王宮、到着!
神山先生がむちゃくちゃ飛ばしているので、楽しく浮いていると言うより、足元と背中から受ける強力な風で、体は前面の空気に押し付けられ、目が乾き、息も辛い中、空の上を時間が過ぎるのをただただ我慢している。そんな感じだ。足元に目を向けると、その風景は田園、街、山とせわしなく変わって行っている。太陽はすでに大きく傾いていて、空には闇が迫り始め、気温も下がり始めている。このままでは、体温まで奪われかねない。
「あとどのくらいですか?」
顔に打ち付ける風がきつくて、うまく喋れたかどうかもよく分からない。
「そうね。あともう少し、太陽があの向こうの山に落ちる頃かな」
何とかそう聞き取れた俺が、太陽に目を向けた。すでに沈みかけている太陽は昼間のそれと違い、弱々しく赤みを帯びた光を空に向けて放っていて、その最下部は山の頂に差し掛かっている。
と言うことは、今眼下に見える街並みはこの国の首都なのかも知れない。大きな通りが碁盤の目のように縦横に走っていて、整然としたつくりだ。しかも、その大きさときたら、とてつもなく広く、はるか先まで街が続いていた。
やがて、高度が下がり始めた。はるか先にようやく巨大な城郭を有した王宮が見えてきた。
広過ぎ!
俺は初めて見る王宮の広さに目をむかずにいられなかった。その大半は木々や池で作られた庭園のようだ。アカサカからの神の矢の被害を受けた場所はどこかと、見渡してみたが、近づく闇が光を遠ざけていて、全く分からなかった。
神山先生が王宮を取り巻く、堀にかけられた橋の上に着地した。その前には閉ざされた大きな門があって、門を挟み込むように左右にかがり火がたかれ、かがり火の前には門番と思しき二人の男が腰に剣をさし、手には槍を構えて立っていた。
神山先生は着地すると同時に、その門番に向かって静かに歩き始めた。近づく神山先生に警戒したのか、男たちの顔つきが変わった。そして、槍を握る手に力がこもったのか、少し穂先が前傾し、きらりと輝いた。
「王立北魔法学院の神山です。東山将人を連れてまいりました」
神山先生は門番たちに近づくのをやめて、そう言うと跪いた。俺は神山先生の後を少し遅れて歩いていたが、その姿に俺もしなければならないんじゃね?と思い、慌てて跪いた。
「話は聞いている」
男の一人はそう言うと、門内に向かって、声を張り上げた。
「東山将人が到着した。
開門!」
大きな門が軋むような音を立てながら、ゆっくりと王宮の内側に開いて行った。その中には多くの兵士たちが立っていた。その主力は魔法使いではなく、戦士らしく、みな剣を携えていた。
そして、その兵たちが囲む中心に馬車が止まっていた。
一人の戦士がその馬車の扉を開けた。これに乗れ。そう言う事だろう。神山先生が近づいて行く。戦士が掲げた松明が馬車の姿を薄暗くなった空間に浮かび上がらせた。
外側は磨き上げられた黒い塗装は漆を厚く塗り固めた感じで、いくつもの紋様が金で飾り付けられている。これまでにこんな立派な馬車は見たことがない。さすがに王の持ち物である。そして、開いた扉からのぞく、内装も赤いじゅうたんが床に敷き詰められていて、靴をぬぐのか?と俺を迷わせるじゃないか。
神山先生はそのままずけずけと中に乗り込んだ。後で怒られるんじゃねぇだろうな?そう言う不安を抱きながら、俺も後に続いて乗り込んだ。
3,4人は座れそうな椅子が前後についている。俺と神山先生は後ろの座席に、少し距離をおいて座った。ふわふわした感触が気持ちいい。二人が座ると、扉は閉じられ、馬車が動き出した。
「あのう。これから王に会うんですよね?
礼儀作法って言うか、会った時にどうしたらいいのかとか、あるんですか?」
「そうねぇ。王様を前にしたら、さっきの門のところのように跪いて、視線を落とす。そして、王様が面を上げよと言うまで、その姿勢でじっとしているってくらいかな」
「分かりました。
ところで、私に用と言うのは、やっぱり戦争ですか?」
「詳しい話は学校にも届いていないわ。でも、それ以外ありえないでしょうね。
王宮が攻撃を受けたんだから、その報復ってとこなんじゃない?」
「報復ですか」
「へたしたら、アカサカの王宮まで攻め込む気かも知れないわね」
うんざりだ。やられたから、やりかえす。子供の喧嘩か?
もっと、崇高な考えはないのか?




