油断
背後から奴らの魔法独特の「ばーん」と言う音が絶え間なく続いている。道の真ん中を走っている西川先輩の幻影に向けて、奴らの炎撃弾を放っているのだろう。
民家沿いに走る俺の目の前を塞ぐように、土壁が迫ってくる。
「風撃孔」
かなり手加減して、俺は目の前の土壁に風撃孔を放った。
目の前の土壁が崩れ去り、その向こうにある廃寺の朽ちかけて、今にも崩れ落ちそうな建物の一部が姿を現した。その前には少し広い空間がある。
俺が崩れた土壁の隙間から建物の中に入ると、すぐに奴らも中に入ってきた。
光制歪を解くと、奴らは再び立ち止まり、辺りを見渡している。
「お前らの探している相手は、この俺だ」
俺の大きな声に、奴らは振り向いた。その表情は怪訝さでいっぱいだ。今にも俺の言葉が否定されそうなくらい。
「これが証拠だ
雷撃嵐」
天空から舞い降りる竜のように、雷撃はいびつに曲がりながら空を引き裂き、雷光と雷鳴が廃寺を片時も休むことなく包み込んだ。
地上にいる奴らの体をまばゆい光と衝撃が包み込む。
俺はまぶしさに耐えながら、奴らに目を向けていた。
雷撃が地上に吸い込まれ、奴らを覆っていた雷撃の光が薄らいでいく。
そこに立っているのはやはりあのアカサカの敵と同じ、金属の鎧で身を固めた謎の敵だった。
「やはりアカサカの回し者か」
あの時と同じで、一撃や二撃程度で倒れやしない。
今度こそ、ここで倒して、あの鎧の謎を解き明かしてやる。
雷撃は止まず奴らを襲い続ける。
一体が膝を折り、地面に崩れ落ちた。
「やった」
そう思った時、少し気が緩んだのか、雷撃の範囲がずれて、廃寺の本堂を直撃した。
大音響と共に炎を上げ、崩れ落ちる本堂。
「げっ!」
いくら廃寺と言えど、これは許される訳はない。
とは言え、今俺は気を抜く訳にはいかない。
残りの二体に神経を集中させた。
三体に個体差はあまりないらしく、すぐに残りの二体も地面に崩れ落ちた。
ようやく敵を殲滅させたが、廃寺の本殿の炎は勢いを増して、本殿全てが炎の中に取り込まれている。
まずい。一気に消すしかない。
「水撃牢」
突如現れた大量の水が廃寺の本殿を包み込む。たった今まで真っ赤な炎と黒煙を上げていた廃寺の本殿は水に取り囲まれ、炎と黒煙から解放された。
元々薄汚れていた本殿だったが、今は炭化した屋根に柱、すすで汚れた壁が黒く塗りあげていた。取り囲む水の中で、ゆらゆらと揺らめく本殿。
とりあえず、消したか。
そう思い、額ににじみ出ている冷や汗を拭きとった時、廃寺の本殿の揺らめきがただの揺らめきでない事に気付いた。
巨大な水の圧力。水に対する木材の浮力。
本堂の構造がその二つのせめぎあいで崩壊しかかっている。
それに気付いた時は遅かった。
水撃牢を慌てて解除すると同時に、本堂は崩れ去り、あたりに炭化した木々、黒ずみ崩落した壁や屋根瓦をあたりにまき散らして、その最期の時を迎えた。
とっさに辺りを見渡した。誰も見ていなければ、逃げると言う手も。
しかし、俺が空けた土壁の穴の向こうには、異変に気づいたやじ馬たちが俺の方を見ていた。
「えへっ」
俺は右手で自分の頭をこつんとして、かわいこぶってみた。やじ馬たちの視線は一気に冷たくなった。
まずいじゃないか。
「あー、これはその。
アカサカからの敵と戦ったためで、ほら」
俺から少し離れた地面に倒れ込んでいる三人の敵を指さした。
頭から指先、胴体、腰、足のつま先まで、全てが金属の鎧で覆われいる。
ほとんど体に密着しているとしか言えない細さ。
これは一体、どんな魔具なんだ。
そう思った時、俺の耳に大きな音と人の声が届いた。
バーン。バーン。バーン。
「危ない」
なんだ?
そう思って、俺が声のした方向に目を向けようとした時、人々の悲鳴が響いた。




