闇に輝く謎の光
真っ黒な世界。何の音も聞こえてきやしない。生命が活動している気配は全く感じられない。これが異空間なのか。
「おーい」
大声で叫んでみた。遮蔽物も近くにはないようで、こだまする事もなく、俺の声は闇に吸い込まれて消えて行った。反対方向にも向いて、叫んでみた。が、やはり何の反応も無い。
いや、真っ黒な空間の中では、自分の位置さえ、よく分からなくなってきた。本当に反対に向いたのか?
「炎撃牢」
俺の前に巨大な炎が立ち上った。闇を照らし出す炎。その炎の明かりさえ吸収してしまうほどの闇がそこにはあった。何もない空間。そうとしか言えない場所だった。
困った。俺はこの空間で、朽ち果てて行くのか?
そう思った時、はるか彼方に小さな白い点が現れた。目を凝らして見てみる。だんだん近づいてきているのか、大きくなってきている気がした。白く感じた光も、次第に黄色みを帯びてきた。
近寄るか、逃げるか。俺は迷った。
それが生命体だとして、俺には向こうの姿が見えているが、向こうには俺の姿は見えていないはずである。この闇の空間、俺は場所を移動し、闇にまぎれて、近づいてくる物の正体を確かめる事にした。
大きくなってくる光。
何だ? 目を凝らす。
俺がそれの正体を確認する前に、俺の視界が一気に明るくなった。
まぶしい。俺が腕で目を覆って、目を慣らす。
「大丈夫だった?」
聞きなれた神山先生の声だ。辺りに目を向ける。
さっきまでいた謁見の間である。神官が白い服を血で真っ赤に染めて、横たわっている。そして、多くの者たちがやはり倒れていて、部屋の片隅で王が震えていた。
「これは?
神山先生が助けてくれたんですか?」
「大事な教え子だもんね」
神山先生が俺の横で、にこりとした。
「ありがとうございます」
そう言って、頭を下げた時、魔法陣が描かれていた床の一部がえぐり取られ、魔法陣が消滅している事に気が付いた。俺が束縛の陣を破ったのと同じ方法だ。
「さてと。陛下。どうされますか?」
神山先生が王に厳しい視線を向けて言った。さっき、俺に向けたのは全く違う表情だ。
「ま、ま、待ってくれ。
余が悪かった。謝る。謝礼として、何でも渡そう。お金か、いや領土か?」
その声は震えていて、顔色も真っ青である。さっきまでの尊大な態度は消し飛び、右腕を差出して、立てた手のひらで、俺たちが近寄るのを防ごうとするかのような仕草をしながら、体も震えていた。
「どうするの?」
「えっ? 俺ですか?」
「だって、あなたが命を狙われて、封印までされたんだから、私じゃなくて、あなたがこいつをどうするかなんじゃない?」
神山先生も怒っているのか、王をこいつと言っちゃった。それには俺の方が焦ってしまった。
「いや、もう、こいつ殺す価値ないし」
「そう。じゃあ、そうしよっか」
俺たちの言葉にホッとした表情をして、床にへなへなと座り込んだ。
「でもね」
神山先生がきつい口調で、そう言って、王に近づいていく。王が再び目を見開いて、震えはじめた。
「私たちに手を出そうとしたら、今度こそ、その命、もらいますからね」
王は言葉も発することができないのか、ただただ震えながら、何度も何度も頷いている。
「あ、それと。これはあなたには危ないおもちゃだから、預かっておくわ」
神山先生が王が左手に握りしめていた神の門の鍵を掴んだ。王は震えながらも、左手を引き、神山先生に抵抗した。むっとした表情で、神山先生が力を込めて、神の門の鍵を引っ張った。
王の腕がぴんと伸びた。
だが、王の権力への執着心からか、その手を離す気配はなく、首を激しく横に振っている。
「その腕、風撃で切りましょうか?」
こんな権力欲の塊のような奴に持たせていてはよくない。そう俺も思ったので、威嚇した。もちろん、ここでやっちゃうと言うのも、無い訳ではない。これだけ王宮で暴れたのだ。謀反人扱いされる可能性は高い。王をやっちゃっても、同じかも知れない。
その言葉に王は観念したのか、その手を離した。
「ありがとう。
あなたと違って、これで世界を自分のものにしようとは考えていないから、安心して。
それと、あなたも私たちに手を出さないかぎり、あなたは王で居続けられる。どうするかは自分でよく考えてね。
じゃあ」
そう言って、神山先生は王に背中を向け、俺のところに戻ってきた。
「戻るわよ。いつイズモが攻めてくるか分からないからね」
俺は頷いて、神山先生のあとを追った。




