イズモ侵攻へ
「何の話ですか?」
仲間外れ気分の俺は、ちょっと不満げな口調と口元で、二人の会話に割って入った。よく考えれば、王にあんな事をしてしまった俺は、今そんな態度をとっていい身分なんかじゃないのに。
「敵兵は戦士ばかりだ。勝てる訳はないのに、この場所に集結して攻めてきている。
しかも、多くの戦力を失っても撤退しようとはしない。捕えた敵兵の話では王家の者たちが、人質にとられているらしい」
「俺たちをここに縛り付けておく必要がある。そのための、陽動作戦、囮ですか?
敵の本体は別の場所にいると言う事ですか?」
分かったぞ。俺はそんな気分で、ちょっと興奮気味に言った。
「イズモにはそれほどの戦力は残っていないはずよ。精鋭は竜騎士との戦いで壊滅させられているわ」
「じゃあ、俺たちをここに集めて、一気に殲滅しようとしているのでは?」
俺の言葉にはそれなりの説得力があったようだ。校長と神山先生が顔を見合わせて、頷きあっている。
「だとしたら、襲ってくるのは竜?」
「そこまでは分からないが、その可能性は大だな。
だが、竜騎士と言う可能性もありかも知れんな」
校長の竜騎士と言う言葉に、雷撃にも氷撃にも無傷な竜騎士の姿が脳裏に浮かんだ。アカサカの謎の魔具を纏った兵たちとダブルその姿。俺はイズモがすでにアカサカの手に落ちている可能性を考えていたが、そうではなかった。だが、逆と言う可能性はないのか。アカサカの王家はすでにイズモに屈服していた。
だとしたら、全く情報を得られなかったアカサカからの神の矢の攻撃、あれはイズモが行っていたと言えないか。ここを竜ではなく、神の矢が襲う。
「校長先生、神山先生。
神の矢。その可能性は無いですか?」
俺の言葉に校長は一瞬目を見開いた後、目を閉じてうなった。
「全ての敵は竜騎士だったと言う事か」
俺も神山先生も黙って、校長を見つめている。静かに俺たち三人の時が流れた。
「ここを突破して、イズモの王宮に攻め込みませんか?
ここに集結している兵力を見ていると、王宮には竜と竜騎士以外の戦力は、ほとんど残っていないのではないでしょうか?」
「一気にケリをつけるつもりか?
だが、勝てるのか? あの竜と竜騎士に」
校長の顔には戸惑いが浮かんでいた。校長は俺の自信を確認するかのように、俺をじっと見つめている。俺だって、自信はない。だが、イズモの精鋭たちが倒せなかった竜騎士なら、俺は倒せる気がする。あのアカサカの謎の兵たちを倒したように。
「ですが、いつかは戦うんですよね?
でしたら、今、敵の国土で大暴れしておくのもいいのではないでしょうか?」
そう言った神山先生の顔はきりりと引き締まっている。校長の視線が俺から神山先生に移った。強いまなざしで、じっとその校長を見つめている。女の人だと言うのに、かっこよすぎるじゃないか。
「自信がある訳じゃありません。ですが、やるしかないのではないでしょうか」
俺も表情をきりりと引き締めて、迫力を込めた口調で言った。校長の視線が俺に戻ってきた。
「分かった。では、イズモの王宮に向かおう」
俺たち三人に、この国の運命がかかっている。そう思うと、少しヒーローの気分じゃないか。両拳を握りしめ、よっしゃあ的に一度体の中ほどまで上げてから、勢いよく振り下ろした。
見下ろした先に広がる光景は敵兵との衝突が収束していた。殺戮。それを避けようとした俺たちの中の誰かが、敵兵全てを空気の壁の中に閉じ込めたようだ。敵兵は成す術を見つけられず、ただただ人の団子状態になっていた。
「東山君はここで待っていたまえ」
数歩先を行っていた校長が振り返って、俺にそう言った。これから、この場所を離脱し、イズモに攻め込む事を話してくるのだろう。
「はい。承知しました」
元気よく言って、俺は立ち止まった。神山先生は一度振り返ると、俺に軽く手を振った。
「報告は終わったの?」
そんな俺の所に、希未ちゃんがやって来て、俺の背中をつんつんしながら言った。そんな希未ちゃんに俺は今までの話を全てした。王に対してとんでもない事をしでかしたところでは、驚きと俺の身に何かが起きるのではと少し狼狽してくれた。そんな反応が俺はうれしい。
そして、これからイズモに攻め込む話をしたら、「私も行く」と言ってくれた。さて、どうしたものか?
ここにいても、危ないかも知れない。
イズモに行っても危ない。
どうせ危ないなら、俺たちと一緒の方がいいかも知れない。
「先生たちがいいと言えば」
いくら、俺が考えてみたところで、俺には決定権などあるはずはない。そう答えて、判断は決定権のある先生たちに委ねることにした。




