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竜がやって来る!

 戦士が放った一撃必殺の剣すら弾き返す凄まじい威力に感嘆の声が上がった。


 「すげぇ」

 「剣でさえ、歯が立たないんだ」


 神山先生はそんな俺たちの前で、二度手をぱんぱんと叩いて言った。


 「さあ、練習よ。

 目の前に壁を作る事をイメージしながら、魔力を使うのよ」


 その言葉にみんな散らばり始め、思い思いの場所で練習を始めた。俺も練習を始めたが、俺の耳元をゆらりと風が過ぎて行き、目の前の光景がゆらりとする程度で、神山先生のような壁ができたとは思えない。本来壁ができているであろう俺の目の前の空間に手を差し伸べると、何か違和感がありはするが、するすると手は突き抜けて行った。


 「どうかな?」


 神山先生が生徒たちの間を縫って、魔法の出来を確かめている。そして、これはと思った生徒には、さっき神山先生がやったと同じように、わら人形の前に壁を作らせ、戦士の剣でその硬度を確かめて行っていた。そんな生徒たちの何人かは弾き返すには及ばなかったものの、わらに剣が到達するのを防ぐ程度の力を発揮して見せた。


 「はぁい。では、もう一度集まって」


 先生の声に俺たちは再び整列した。戦士の剣を防ぐことに成功した生徒たちの顔には満足感や昂揚感が浮かんでいて、うまくいかなかった生徒たちには少し疲れた表情が浮かんでいるように見えた。


 「うまくいった人も、いかなかった人も、練習に練習よ。

 そして、まだ早いけど、一つ見せておくわね」


 神山先生はそう言って、背伸びと首を伸ばして、遠くに目をやりながら、手招きをした。その先にいたのは先輩の北野真吾さんだった。背筋をぴんと伸ばしていると、高い身長がよけいに高く見える。引き締まった細い顔つきで、俺たちの方にゆっくりと歩き始めた。この人も抜群の能力を持っているのだが、山田なんかとは違い、人格者だ。

 神山先生が一つのわら人形を差すと、北野先輩がそこに向かって行った。北野先輩はわら人形の背後に立ちと、呪文をとなえた。


 「風集壁」


 その瞬間、俺たちの横を勢いよく風が流れて行くのを感じた。神山先生の時に感じた勢いに匹敵する。そして北野先輩の前の景色も神山先生の時と同じように歪んで見えている。空気がかなり圧縮されて、北野先輩の前に凝集されているんだろう。


 「やって」


 神山先生の言葉に戦士は剣を振り上げ、勢いよく北野先輩の前にあるわら人形に切りつけた。北野先輩が造り上げた壁も、神山先生の壁と同じように、戦士の剣を弾き返した。


 「おぉ」


 先輩の技に感嘆の声が上がった。


 「これを見せるためじゃないのよ」


 神山先生はそう言うと、戦士の横に歩み寄って、剣に手を差し出した。戦士は頷きながら、その剣を神山先生に渡した。


 「風制散」


 神山先生が剣を天に向けながら、そう言った。陽光を反射する輝き以上のまばゆさで、一瞬剣が輝いたかと思うと、神山先生の髪の毛が勢いよくなびき始めた。

 魔法剣。

 俺はその意味が分かった。戦士でさえ、貫けなかった空気の壁。それを切り裂くのは魔法剣である。それを教えようと言うのだろう。

 神山先生の剣が勢いよく振り下ろされた。その瞬間、巨大な風の流れに、俺は目を開けていられず、目を細めながら、右腕で顔を覆った。その風の勢いはすさまじく、俺の体は数歩後退した。風の流れが静まった時、北野先輩の前にあったわら人形は真っ二つに両断され、その上半分が地上に転がっていた。そして、北野先輩は風圧で吹き飛ばされたのか、少し離れた場所でしりもちをついて、地面に座っていた。


 「協力、ありがとう」


 神山先生が北野先輩に言った。北野先輩は風圧が予想以上だったのか、驚いた顔つきだったが、神山先生の言葉に表情を元に戻して、にこりとしながら、立ち上がった。

 神山先生が振り返って、俺たちに視線を向けた。


 「これはまだ君たちに教えはしないけど、どんな強力な魔法にも防ぐ手立てがある。その事は覚えておいてね。

 では、休憩」

 「ありがとうございました」


 俺たちはそう言って、頭を下げた。頭を上げたみんなは散り始めた。俺はどこかで休もうか、それとも希未ちゃんのところに行こうかと迷っていた。きっと、そこにはあの山田がいるだろうし。


 「風集壁」

 「風集壁」


 俺の耳に、そんな声が届いてきた。見渡すと、休憩時間だと言うのに、みんな真剣な表情で、練習している。

 身近に迫る戦争の足音。

 自らを守るための力。大好きな人を守るための力。大好きな街を守るための力。

 今、自分が力を身に着ける事は大事な事である。

 俺はちょっと自分が恥ずかしかった。所詮、自分は戦力外。自分の身を守るのも、大好きな人を守るのも、大好きな街を守るのも、他人任せにする気だった。

 俺も男である。自分の大切なものくらい、自分で守れなくてどうするのか。

 俺は意識を集中した。


 「風集壁」


 俺の体を揺らす風が起きた。俺の目の前の風景に歪みができた。

 おおっ。思わず、俺は心の中で叫んだ。

 その瞬間、俺の前に剣を携えた神山先生が現れた。次の瞬間、神山先生はその剣を突き刺すかのように、俺に向けて突き出してきた。

 その恐ろしさに、一瞬俺は目を閉じた。次の瞬間、俺は左頬に冷たい物を感じ、目を開けて、左頬のあたりに視線を向けた。


 「ひっ」


 俺の頬には神山先生が突き出した剣が触れていた。顔をひきつらせながら、思わず後ずさりをした。


 「さっきより、できていたわよ。

 その調子」


 神山先生が剣を戻し、にこりとしながら、俺に言った。


 「そ、そ、そうですか」


 にこりとしたまま神山先生は俺に背を向けた。


 「待ってください」


 神山先生は俺の言葉に立ち止まって、振り返った。


 「何かな?」

 「どうすれば、先生みたいに強くなれるんですか?」

 「私、そんな強い?」


 俺は頷いて見せた。


 「それぞれの魔法の力の源は神の力。神の力を直接使えるようになると、最大の力を使えるようになるのよ」

 「じゃあ、先生は風神とかの力を直接使ってるんですか?」


 神山先生はにこりとして、首を横に振った。


 「そんな事は誰にでもできる事じゃないのよ。

 私も風神と接触はできたわ。だから、風の力は他の力より強力なんだけど、神の力を手に入れる事はできなかったわ」

 そうなんだ。神山先生をもってしても、神の力を使えるようにならなかった。でも、それでもあれだけ強力な力が使える。いい事と悪い事の両方を知った気がした。


 「そんな事ができるのはあなたくらいかもね」


 神山先生が俺の両肩に両手を置いて、顔を近づけながら、小さな声で言った。


 「はい?」


 俺には意味が分からない。

 冷やかしなのか?からかっているのか?

 しかし、山田ならともかく、神山先生がそんな悪意の言葉を言う訳がない。だとしたら、俺のMQ291に期待してのことだろうか。

 反応できずに固まっていると、神山先生は再びにこりとして、俺の肩をぽんぽんと叩いて、離れて行った。

 そんな時だった。警備に就いていたと思われる甲冑姿の戦士が、がちゃがちゃとうるさい金属音を立てながら、やって来るのが見えた。みんなの意識がそちらに向かった。

 慌てている。そうとしか思えないその姿に、神山先生が小走りに向かって行った。


 「どうしたんですか?」

 「大変だ。竜が、竜がこちらに向かってきている」


 その言葉は俺の心を凍りつかせた。いや、俺だけではない。みんなそうみたいだ。みんな驚きの表情で、固まってしまっている。

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