竜への一撃!
俺の渾身の一撃を浴びながらも、平然としている竜。
俺の風撃が消え去れば、きっとそのまま顔を俺たちに向け、攻撃してくるに違いない。
その時、俺の脳の中の一部が一瞬遅れて、何かに反応した。
今、何かがひっかかった。
希未ちゃんの言葉の中の一言だ。
「瞬き?」
目は鱗に覆われていない。竜の鱗が信じられない硬さだとするなら、それ以外を狙えばいいんだ。
大きく開いた口。そこから、脳を撃ちぬけないだろうか?
「氷撃牢」
竜の体の周りに空気中の水分が引き寄せられ、瞬く間に氷結して行く。
並みの魔法使いではできやしない事だが、俺なら可能だ。巨体の竜を頭の部分だけを残して、氷の檻の中に閉じ込めた。
竜騎士と同じで、きっと閉じ込めてもすぐに氷を溶かして出てくるはずだ。
下からでは竜の口は狙えない。
「希未ちゃん。俺を竜の顔の正面に運んでくれ」
「待ちなさい。そんな危ない真似、私の生徒にさせる訳にはいかないわ」
「しかし」
神山先生に反論をしようとした時、神山先生は俺の手を掴んで、飛び立った。
「ぐずぐずできないみたいよ」
神山先生がそう言った時、氷の檻の中の竜の体付近の氷が泡立ち始めているのに気が付いた。まじで、時間は限られているらしい。
「氷撃渦」
希未ちゃんの声が聞こえた。竜の体の周囲に氷の粒が舞い始めた。
俺が造った氷の檻の上からさらに、氷を重ねている。
その最深部は溶け始めているが、外層部には新たな氷の層が積み重なって行っている。竜が氷の檻を脱出するのに要する時間を引き延ばせるはずだ。
俺と神山先生は竜の目の近くに到達した。
竜の正面を目指して、移動すると、竜の目が俺たちを追って、ぎょろりと動いた。
「氷撃槍」
まぶたを閉じられれば、無駄な攻撃になると分かっていたが、とりあえず俺は竜の目に向けて、攻撃を放ってみた。
何かが割れるような少し甲高い音を立てて、竜の目に俺の放った氷の槍が突き刺さった。
「まじかよ?」
「やるわね」
神山先生の声は高揚しているが、俺は不思議な気分だ。まぶたを閉じると思っていたのだが、全く閉じなかった。今も、まぶたを閉じる気配すらない。
そして、その目からは真っ赤な血が流れてもいない。
「もうすぐ、正面よ」
神山先生の言葉に、俺は現実に引き戻された。とにかくだ。竜の鱗の無い部分は物理的に攻撃でダメージを受けるらしい。
竜は俺たちを攻撃しようと、口を大きく開き、その向きを俺たちに合わせ始めた。
氷撃。一瞬、そう考えたが、すぐに消えた。竜が炎撃を放つなら、相殺されてしまう。竜が炎を吐き出したとしても、押し返せる攻撃。
「風撃孔」
これしかない。俺は再び、渾身の一撃を放った。
鋭く、そして硬い圧縮された空気の先端はもはや気体ではない。
竜の開いた口に向かって、渦を巻き、周囲の空気をかき集めながら進んで行く。
竜の開いた口に並ぶ、鋭い牙。
俺の放った風撃孔がその牙を打ち砕いた。
無残にも飛び散る竜の白い歯。
そして、そのまま竜の喉の奥深くに突き刺さった。
その衝撃で竜の首はねじ曲がり、つい今まで俺たちに向いていた竜の口は天に向けられた。
風撃孔は竜の口の中ではなく、硬い、硬いうろこで覆われた竜の首に激突している。しかし、うろこの一枚も剥がれそうにない。
竜にダメージを与えられたのかどうか分からない。こうなっては、空に向かって開いている竜の口にもう一度、攻撃をするしかない。
「神山先生」
その言葉だけで、神山先生は俺の考えを読み取ってくれた。頷くと、竜の口を狙える場所を目指して、上昇を始めた。
そんな時だった。
竜の氷撃を破る力と希未ちゃんの氷撃を守ろうとする力の差に決着がついた。
不意に大きな音を立てて氷の檻の破片が飛び散り、内部に蓄えられていた水が辺りに飛び散った。
水。そう思っていたのは考えが甘かった。氷を融かしているんだ。竜の体の周囲のそれは水ではなく熱湯だったようだ。
様々な温度の水滴と氷の破片が辺りに降り注ぎ、水蒸気の白い靄が薄らとあたりの景色を薄めている。




