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大切なものを守るには?

 「きゃー」

 「逃げろ!」

 「風集壁」


 不覚だった。敵が他にもいないとは限らない。遅ればせながら、俺は自分の周りに空気の壁を張り巡らせた。

 敵はどこだ?

 犠牲者はいるのか?

 俺の視線が辺りを探索始める。

 突然の出来事に、土壁の周りに集まっていたやじ馬たちは恐怖に顔をひきつらせ、逃げはじめている。

 俺と土壁の途中で地面にうつぶせに倒れている者がいる。

 俺の脳が情報処理を始めた。

 長く伸びた黒い髪。

 短いチェックのスカートは俺の学校の制服。

 そこから伸びたすらりとした足には黒いハイソックス。

 白い制服に覆われた地面には真っ赤な血が広がり始めていて、徐々に白くまぶしい制服を真っ赤な色が浸食し始めている。


 「西川先輩」


 俺は二人の間に防御の壁を作りながら、西川先輩のところに駆け寄った。


 「ごめんね。戻ってきちゃった。

 あなたは大丈夫だった?」


 口から出てくる血で頬を濡らしながら、西川先輩がうつろな目で俺に言った。こんな状況でも、俺を心配してくれるなんて。


 「早く、早くお医者さんに」


 俺は西川先輩を抱きかかえた。白い制服の胸からお腹のあたりに3つの穴があき、そこから血があふれ出していた。

 あとの事は覚えていない。俺が倒した三人の敵は跡形もなく、消え去っていたらしい。きっと、西川先輩を攻撃した奴らが回収して行ったんだろう。それほど、あの鎧は調べられたくない貴重な魔具なんだろう。


 西川先輩は病院で入院している。本殿の火事で動揺している俺の背後を狙う新たな敵に気付いた西川先輩が敵の攻撃の軸線上に飛び出して俺をかばったらしい。

 きっと、風集壁も間に合わないタイミングだったんだろう。

 おまぬけな俺。西川先輩に詫びても詫びようがない。

 ただ、二つの変化があった。

 一つは俺たちを襲うアカサカからの敵が現れなくなった事だ。正体が俺だと分かった。それだけで満足したのか、それとも容易に倒せないとふんだからなのかは分からないし、またいつ攻撃が始まるのかも分からなかったが。

 もう一つは神山先生との特訓が再開された事だ。俺が火天や雷神と接触し、支配下に置いた事を告げると、神山先生は俺にはやはりそう言う特別な能力が隠されていたんだと納得し、全ての神を従えるよう指示された。そして、俺は神山先生の指導の下、魔法の力の源である全ての神の知識、つまり弱点や戦い方を頭の中に植え付けられ、全ての神との戦いを繰り返させられた。


 「これで、全てが終わったわね」


 神山先生がにこやかな表情で言った。最初の頃は勝てたり、勝てなかったりだったが、手に入れた神の力が増す度に、俺は神との戦いを優位に進める事ができるようになっていっていた。もちろん、神山先生が教えてくれた敵、と言っても神様な訳だが、その弱点のようなものを突いた事も大きな一因ではあるが。


 「はい」


 俺は素直に頷いてみせたが、心の底には疑問があった。


 「教えてもらっていいでしょうか?」

 「うん?何かな?

 もう私があなたに教えるような事無いと思うんだけど」


 にこりとした笑顔はある意味神レベルだ。


 「神の門の向こうに封印されている力って、どんなものなんでしょうか?

 今、俺は神山先生の指導によって、全ての神の力を手に入れました。

 これをもしのぐものなのでしょうか?」


 今の俺の力よりも劣るものなら、もはや意味の無い遺物としか考えられない。だが、それ以上だとするなら、邪な野望を抱く者に渡してはならない。神山先生は真剣な顔つきで、首を横に振った。


 「ごめんね。それは私には分からないわ」

 「そうですよね。100年以上も前の事ですし。

 あ、でも、何かそれに関係する記封人は無いのですか?」


 俺の問いかけに、一瞬目歩見開いた後、やはり首を横に振った。


 「無いわね。それに、もしあったとしても、その力を記憶の光景から推測することはたぶん無理ね。

 ただ、神の門を開くとしたら、それはあなたがすべき事だと思うの」


 なんでなんだ?

 そう思った事を神山先生は表情から読み取ったようで、俺がそれを口に出す前に付け加えた。


 「理由は無いわよ。そんな気がするだけ」

 「そうですか。

 では、もう一つ教えて欲しいんですけど、先生は言いましたよね。

 大切なものは守るためには、俺の本当の力が必要だと」


 俺が一度言葉をここで止めて、神山先生の反応を待った。神山先生は俺の問いに、静かに頷いてみせてくれた。


 「俺、西川先輩を守れませんでした。

 本当に力を手に入れれば、大切なものを守れるものなんでしょうか?」

 「そうね。それの答えは二つかな。

 一つは君が守りたいものに注力し続ける」


 その言葉は俺に突き刺さった。あの時、俺の注意が緩んでいた。その根底にあるのは自分の力への自惚れの芽だ。だが、それが無かったとしても、ずっと守りたい人と一緒にいる訳にもいかない。ましてや、守りたい人は一人なんかじゃない。


 「もう一つは、圧倒する力で敵が刃向う事すら考えなくさせる事」

 「うーん。そうですか。

 それって、恐怖による支配みたいなものですよね」


 どちらも俺にはできそうにない。そんな気がした。


 「とにかく、行こうか」


 神山先生が俺に言った。

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