敵地侵攻!
俺が今足を踏み入りた土地は敵地。今から滅ぼすべき敵、アカサカの土地である。
ここまで来たからには、引き返せない。やってやろうじゃないか。
俺の心が高ぶってくる。
そんな気分だけで、俺は無防備に敵地に足を踏み入れた訳ではない。
全精神を周囲に向けていた。
国境を警備していたアカサカの兵士と思われる者たちが、集まり始めている。
揺れる敵のたいまつの炎が時折映し出すその姿。装備は普通の鎧のようだ。
それは俺に殺してくれと言っているようなものじゃないか。
面白すぎる。
「雷撃嵐」
夜の暗闇を切り裂く雷光。
瞬間的なまばゆい光が、敵の姿を離散的に映し出す。
雷撃一発で、直撃を受けた者だけでなく、その周囲の者をも葬って行く。
立ち上がったままの者はいないようだ。
どうやら、今ここにはあの魔具を装備した者はいないらしい。
ざまあみろ。
俺の母親の敵、俺の街の敵、俺の国の敵。
この俺様の母親の命を奪った事を、あの世で悔い改めるがいい。
俺の心の中に、ささやかな快感が芽生え始めた。
止まる事を知らぬ雷光が、天の懲罰を敵兵に与えて行く。
その雷撃が覆う範囲は俺の視界をはるかに超えている。
この国の国境に張り付いていた敵の多くが死に絶えているに違いない。
「くっ、くっ、くっ、くっ」
天の怒りに一瞬の内にして、身を焦がし死に絶えて行く大勢の敵の姿を思い浮かべると、俺の中で悲しみから遷移した怒りが快感に昇華した。
俺の背後で、俺の国の戦士たちが、俺の力に感嘆の声を上げているようだが、雷鳴にかき消されて、うまく聞き取れない。
「行くぞ」
俺は振り返って、味方の戦士たちに叫んだ。
「おー」
戦士たちが剣を勢いよく天にかざして、喊声を上げた。
俺の初撃の戦果を目の当たりにした、戦士たちは勝利を確信しているようだ。
その意気はただの国を守り、攻めてきた敵を誅殺すると言う大義だけではなく、行け行け!気分を漂わせている。
アカサカの首都、そして王宮はこの場所からそれほど離れていない。朝を少し過ぎたくらいには到着するはずだ。
俺の前に敵はいない。ただの木偶の棒と俺に破壊されるためだけの木と土でできた家があるだけだ。
「風撃孔」
俺の前を遮る邪魔なものは全て排除する。
「雷撃嵐」
「氷撃牢」
俺に刃向おうとするこの国の者は全てあの世に送ってやる。俺の母親を殺したこいつらの行く先は地獄だ。いい気味じゃないか。
深夜だと言うのに、眠気など感じやしない。
俺が正義なのだ。俺は神なのだ。悪はその罪を悔いながら、この世から消えてなくなればいい。
俺の気分は悪を誅殺する快感に満たされ、興奮の絶頂にあった。




