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取り戻した平和

 降り注ぐ氷の破片に熱湯は俺や神山先生にもダメージを与えていく。

 激突する氷の塊。俺の頭を襲った氷の塊が、頭の皮膚を切り裂いた。

 額のあたりから、真っ赤な血が伝い始めた。

 服で覆われた部分にも、容赦なく氷の塊が襲い、打撲と言うダメージを与え行く。服の下に隠されてはいるが、俺の身体のあちこちで内出血が起きているはずだ。

 飛び散った熱湯も容赦してくれない。


 「痛い!」

 「熱い!」


 突然の出来事に、俺や神山先生が思わず声を上げた。

 そんな中、竜は羽ばたき始め、水蒸気の靄を吹き飛ばし始めた。

 額を伝う血で顔の一部を赤く染め、怪我のダメージは軽くは無いが、戦えない訳ではない。

 竜と戦うべく、俺は視線を竜に戻した。

 一瞬、ねじ曲がった首は元のとおり、すらりと直線を描いていたが、その口からは白煙のようなものを吐き出していた。

 新たな攻撃か?

 俺がそう思った時、一度空中に飛び立った竜は再び地上を目指して下降を始めていた。

 その先に目を向けると、竜騎士が立っていた。

 竜騎士を迎えに行くのか?

 竜騎士が無事と言う事は、校長は?

 そう思った俺は竜騎士の周囲に目を向けた。

 氷の破片が散らばる中、校長は膝をついて右腕を左手で押えていた。

 俺はその意味するところに気付いた。

 竜が破った氷の檻。それが破壊される時に飛び散った破片は空中にいた俺たちだけでなく、地上にいた校長たちにも襲い掛かったんだ。

 それも、防ぐ余裕も無いほど、突然に。

 慌てて、希未ちゃんがいたであろう場所に目を向けた。

氷の破片が散らばり、水浸しの地面にうつぶせになって倒れている希未ちゃんが目に入った。

 地面に広がる希未ちゃんの髪。その周囲の濡れた地面に広がる水には似つかわしくない赤い色。


 「希未ちゃんが」


 俺の言葉に神山先生は竜を追う事を諦め、地上を目指した。

 地上が近づくと、俺は神山先生の腕を振り払って、地上に飛び降りた。


 「希未ちゃん」


 俺はうつ伏せに倒れている希未ちゃんの体の向きを変えて、抱き起した。

返事はない。

 地面に触れていた顔の右側は真っ赤に染まっている。

 守ると言ったのに、守れなかった。


 「竜が……」


 一瞬、そんな神山先生の声が聞こえたが、俺の思考はそんな事に反応できる余裕は無かった。自分の母親の姿と希未ちゃんの姿が重なってしまう。

 結局、俺は自分の大切な人を守る事もできないのだ。

 俺の頬を涙が伝う。


 「東山君、何をしているのよ。

 どきなさい」


 そう言って、神山先生が希未ちゃんの手首に自分の親指を当てて、頬を希未ちゃんの鼻のあたりに近づけた。


 「すぐに手当てをしないと」


 そう言った神山先生の表情には緊迫感が漂っている。それだけ、希未ちゃんの具合はよくないんだろう。


 「うぉー」


 俺は雄たけびを上げて、空を睨んだ。

 まぶしい青空だけがそこにあった。そんな青空に向かって飛び立つ神山先生の姿が、目に入った。その両腕には希未ちゃんが抱かれていた。


 「俺は?」


 慌てて辺りを見渡してみた。疲れた表情の校長が俺の近くに立っていた。


 「君は私が連れて行こう」


 校長が俺の手を取って、飛び上がった。

 元々がれきだらけの場所だったところに、いくつものがれきのない場所が見て取れる。

 風撃渦で瓦礫が巻き上げられ、地面の表面がのぞく更地。

 風撃孔が瓦礫を吹き飛ばし、地面の表面がのぞく直線状の更地。

 そして、水浸しの地面。そこに陽光を反射して輝く氷の破片。

 俺たちが戦っていた場所が見る見る小さくなって行った。

 俺はそこでようやく正常な判断が行える余裕を取り戻した。


 「竜は?」


 俺は慌てて辺りを見渡した。

 空の彼方にその竜の姿を確認した。どうした事なのか、竜から灰色のくすんだ煙が噴き出ている。きっと、口から吐いているんだろう。だが、その目的は何なんだ? そう思っていると、校長が、俺が希未ちゃんの事でいっぱいっぱいになっていた間の出来事を教えてくれた。


 「竜騎士と私の戦いは決着がつきかけていた。あと一押し、そこまで追い込んでいたのだが、そこにあの氷の檻が破裂した。

 その隙に、竜は竜騎士のところまで下降し、竜騎士をその背中に迎え、飛び去ったんだよ」

 「イズモから離れていますね。もう海上あたりですよね。

 退却と考えていいのでしょうか?」

 「断言はできないが、そう考えるのが妥当だろう」

 「とすると、竜騎士たちは自分たちの国に帰ろうとしている?

 彼らはどこから来たんでしょうか?」

 「分からん」


 そう校長が言った時だった。

 背中を向けて、はるか彼方を飛行していた竜が大爆発した。

 一瞬の内に広がった真っ赤な炎。

 それはすぐに白色の煙と黒色の煙となって、大きく広がった。

 そんな煙の先で、竜の肉片と思われる物が散り散りになって、飛び散っている。

 俺は目を見開いて、その光景を見つめていた。


 「竜が爆発?」


 校長が怪訝な声を上げた。


 「竜の死に方って、あんなものなんでしょうか?」


 体内に蓄えられた強力な魔法の力。その源が最期を迎えると、全ての力を外部に放出するため、竜の体を粉々に吹き飛ばすのだろうか?


 「うーん」


 校長も答えを持っていないようだ。そりゃ、そうだ。竜と言う生き物さえ、今まで見た事が無かったのだから。

 俺と校長は神山先生の後を追いながらも、煙が広がった場所に目を向けていた。

 自然の風と摂理が煙を瞬く間に拡散して行った。煙が消えた先には竜の姿はなく、ただただ青い空と白い雲が広がっていた。


 「とにかく、竜を倒した事だけは確かなようだ」


 校長が言った。俺もそう信じたかった。

 そして、俺があと祈るは希未ちゃんの無事だけである。




 少し高い木の台の上に敷かれた布団の上で、眠る希未ちゃん。頭部全体に巻かれた包帯が痛々しい。とりあえず一命は取り留めたが、あの日からまだ希未ちゃんは目を覚ましていない。俺はその横で椅子に座って、希未ちゃんを見つめていた。

 時々、俺は包帯を巻かれた自分の右腕を伸ばして、眠る希未ちゃんの頬に手を当ててみる。温かい。俺はこの温もりを失う訳にはいかない。

 どんなに強大な力を手に入れたとしても、やっぱり一人で大事なもの全てを守る事はできそうもない。人と人の信頼。つながり。協力。それらを無くして、大切なものは守れない。そんな気がする。

 一人一人は弱いが、つながる事で強くなるのが人と言うものなんじゃないだろうか。

 希未ちゃんのまぶたが少し動いた気がした。

 慌てて立ち上がろうとした俺は、椅子を倒してしまった。静かだった部屋に大きな音が響いた。

 天上に向いていた希未ちゃんの顔が少し横を向いた。俺が立ててしまった音に反応したらしい。


 「希未ちゃん」


 俺の呼びかけに応えるかのように、希未ちゃんのまぶたがゆっくりと開いた。


 「まーくん?」


 希未ちゃんは今の状況が分かっていないらしい。一度俺に向けた視線を、すぐにそらして、辺りをスキャンするかのように移動している。


 「ここは?

 そっか。私、イズモで竜と戦っていた時に」

 「ごめん。俺、守ってやれなくて」

 「ううん。私ったら、守ってもらおうなんて思っていないとか言っておきながら、結局は足手まといになっちゃったみたいね」

 「足でまといなんかじゃなかったよ。みんなが力を合わせたから、竜に勝てたんだよ」

 「勝ったの? あの竜に」


 希未ちゃんの顔に生気が甦った気がする。それだけ大きなエネルギーを与える言葉だったんだろう。


 「ああ」

 「すごい! まーくん」


 そう言った希未ちゃんの瞳は潤んでいた。



 結局、竜騎士と竜を打ち破った事で、俺たちの世界は平和を取り戻すことができた。イズモは元の王家が復権を果たし、アカサカには王家の血筋の者が新たな王家を開いた。

 三国は再び元の関係に戻り、互いの戦争は終結したが、その国力には大きな差が生じていた。

 まず、はじめに。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 すっきりしない終わり方と思われたかも知れません。

 実はこの話は三部作の構想の第一部です。

 竜の正体、謎の魔具の正体。全ては第二部以降で明らかになります。

 しばらく先になりそうですけど、第二部もよろしくお願いします。

 

 感想なんかお聞かせいただければ、うれしいです。


 どうも最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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