復讐の開始といこうじゃないか!
今、俺はあのアカサカとの戦いで焼き払った林に足を踏み入れていた。
星の瞬きと月明かりが俺を照らしだし、その影を地面に映し出している。俺の耳に届くのは遠くから聞こえる獣の鳴き声と虫の声だけだ。
この先には草原が広がり、そこはすでに宿営地と化していて、アカサカ侵攻のための兵力が集結しつつあった。そして、さらにその先には、アカサカとカマクラを隔てる壁が長々と連なって建造されていた。
星明りと月明かりだけだった俺の視界に、無数のかがり火が入ってきた。かがり火の周囲には警戒のための兵士が立っていて、そのさらに奥にはゆらゆらと宿営地が映し出されている。立っている兵士たちは、魔法使いではなく、腰につけた剣から戦士のようだ。
近づいてくる俺に気付いた二人の戦士たちが、駆け寄ってきた。
「止まれ。どこへ行く」
剣を抜き去り、俺を恫喝した。
俺は自分の向かう先と目的を大人しく説明するほど、機嫌がいい訳ではない。
「黙れ。俺は東山将人だ。
王の命により、アカサカを打ち破りにいく」
怒鳴り気味に言って、二人を風の力で吹き飛ばした。この程度なら、呪文を唱えるまでもない。
暗い草原に二人が倒れ込んだが、俺はそんな事に目もくれず進んでいく。
「待て」
俺の背後で怒気を含んだ声が聞こえた。
「待て。お前。東山と言えば、この作戦の最大戦力の魔法使いだ」
もう一人の男の声が聞こえてきた。
そうだ。その俺の邪魔をするんじゃない。
俺一人で、アカサカなんか滅ぼしてやる。
俺は背後の二人には関わらず、先を目指す。
「おーい。東山さんが到着した」
背後からした声に、戦士たちがわらわらと宿営地から出てきはじめた。
「作戦開始はまだだが、どうして?」
「上空を飛んで行ったものが、やはりアカサカの神の矢だったらしいから、その報復なんじゃないのか?」
俺は耳に届いてくる声を無視して、歩き続ける。
宿営地を抜け、俺の視界に真っ黒で大きな壁が迫ってきた。
これをぶち破ればアカサカへの侵攻開始である。
すでに、アカサカが神の矢で攻撃をかけてきた以上、戦争を仕掛けたのは俺と言う事にはならない。
「風撃孔」
俺は最大の力で、風撃を放った。
俺の耳に風が荒れ狂う轟音が届き、目の前の光景が大きくゆがみ始めた。
人口の建造物が崩れ去る音と共に、さっきまで視界を遮っていた真っ黒な障害物が無くなり、視界が開け、月と星のほのかな明りがその先からも届いた。
目の前の両国を遮っていた壁は、おおよそ俺が両手を広げた幅の4倍くらい広さで無くなり、俺の前の地面も大きくえぐれていた。その深さは俺の膝までくらいである。
その地面がえぐれている長さは、暗い夜の空間では視認する事はできない。
俺はそのえぐれた地面に足を踏み入れた。
「おおー」
「俺たちも続くぞ」
背後から喊声と人のざわめきが波のように、沸き起こってきた。その波に押された訳ではないが、俺の足が早まる。
目の前に広がるのは敵地。
今から滅ぼすべき敵、アカサカの土地である。
さあ、復讐の開始と行こうじゃないか。
泣きわめいて、許しを乞うても許してなんか、やるものか。
破壊された壁を抜け、一歩足を踏み入れた。




