迫る戦乱の予感
「イズモの最強の精鋭部隊は首都を警護していたが、他にも精鋭部隊はいた。つまり、我が国やアカサカとの国境を警備していた部隊だ。これらは王宮を奪還すべく、国境を離れ王宮に向かい始めている。
その後を追うようにアカサカの精鋭部隊がイズモに侵攻を始めた」
「まじかよ」
「戦争が始まるの?」
かつて、この大陸には多くの国家が存在していた。各国家を支配していた王家はこの大陸の統一を夢見ては戦を繰り返していた。
戦は土地を荒らし、国民を疲弊させていった。人々は生活の糧を失い、死と隣り合わせの生活に追い込まれ、人々を絶望感が覆い尽くした。
渇望された英雄。
それは現実となり、圧倒的な魔法力を持った英雄が現れた。その力の前に次々に王家は滅ぼされ、この大陸は英雄と、彼に従った3人の手によって統一された。英雄はやがてその肉体が滅ぶ時、己が力を神の門の向こうに封印し、その力の管理をその3人に任せた。それが今の3つの王家であり、それ以来、ほぼ100年の間、この大陸では戦争は起きていない。
それが俺たちが習ったこの国の歴史である。戦争なんてものは俺たちはもちろん、今の大人でさえ経験した事の無い事態である。その戦争の危機が目の前に迫っている。
話にだけ聞く残虐な戦争。未知なものに、人は不安を抱かずにいられない。
生徒たちの顔色は青くなっている。平和が続くものと思っていた俺も、突然目の前に突き付けられた戦争と言う事態の可能性に、どうしていいのかさえ分かっちゃいない。
「アカサカはイズモに対し、王宮奪還に協力するために派兵すると言っているらしいが、イズモを乗っ取り、神の門を手に入れるのが、真の目的であろうと思われる」
神の門の鍵の一つを持つアカサカが、神の門を手に入れるだけではなく、イズモは併呑されることになる。アカサカとイズモが合わさった新アカサカの国力はカマクラの倍以上となり、この大陸の秩序を揺るがしかねない。
「よって、我が国もイズモに出兵することとなった」
校長がそこまで言って、俺たち生徒の反応を見ようとゆっくりと見渡しはじめた。
強張った表情で生唾を飲み、覚悟を決めた者。額から汗を拭きだし、小さく震えている者。
話の展開からして予想してはいたが、実際にその言葉を聞くと、俺の頭の中は真っ白になった。俺たち魔法が使える者は、戦争の強力な戦力である。俺たちの国が戦争に突入するなら、俺たちが戦場に赴く事になるのは必然である。
「すでにイズモとの国境警護に当たっていた我が国の部隊はイズモに進駐し始めている。君たちには、空白となった国境の警備についてもらう」
校長ははっきりと講堂の中に響き渡るほどの大きな声で言った。
「おぉー」
講堂の中は大きなどよめきに満たされた。
俺は少し安堵した。イズモは今、俺たちの国に攻め込んでくる余裕はない。と言う事は、俺たちが向かう事になるイズモとの国境で、イズモと戦闘になる可能性はほぼ0のはずだ。とすれば、攻められることも、逆に攻めて相手を殺すこともない。
そう信じようと、俺は両手の拳を握りしめながら、大きく頷いた。




