襲撃された街
俺たちの街に向かって行く竜の後姿を見送りながら、俺の心に不安が芽生えた。
俺は慌てて走り始めた。目指すは修練場を超えた先にある林のさらに先。そこに行けば街が見渡せる。
林を抜けると、一段低い位置に道路が作られている。その道路から先が街になっていて、多くの民家が並んでいる。
俺がそこにたどり着いた時、街のあちこちから炎と黒煙が上がっていた。
竜は空の彼方を悠々と飛行し、街に炎撃弾をまき散らしている。
「くそぅ」
俺は怒りで、そう叫び、道路に飛び降りようとした。その瞬間、俺は腕を掴まれた。
「待ちなさい」
神山先生がそう言って、俺に一瞬だけ目を合わせ、真剣な表情で街の惨状に目を移した。
「あれは倒せない」
「じゃあ、俺たちの街が破壊されるのを見ていろって言うんですか?」
「私たちなら街の炎は消せる。君たちは戻っていなさい」
神山先生がそう言った時、背後から俺は肩をぽんぽんと叩かれた。振り返った先には校長がいた。校長は黙って頷いたと思ったら、街に向かって歩き始めた。
ゆっくりと、だがその歩調の見た目とはミスマッチな速さで移動していく。しかも、一段低い道路の上を浮いた状態で。
その後を追って、神山先生たちも街に向かって行った。次々に消される炎。俺は先生たちの活躍をじっと見つめていた。それだけしかできなかった。竜に破壊されていく街を見つめるだけ。燃え上がる炎を先生たちが消して行くのを見守るだけ。
結局、俺は何もできなかった。
竜は俺たちの国を破壊しながら、北に針路を取り、アカサカにも大打撃を与えて、イズモに帰って行ったらしかった。俺たちの国やアカサカに竜が攻め込んだのは、アカサカや俺たちの国がイズモに攻め込んだ事への復讐だったらしいが、攻め込んだ部隊は全て殲滅されていた。
そして、今、イズモから使者が訪れ、停戦交渉が行われている。交渉が決裂しない限り、戦闘は始まらないと言う事で国境警備から解放され、一時的にではあるが、俺たちは普段の生活に戻されることになった。
俺と希未ちゃんは家が近いため、二人で一緒に戦禍の残る街に入った。
木と土と紙でできた低層の建物が四角い区画毎に並ぶ俺たちの街。それぞれの区画は幅広の道路で隔てられている。火災が起きても、その区画から先に広がるのを防ぐ働きも持っている。
二人して辺りを見渡しながら歩く。被害にあった家は無い。この先にはきっと被害にあった家が出てくるはずだと分かってはいても、目の前の平穏な状況に自分たちの家を重ね合わせてしまう。
きっと、俺たちの家は無事なんだと。
いくらか歩いて行くと、道路の先に何かが散乱しているのが見えてきた。その周囲には人が多く集まっている。
「英治、英治」
「その柱をのけるんだ」
近づくにしたがって、人の声が聞き取れるようになってきた。あそこは被害にあっているんだ。そう思った時、希未ちゃんは走り出していた。希未ちゃんの走りに合わせて左右に揺れる髪。少し俺は見とれてしまったが、俺もすぐに後を追って、走り出した。
道路に散乱しているのは家の残骸。本来何軒もの家があったであろう場所に目を向けると、がれきの山になっていて、そこに何人もの人が集まって、壁や柱、そして屋根の残骸を取り除こうとしていた。
きっと、家族の誰かが残骸の下に埋もれているのだろう。
「そこをどいてください」
希未ちゃんの声がした。残骸をどけようとしていた人たちが、怪訝な表情で希未ちゃんに目を向けた。
「私はまだ学生ですが、ある程度の魔法は使えます」
希未ちゃんがしっかりとした口調でそう言うと、人々の顔に明るさが浮かんだ。




