神の矢の攻撃
俺と神山先生はあの馬車に乗って、俺たちの街を目指している。そう飛ばしていない馬車のため、すでに途中で一泊している。俺たちだけが先に帰っても、前線の戦闘態勢は整えられない。それなら、体力を温存するため、ゆっくりと馬車に乗って帰ればよい。そう言う王の取り計らいである。とは言え、ずっと座って揺られていると体のあちこちが痛くなってくる。魔法で一気に移動するのとどちらがよいか分からない。
アカサカが提示した交渉の最終期限は明後日に迫っている。明後日にはまた神の矢と言う謎の魔具の攻撃が開始される。神の矢は地上に落下し接触すると同時に大爆発を起こして、あたりを焦土に変えるらしい。それには金属が使われているらしいが、詳しい事は分かっていない。
馬車から見える街の風景。陽は落ちかけていて、家路を急ぐ人たちは赤みを帯びた空に合わせて、赤っぽく映し出されている。見える街並みの風景も、すでに俺の記憶の中にあるものになっていた。
「もうすぐですね」
「そうね」
俺は早く家に帰りたい。そんな気分だ。アカサカ侵攻作戦が始まれば、またしばらくは家に帰れなくなるだろう。今日は家に帰って、母親の顔を見ながら、ゆっくりと話をしたい。早く、早く。特に意味は無いが、そう思っていた。俺にそんな思いをさせるのは、する事がないからだ。神山先生との話題もすでに尽きていて、俺の耳に届けられる音は、馬車に取り付けられている車輪が奏でる音と、馬車をひく馬の蹄の音だけだった。
「あれは何?」
「見て、見て」
「お尻から火を噴いてる」
そんな馬車の中の雰囲気を破る声が、聞こえてきた。最初に反応したのは神山先生だった。素早く席を立ったかと思うと、馬車のドアを開いて、辺りに目をやった。俺も遅ればせながら、神山先生の体越しに外の様子をうかがった。
神山先生の体の隙間から見える外の人たちは空を見上げている。
それに気付いた神山先生が一度空を見上げたかと思うと、一言叫んで馬車から飛び降りた。
「止めて」
突然、轡を思いっきり引っ張られた馬がいななきを上げながら止まった。その反動で、俺は馬車の中で酔っぱらいのようにふらついた。馬車が停車するとドアから、俺も飛び降りた。
「あれが神の矢?
どうして、今」
空を見上げながら、神山先生がつぶやいた。俺の心の中には、その言葉に怒りだけでなく、恐怖だけでもなく、驚きだけでもない複雑な混沌とした感情が湧き上がった。空を見上げた俺の目の中で、今までに見た事ないものが空高く飛翔していた。
先が尖った棒のようなものが、その後部から炎を吹き出して空を一直線に移動している。その棒状の部分にあたった陽光が反射していて、その作りは何か金属っぽい感じだ。
「アカサカからの交渉期限は明後日だったんじゃないんですか?」
上ずり気味の声で、神山先生の両肩に手をあてて、ゆすりながらたずねた。
「そのはずだったんだけど、何があったのかしら」
神山先生の声が終わるか終わらないかの頃、俺の耳に聞きなれない音が聞こえ始めた。
北の空から?
音は段々近くなってくる。
ごーっと言う初めて聞く音と共に、新たな神の矢が姿を現した。
今度はさっきの神の矢とは違い、低い位置を飛んでいて、一瞬の内に俺たちの視界を通り過ぎて行った。
かなりの大きさであって、人が使う矢なんてものの大きさではない。全く未知の魔具で、まさしくその大きさは巨大な神が手にする矢である。
アカサカがこんなものを扱えるとは脅威だ。
そう思った瞬間、巨大な爆発音と炎と黒煙が上がった。陽光が地平の彼方に向かい、闇が近づく空間を再び明るく照らし出す災厄の炎。
「遠くないわね。私たちの街の中みたいだけど」
神山先生が炎の方角を見つめて言った。俺はその方角に、両手の拳にぎゅっと力が入った。




