の説教には聞きあきた。プリンシパリティ、そこまで言うのならばお前が出撃するべきだ」
エクスシアの言う事にも一理ある。プリンシパリティと呼ばれた青年は足元に置かれているトランクボックスと思われる物の封印を解き、そこからスマートフォンと思われる物を取り出した。
「これを動かせばセイバーロードが黙っているはずがない。大型ロボット兵器とも受け取られるような物を、我々が持っている事を知られれば間違いなく口封じを仕掛けてくるはずだ」
しかし、スマートフォンの画面は《LOCK》という表示が出ているのみで、何かが動き出すような気配はない。どうやら、彼が非常事態の時以外は動かせないようにセキュリティを導入しているようだ。
「何故、封印を解かない。巨大ロボット兵器はセイバーロードでもごく少数が出回っているという情報がある。口封じに関しては問題がないと思うが」
「セイバーロードでも、大型ガジェットを発展させた超大型系列ガジェットの導入が進んでいる。それでも、この機体のスペックは異常過ぎるのだ」
「それは、チートを使いたくないという話と関係するのか?」
「そう受け取ってもらってもかまわない。超有名アイドルが舞台の演出さえも改変させる力を使うのであれば、こちらも封印を解く必要があるだろう。そう言った事例が起こる事はあって欲しくないが」
2人が話をしている内に、別のガジェットが修理完了したというメッセージがプリンシパリティのスマートフォンに表示、それによると《エクスシアの修理が完了しました》と言うメッセージのようだ。
「例のガジェットが修理完了したようだ。先ほどまで使用していたのは、こちらで直しておこう」
プリンシパリティの一言を聞き、エクスシアは先ほどまで使用していたガジェットを彼に渡す。そして、修理が完了したばかりの青色のガントレット型ガジェットをエクスシアは受け取る。
「感謝する」
エクスシアは一言だけ言い残して、部屋を出て行った。どうやら、何処かへと向かおうとしているらしい。その場所に関しては、プリンシパリティには把握できていた。
「どちらにしても、ガーディアンを放置する事は不可能になってきたか。彼らの規模は未だに謎が多い」
そして、プリンシパリティは、ネット上にアップされているレポートを眺めていた。しかし、このレポートに真実が書かれているとは限らない。
同刻、草加駅近辺のロードデュエルエリア付近。今回は平日ではなく土日・祝日のタイムスケジュールで動いている。アンテナショップも外国人観光客をはじめとして、大勢の聖地巡礼者が後を絶たない。
「戻ってきて正解だったようね」
秋雲ほむらが目撃した物、それはマナー違反と思われる観光客に対し、超有名アイドル勢が実力行使で対処しようとしていた構図である。どうやら、ロードデュエルを盗撮しようと考えていた男性がセイバーアーマーを装着した女性2人が―という風に見えるのだが、何かがおかしい。
「お前達が行っていた盗撮行為は運営でも禁止されています!」
「悪いが、セイバーロードの機密を外部に持ち出させる訳にはいかない!」
SFと言うよりはミリタリーを思わせる装備をしている女性2人、彼女達は超有名アイドルではないが関東地方では知名度の高いアイドルだ。彼女達は所属事務所が違うのだが、学園都市ではアイドルカテゴリーに扱われている。
『本物のセイバーロードに偽装し、超有名アイドルのステマを行うのは運営が厳重処分しているケースだと思うが』
2人の女性が観光客に襲いかかろうとしていた場面を止めたのは、何とバハムートだったのである。これを見た周囲は衝撃を隠せないようでもあった。
「まさか、バハムートか!?」
「偽者は多数存在するが、今度こそ本物か?」
「本物だとしたら、久々のバトルが見られる可能性もある」
バハムートが姿を見せるだけで、100人規模の群衆が押し寄せる。それ程、バハムートはセイバーロードではカリスマを維持しているランカーでもあった。
『超有名アイドル商法は排除すべき商法だ。それを、ここで証明してやる!』
何かのスイッチを切ったバハムート、そのARアーマーは別のアーマーへと変化していった。ガジェットの形状が現在活躍しているバハムートと違った事で、彼も偽者だと見破った人物は非常に少ない。
「あれは、先代バハムート。今のバハムートに名前を譲って、ロードデュエルから姿を消したはずでは―」
先代バハムート、それを知っていた男性は驚きを隠せないようでもあった。かつて、バハムートとして破竹の勢いでランキングを駆け上がったのだが、唐突に姿を消して現在のバハムートに名前を譲っていた。
『私を知っている人物がいるとは―。しかし、今のコードネームはドミニオンだ!』
そして、ドミニオンは両肩の大型シールドが変形した大型ランチャーで偽物のセイバーロードを機能停止まで追い込む。たった一撃で機能停止まで追い込んだ事に関しては、周囲も衝撃度合いが高すぎて言葉が出なかったのである。
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同日午後3時30分、CDチャートを紹介する番組では超有名アイドルの楽曲が流れている。ガーディアンとは言え、さすがにラジオ番組の放送内容へ介入する動きはない。
【過去には、とある団体がクレームを出した事で販売中止になった弁当があったな】
【そして、某有名ドラマの番組内容を変える事態を生み出した事件もあった】
【それらにもガーディアンが介入していると考えていたが、それは全てハズレらしい】
【弁当の件は、ガーディアンが公式に否定する記事を発表して話題になっていたから知っている。ドラマに関しては、超有名アイドルの息がかかった団体が抗議したとも言われているな】
【ガーディアンのような組織が、ああいう事件を起こしているのとばかり思っていたが】
【さすがに、それは違う。ガーディアンと例の組織を混同すると大変な事になる】
【抗議行動の影にガーディアン、悪意ある排除運動の影にもガーディアンと言われていた時期もあったな】
【ガーディアンと言っても、どのような組織か把握していない人物もいる。下手にガーディアンを語れば―】
つぶやきサイトのタイムラインも、話題としては相変わらずのテンプレしか流れていない。スマートフォンを片手に、この流れを見ていたのはセイバーロードの運営スタッフだった。
「これはスタッフへ拡散するべきか、それとも―」
最終的に、この男性スタッフは他の運営メンバーへ拡散はしなかった。下手にガーディアンの一件を運営に知らせる訳にはいかなかったからだ。
同刻、アンテナショップから同じ番組をチェックしていたのは、身長175センチ、黒髪のセミロングで、前髪が整っている女性だった。女性の方は、焼きそばパンを片手に持っている。
「噂には聞いていたけど、ここまでだったとは―」
「正直な事を言うと、日本そのものが超有名アイドルの思い通りに動く存在になったとも言える」
女性と話していたのは、黒髪のショートヘアと言う外見の男性である。そして、彼のテーブルには何故かカレーうどんが置かれている。そのカレーうどんは、何故か揚げ玉が多めに入っているのだが、周囲が突っ込む気配はない。
彼のガジェットはアンテナショップへの持ち込みが不可能の為か、途中のガジェット返却コンテナである場所へと移動している途中だ。何故、このような手段を取らなくてはいけない事に関しては―。
「貴方は超有名アイドルが日本のコンテンツ業界には不要と断言している。一体、どうやってその考えに辿り着いたの?」
「この考え自体は、過去の超有名アイドルに関係する事件をまとめたファイルに載っている物を、まとめただけにすぎない」
「そう言えば、貴方のガジェットは持ってきていないの? セイバーロードでは特別なケース以外ではガジェットの携帯は可能のはずよ」
「確かに、店内へのガジェット持ち込みに関しては特に禁止されていない。一部の例外を除いて―」
男性の言う例外は、特殊封印指定のガジェット、限定エリアでしか運用できない大型ガジェット、運営が使用制限を賭けているガジェットである。その言葉が意味する物、それに女性は気付いていた。
「まさか、あなたのガジェットは!?」
「その通りだ。自分が使用するガジェット、それはエクスカリバーだ」
エクスカリバー、それが彼の使用するガジェットの名前であり、彼のコードネームでもある。それを聞いた女性は、言葉が出ない位の衝撃を受けた。
(彼が、あのエクスカリバーなんて―到底信じられるものじゃない)
午後3時位から彼と談笑をしており、その時には音楽ゲームや音楽業界といった内容の話をしていた。そんな人物の正体が、実はエクスカリバーだったとは。
「君の正体も、既に把握している。先代からバハムートの名前を引き継いだ、本物のバハムート―」
そして、エクスカリバーは、自分の座っているスペースに置かれたカバンを取り出し、タブレット型パソコンを起動後に何かの動画を再生する。
「これは、まさか!?」
「見覚えがあるようだな。彼は今、ドミニオンと名乗って超有名アイドルに対して反旗を翻している」
「超有名アイドルに? 一体、どういう事なの」
「その目的は裏チャートであり、アカシックレコードの存在にヒントがあると言われている」
エクスカリバーの目的、それはバハムートから裏チャートの話を聞く事にあった。既にアカシックレコードに関しては情報を持っているが、裏チャートに関しては全く持っていない。
「裏チャート、超有名アイドルが独占しているCDチャートを表チャートと言うのに対し、マイナーアイドルや同人楽曲、音楽ゲーム楽曲にスポットを当てたのが裏チャート―」
「CDショップごとのチャートと裏チャートは違うのか?」
「超有名アイドルの影響を受けていないCDショップが、セイバーロード以外で存在すると思っているの? 彼女たちの資金力はチートと言われる位には恐ろしい物よ」
「芸能事務所とは言え、一定の利益が入れば色々な税金が引かれ―!」
エクスカリバーは途中で何かを思い出したかのように、言葉を止めた。アカシックレコードにも、超有名アイドルが優遇されるような世界は存在していたからだ。
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