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恐怖を与えてやればよかったんだ!

 近くの人たちが松明を持って、照らし出してくれる。

 浮き上がって行く残骸。

 松明の明かりがゆらゆらと、残骸が取り除かれた場所を照らし出す。

 俺の目が見開いた。

 人の腕。

 焼け焦げてはいない。白く細い腕。

 その腕がつながっているであろう人物の上に覆いかぶさっているのは箪笥だ。

 箪笥を浮き上がらせながら、残骸の山に足を踏み入れた。


 「わぁー」


 俺は絶叫しながら、倒れている人のところに駆け寄った。


 「お母さん、お母さん」


 俺は倒れている自分の母親を抱え起こした。

 血まみれの顔に、真っ赤に染まった服。

 俺の呼びかけに反応は無い。


 「きゃー」

 「わぁー」

 「逃げろ」


 母親を揺さぶっている俺の耳に悲鳴が届いている事に気付いた。

 辺りを見渡すと、さっきまでそのあたりに転がっていたり、俺が浮かしていたであろう残骸が吹き飛んだかのように、俺のいる場所を中心に飛び散っていた。

 さっきまで無事だったはずの通りを挟んだ街の一角の民家も粉々に吹き飛んでいて、取り囲んでいたやじ馬たちの多くが、残骸の下敷きになっている。

 俺の力が暴走したらしい。

 新たな地獄を俺が生み出した。

 その大きさは神の矢よりも、竜の炎撃弾よりも大きい。

 俺は自分がしでかした事の衝撃を全くと言っていいほど、感じていない。

 どうやら、俺の心は自分の母親の死で麻痺してしまったようだ。

 俺は周りには目もくれず、母親を抱きかかえて残骸の場所を離れはじめた。


 「東山君」

 神山先生が駆けつけてきた。


 神山先生は無事だったらしい。それは少しうれしい事だが、今の俺はそれを喜びに昇華できる余裕はない。


 「神の矢は狙った場所を攻撃できるんでしたよね。つまり、これは俺を狙った攻撃だったんですよ。

そして、俺は俺を狙う攻撃から大切な人を守れなかった」


 そう言って、母親を抱きかかえたまま廃墟となった街から、離れ始めた。そんな俺に神山先生がかわいそうにと寄り添っている。

 俺はふと立ち止まり、神山先生に顔を向けた。


 「先生、言ったよね。大切なものを守りたいなら、圧倒する力で敵が刃向う事すら考えられなくすればいいって」

 「それは」


 神山先生が困惑の表情で言った。

 俺が抱きかかえていた母親を差し出すと、反射的に神山先生は俺の母親を受け取ってくれた。


 「そうですよね。そのとおりですよね。

 俺に逆らえないくらいの恐怖を与えてやればよかったんだ。もっと早く」


 俺は自分のバカさ加減に呆れながら言った。どうして、もっと早くそうしなかったのか、アカサカだろうとイズモだろうと俺が滅ぼしていれば、こんな事にはならなかったんだ。

 俺の心の中に湧き上がる感情は怒り。それはアカサカへの怒りだけじゃない。自分自身への怒りも入り混じっていた。


「どうする気なの?

 落ち着きなさい」


 神山先生が厳しい顔つきで言った。


 「決まっているじゃないですか。

 アカサカの奴らに本当の恐怖と言うものを教えてやるんじゃないですか」

 「待ちなさい」


 アカサカとの国境に向かって、歩き始めようとした俺を、まだ神山先生が引き留めようとした。


 「アカサカ攻略は決定事項ですよ。それに俺が参加することも決まっている。

 アカサカは交渉の途中だと言うのに、攻撃を仕掛けてきたんですよ。今から、俺たちが反撃してもいいじゃないですか」


 睨み付けるような目で言った俺の気迫に押されたのか、それとも俺の言葉が正しくて反論できなかったのかは分からないが、神山先生は何も言い返してこなかった。

 俺は再び国境を目指して歩き始めた。

 アカサカの奴らを滅ぼしてやるる。それも、ただ滅ぼすのではなく圧倒的な力で、無力感と恐怖の中で。

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